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第2章 悪役令嬢と本物のヒロイン
32 ギルフォード攻略への条件 (2)
しおりを挟む放課後になり、さっそく勉強会についてギルフォードに相談するため、校内で彼を探していると、ちょうど生徒会室から出ていくところに遭遇した。
「ギル……! ちょっと相談があるのだけど、今少し時間いいかしら?」
「はい、今から寄宿舎に戻るところでした。……立ち話もなんですし、どこか座れる場所を探しましょう」
「なら、あなたの部屋でいいじゃない? ちょうど戻るところだったのでしょう?」
「……」
ジェナーの提案に、ギルフォードはいぶかしげに眉を寄せた。
「男性の部屋に抵抗なく上がろうとするなんて、お嬢様は不用心ではありませんか」
「ふふ、ギルだけよ」
「またすぐそうやって調子の良いことをおっしゃるんですから」
ぶつぶつと不満を零しつつも、彼は満更でもない様子だった。
ギルフォードに案内され、寄宿舎の彼の部屋を訪れた。ジェナーは学院近くにタウンハウスを借りて、馬車の送迎で通学しているため、寮を訪れたのはこれが初めてだ。
二階建てのモダンチックな外装の建物で、貴族の血縁が多く下宿しているだけあって造りが立派である。ギルフォードの部屋もなかなか広かったが、物が少なくとにかく飾り気がない。ギルフォードらしい部屋だ。
「物色しても面白いものはありませんよ」
ギルフォードはお茶を用意しながら、部屋の中をきょろきょろ見回しているジェナーに言った。
「…………面白いもの、見つけちゃったんだけど。これ、何……?」
壁に飾られた3枚の額縁を指さして言った。シンプルな部屋の中で一際目を引くのは、派手な額縁。その中には、見覚えのあるハンカチーフが収められている。
「お嬢様からいただいたものですね」
これは正に、ギルフォードがエイデン家を出発した朝に贈った刺繍入りのハンカチだ。ギルフォードはなんでもないことのように淡々と答えたが、芸術作品のような扱いにジェナーは困惑した。
そう言えば、これらを渡した時に、家宝にするだの、縁に入れて飾るだのと、のたまっていた気がする。どうやら冗談ではなかったらしい。
「使ってもらえないというのも、何だか寂しい気がするけど、大切にしてくれているようで嬉しいわ」
「いただいてからしばらくは使っていたんですが、もう手元から離れることがないように、飾っておくことにしたんです」
――もう、という言葉に思い出したのは、シャーロットのことだった。いつぞやのお茶会で、彼女はギルフォードから貰ったと言っていたが、やはり違ったようだ。彼女が貰ったとわざわざ嘘をついた意図についてはあまり考えたくはない。
(……それにしても)
ジェナーはハンカチをじっと眺めた。2年も前の自作だが、今見てみると何とも珍妙な作品だ。
「――クラゲ?」
ジェナーが呟くと、ギルフォードはぶっ、と吹き出して肩を震わせた。
「猫だったんじゃないですか。お嬢様が分からなくては、もうどうしようもないですね。ふっ……ふふ。画伯…………」
ギルフォードのティーポットを持つ手がぶるぶると震え、注ぎ口からカップではなくテーブルの上にお茶が注がれていく。
(完全に馬鹿にされてる……)
ジェナーを小馬鹿にしたギルフォードの様子を、遠い目で眺めた。
……猫、だっただろうか。
顔を寄せてじっくりと観察してみる。しかし、どこが顔でどこが胴体なのかも分からないし、何を意図して作ったのか全くもって思い出せない画伯ジェナーであった。
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