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一章
〈14〉最後の学園祭がはじまります
しおりを挟むほどなくして、王立学園の学園祭当日がやってきた。初日の目玉イベントは――剣術大会。王立学園には、財が惜しみなく注ぎ込まれた巨大な円形闘技場がある。
ロベリアは、友人たちとシュベットの応援に来ていた。
「みんな! ウチのために応援に来てくれてありがとな! 黄色い声援は任せたよ」
ロベリアたちが座るテントで、シュベットが快活に笑う。
「なんだか私の方がどきどきしてきたわ……。シュベットは全然いつも通りね。緊張とかしないの?」
「はは、ウチは緊張とかあんまししない質なんだ。このシュベット様の檜舞台、しかと目に焼き付けたまえ!」
「ふふ。期待しているわ」
彼女の飄々とした様子には、感心させられる。実力は確かなのに、いつも笑顔を絶やさず、驕らない姿勢は好感が持てる。
まもなく、一戦目が始まった。
「――って、あの方、王太子殿下じゃない? 剣術学部生でもないのに、どうして出場されてるのよ」
闘技場の中央で剣を構えているマティアスの姿に、タイスが目を見張った。彼が空中で剣を振るう度に、試合前にも関わらず女性たちから歓声が上がる。
すると、ナターシャが誇らしげに言った。
「マティアス様は、学問だけでなく武術にも長けておられるのです! すっごくお強いんですよ……!」
(ふ。なんでナターシャが自慢げなのよ。……可愛い)
「あ! 試合が始まりますよ!」
視線を闘技場に戻す。ギンッ……と剣が交わる金属音が強烈に響き渡る。
試合の幕開けと共に、会場の空気が一変した。先程まで歓声を上げていた女性たちも息を飲み、拮抗し合う二人の青年を見つめる。
ギリギリと悲鳴をあげる剣。拮抗状態がしばらく続く。鉄製の模造剣が幾度となくぶつかり合い、嫌な音が漏れ聞こえる。
瞬間、マティアスの一撃で相手の剣が弾かれる。彼は相手の首元に刃先を添えた。糸が張りつめたような緊迫した空気が流れる。
非の打ち所がない圧巻の剣技に圧倒され、しばらくの静寂が続いた後で、どっと歓声が沸いた。――マティアスの勝利だ。
「……凄いわ。文武両道とは正しく彼のことね。シュベットったら、あんな強者相手に大丈夫かしら」
タイスはマティアスの戦いぶりに感嘆しつつ、不安そうに呟いた。
マティアスが悠然と舞台から降りていくのと同時に、シュベットが現れた。タイスの不安をよそに、こちらに調子よく目配せした。呑気なものである。
(……本当、あの子は肝が据わってるわね)
しかし、いつもはヘラヘラしている彼女だが、剣を構えた瞬間に顔つきが変わった。昂然と胸を張り、凛とした佇まいだ。剣術学部は、真の実力至上主義で、男女関係なく剣を交える。彼女は、自分より大きな図体をした男を前にしても、一切怯むことなく、その瞳に闘志を燃やしている。
試合が始まった。
まるで、舞を見ているかのように、流麗な剣さばきだった。細い等身をひらめかせ、しなやかな動きで相手を圧倒する。彼女の素早い攻撃が相手の隙をつき、相手は防御にばかり徹している。
キン……という金属が掠れる音が響き、相手の剣が弾かれる。タイスやロベリアが心配するまでもなく、彼女は余裕さえ見せながら勝利を収めた。
「さすがシュベットね……。毎年のことだけれど、いざ目にすると圧倒されるわ」
「ええ。普段とのギャップもあって、危うく恋しちゃうところだったわ」
ロベリアはタイスとそんな会話をしつつ、シュベットの見事な勇姿に拍手を送った。
◇◇◇
「おめでとうシュベット! 格好良かったわ……って、どうしたの? 顔色が悪いわ」
初戦を終えたシュベットは応援席へ来た。しかし、試合に買ったというのに、随分と辛気臭い顔をしている。
「……どうしよう、ロベリア様……! どうしよう、ウチ……っ」
狼狽して目を泳がせている彼女を宥めて言う。
「シュベット、落ち着いてゆっくり話しなさい。何があったっていうのよ……?」
「失くしたんだ……」
「何を?」
「ペンダント。……亡くなった母の形見なんだ」
眉を寄せ俯いているシュベット。
「大丈夫。私たちが手分けして探すから、あなたは試合に集中しなさい」
「……ありがとう、ロベリア様……」
「ペンダントの特徴は? 最後にどこで見たとか、心当たりはない?」
「青みがかった石が嵌め込まれたペンダントだよ。首紐は銀素材で……心当たりか……。控え室で外したとき、確かにロッカーの上に置いたはずなんだけど……」
彼女の言葉に、ポリーナが眉をひそめる。
「もしかしたら、盗まれた――なんてことも考えられるよね」
シュベットは非常に目立つ存在だ。ナターシャがユーリやマティアスから寵愛を受けて嫉妬されたように、シュベットも実力を妬まれて嫌がらせを受けることが、これまでにも多々あった。
「とりあえず、皆で探しに行きましょう。シュベットは試合に戻りなさい」
「本当に……みんな、ありがとう……」
「水臭いわね。困ったときはお互い様よ」
シュベットを闘技場に残し、ロベリアたちは彼女のペンダント探しを開始したのだった。
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