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第2章 悪役令嬢と本物のヒロイン
34 見てはいけないものを見てしまいました (2)
しおりを挟むギルフォードにとって、シャーロットが自分の運命の相手ではなかった、といのは今は希望に過ぎない。「運命の紋章」についての伝説が偽りであって欲しいという願いは、ジェナーも同じだ。
ジェナーが思い出せるのは、ゲームの舞台となるこの世界では、運命で結ばれた男女に、稀に対になる紋章が身体のどこかに現れる――ということ。そして、紋章はその人の命そのものであり、精神に対して絶対的な効力がある、ということだ。
ギルフォードの例で、後者は否定されつつある。しかしまだ、真相に辿り着くには道は遠いような気がした。
「私ね、たとえ運命で結ばれていなかったとしても、ギルのこと、好きよ」
「運命があるのかは知りませんが、俺にとってお嬢様は世界の全てです。それだけは覆りようのない事実です」
「……せ、世界…………?」
「すみません、宇宙――と訂正させていただきます」
愛情表現の規模が大きくていささか面食らってしまった。
シャーロットについての相談という目的を果たし、ギルフォードとしばしの歓談を楽しんでいると、ソファの下、ちょうどジェナーの足元にくしゃくしゃに丸められた紙を見つけた。
(あら……? これ、便箋かしら)
おもむろにそれを拾い上げて広げてみると……。
『拝啓
陽春のみぎり、お嬢様はお健やかにお過ごしでしょうか。近頃は新緑がまぶしく、若葉のみどりにあなたの美しい瞳を思い浮かべては想いを募らせております。
お嬢様に会えない一日が、とても長く感じられます。しかしきっと、あなたに会えない日々を耐え忍ぶ俺の気持ちなど、知る由もないのでしょう。そのような鈍感なところも好ましく思っておりますが。
お嬢様のことが大好きです。そのお姿も、お人柄も全てが愛おしくてたまりません。毎秒ごとにお慕いしております。
精巧な陶器のような白いお肌も、長く艶やかな御髪も、薄すぎず、厚すぎず形の整った唇も。ですが、お嬢様の中で最も好きなのは、瞳です。あなたの清廉高潔さを示すかの如く鮮やかなエメラルド色の瞳に俺が何度惹かれてきたことでしょう。お嬢様のお人柄の素晴らしさでいえば――』
ジェナーはごくんと喉を鳴らした。
(な、ななにこの胃もたれしそうなラブレターは…………!?)
ジェナーは、手紙に流麗な筆跡で綴られた愛の言葉に驚愕して、わなわなと震えた。
いつもジェナーの元にギルフォードから送られてきた手紙といえば、淡々と要件だけが記されたもの。こんな詩的で長い文章は、まるで心当たりがない。
「それ、返していただけますか」
ギルフォードはジェナーの手から便箋をひょいと抜き取り、手で丸めてゴミ箱に放った。
「え、えっと……ギルフォードさんたら、意外とポ、ポエマーなのね…………?」
「…………」
ギルフォードはにこにこと愛想良く微笑んでいるが、その目は全く笑っていない。なんというか、有無を言わさない感じ。
ジェナーは、手紙についてそれ以上深く追及することはやめた。
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