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第2章 悪役令嬢と本物のヒロイン
28 わがままは言いません (4)
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ジェラルドは、意外そうにジェナーの話を聞いている。
「……私を冷たい女だとお思いになりましたか?」
自嘲気味に笑って尋ねると、ジェラルドは首を振った。
「エイデン嬢は、物分りの良い人だね」
「それが唯一の取り柄です」
「はは、別に褒めているわけじゃないけど」
ジェラルドはそう言って微笑むと、シャーロットたちの方へ目線をやった。その表情から感情を読み取ることはできない。
伏し目がちな瞳には長いまつ毛が影を落としており、数多の女性を虜にしてきたであろう色香を漂わせている。
(……これが家柄も良く武術の天才だなんて、天は二物も三物も与えちゃうみたいね。さすがは攻略対象キャラクター……)
ジェナーがぼんやりと、彼の怜悧な横顔を眺めていると、ジェラルドの視線がシャーロットたちからジェナーに移され、薄緑の瞳と目が合った。
「君さ、縁談の話をずっと断ってるんだってね?」
「!」
ジェナーは一瞬どきっとして固まった。
「どうしてそれを……」
「そう警戒しなくなっていい。ただの興味で聞いてる」
ジェナーは、自分を試すような意図はなく、純粋な好奇心による問いなのだと理解した。それにしても、ジェラルドはジェナーのことをよく調べているようだ。
ジェラルドの指摘通り、ジェナーは自分に来る縁談の話を断り続けている。17歳にもなれば、この国では婚約者がいてもおかしくない年齢だ。エイデン家にはジェナーの上に兄が2人おり、家の後継には問題ない上、両親はジェナーに自由恋愛を望んでくれている。――ということで、ジェナーはギルフォードの自立を待って、数々の見合い話を拒否しているのだ。
「確かに、それは事実です」
「名だたる家からご指名されてるって聞いたけど、ホント? 玉の輿もできるはずなのに、平民でなんの財産も地位も名誉もないギルフォードを待ち続けている。健気だねえ」
「…………」
ギルフォードはそれを知らない。察しの良い彼なら何か気づいているかもしれないが、彼に責任を感じさせないように黙っているつもりだ。もし彼がジェナーを選ばずとも、そのときは新たに将来を考えればいい。
「そのことは、ギルフォードには黙っていてください。彼にプレッシャーをかけたくはないので」
ジェラルドは悪戯に口角を上げて、ふうん、と小さく呟いた。
「……なんとなくだけど、ギルフォードの気持ちが少し分かった気がするよ」
「…………?」
脈略のない返事に、ジェナーは首を傾げた。やはりこのジェラルド・ヒューズという青年は、何を考えているのかつくづくよく分からない。
「……私を冷たい女だとお思いになりましたか?」
自嘲気味に笑って尋ねると、ジェラルドは首を振った。
「エイデン嬢は、物分りの良い人だね」
「それが唯一の取り柄です」
「はは、別に褒めているわけじゃないけど」
ジェラルドはそう言って微笑むと、シャーロットたちの方へ目線をやった。その表情から感情を読み取ることはできない。
伏し目がちな瞳には長いまつ毛が影を落としており、数多の女性を虜にしてきたであろう色香を漂わせている。
(……これが家柄も良く武術の天才だなんて、天は二物も三物も与えちゃうみたいね。さすがは攻略対象キャラクター……)
ジェナーがぼんやりと、彼の怜悧な横顔を眺めていると、ジェラルドの視線がシャーロットたちからジェナーに移され、薄緑の瞳と目が合った。
「君さ、縁談の話をずっと断ってるんだってね?」
「!」
ジェナーは一瞬どきっとして固まった。
「どうしてそれを……」
「そう警戒しなくなっていい。ただの興味で聞いてる」
ジェナーは、自分を試すような意図はなく、純粋な好奇心による問いなのだと理解した。それにしても、ジェラルドはジェナーのことをよく調べているようだ。
ジェラルドの指摘通り、ジェナーは自分に来る縁談の話を断り続けている。17歳にもなれば、この国では婚約者がいてもおかしくない年齢だ。エイデン家にはジェナーの上に兄が2人おり、家の後継には問題ない上、両親はジェナーに自由恋愛を望んでくれている。――ということで、ジェナーはギルフォードの自立を待って、数々の見合い話を拒否しているのだ。
「確かに、それは事実です」
「名だたる家からご指名されてるって聞いたけど、ホント? 玉の輿もできるはずなのに、平民でなんの財産も地位も名誉もないギルフォードを待ち続けている。健気だねえ」
「…………」
ギルフォードはそれを知らない。察しの良い彼なら何か気づいているかもしれないが、彼に責任を感じさせないように黙っているつもりだ。もし彼がジェナーを選ばずとも、そのときは新たに将来を考えればいい。
「そのことは、ギルフォードには黙っていてください。彼にプレッシャーをかけたくはないので」
ジェラルドは悪戯に口角を上げて、ふうん、と小さく呟いた。
「……なんとなくだけど、ギルフォードの気持ちが少し分かった気がするよ」
「…………?」
脈略のない返事に、ジェナーは首を傾げた。やはりこのジェラルド・ヒューズという青年は、何を考えているのかつくづくよく分からない。
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