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第2章 悪役令嬢と本物のヒロイン
25 わがままは言いません (1)
しおりを挟むギルフォードから紹介を受けたジェラルドは、にっこりと愛想良く微笑んで言う。
「初めまして、エイデン嬢。ギルフォードから君の話はよく聞いているよ」
「初めまして、ジェラルド様。私も、ジェラルド様の剣の腕前、噂でかねがね伺っております」
「はは、光栄なことだね」
色気を漂わせ不敵に微笑む、黒髪で薄緑の瞳をした彼は『運命の紋章』の――攻略対象の内の一人だ。ギルフォードは感情を表に出すタイプだが、ジェラルドは何を考えているか分からない。掴みどころがなく、浮ついていそうな雰囲気なのに、剣の天才というギャップのあるキャラクターだ。やはり、攻略対象ともなると天賦の才という特典は付き物である。
ゲーム内でジェラルドは、ギルフォードの気の置けない親友だった。ギルフォードルートで彼は、ギルフォードにもシャーロットにも気を利かせて、協力的な一面を見せていたのを覚えている。
(……悪い人じゃ、ないのよね?)
ジェラルドは、ジェナーを上から下まで値踏みするようにじっくりと眺め、ふうん、と意味ありげに呟いた。
(わ、悪い人じゃ……ないんだよね……?)
彼が何を考えているのか全く予想がつかない。その呟きにどんな意図が込められているのか思案していると、ギルフォードがジェラルドに言った。
「あまりお嬢様はジロジロと見ないでいただけますか。あなたの軽薄さがお嬢様に伝染っては困りますので」
「僕のことバイキンみたいに言わないでくれよ。酷いなぁ」
ジェラルドはヘラヘラと笑いながら両手を掲げ、ジェナーへの敵意がないこと、自らの身の潔白をギルフォードに示して見せた。しかし、ギルフォードは眉を寄せながらジェラルドに何かを耳打ちした。お互いに何かを言い合っているようだったが、ホール内の喧騒にかき消されて内容までは聞き取れない。
(ふふ、2人は仲が良いのね)
2人の様子はとても親しげに見える。ギルフォードの年相応で青年らしい姿はどこか新鮮だ。
彼らのやり取りを微笑ましく見ていると、オーケストラによるワルツの演奏が始まった。ゆったりとした音楽に、男女が手を取り合いながら華麗なステップを踏み、中央へ集まっていく。
ギルフォードは、ジェラルドからジェナーの方へ体を向き直して手を差し伸べた。
「あの……お嬢様。もしよろしければ俺と、踊っていただけませんか」
緊張しているのが見て取れるほどぎこちない手つきだった。
(ギルったら、なんだか可愛い……)
ジェナーがギルフォードの手を取ろうとした時だった。彼女が誘いを受けるのを阻むように、横から令嬢が現れた。鈴を転がすような甘やかな声がギルフォードの名を呼ぶ。
「ギルフォードさん」
その声の主は、シャーロット・テナントだった。
髪色に合わせた華やかな桃色のドレス。ふんわりと下に広がるベル型のスカートには、小さな宝石がふんだんに散りばめられ、照明の光を反射して繊細な輝きを放っている。
色合い、デザイン共に落ち着きのあるジェナーのドレスとは対照的に、華やかさを重視した彼女の装いは、彼女の持つ華やかさも相まって、大勢の人の目を引いている。
きっと、『完璧は美』とは彼女のことをいうのだろう。
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