【完結】ただの悪役令嬢ですが、大国の皇子を拾いました。〜お嬢様は、実は皇子な使用人に執着される〜

曽根原ツタ

文字の大きさ
上 下
6 / 62
第1章 悪役令嬢とやんごとなき使用人

06 門出の前に (1)

しおりを挟む
十数分後、後ろ手に縛られたティリルが男達に連れられフラフラと現れた。
目元は黒い布で巻かれ視界が塞がれていた。


駆け寄ろうとしたバリラとフラウットに蝙蝠少女ミューズが二人の足元へナイフを投擲して制する。

「会わせるとは言ったけど接触は許可してないわよ」
「……わかったよ!わかったから」


小剣をティリルの首に突き付けるミューズの目は酷く冷たく、無感情のまま殺せるのだと思い知らせていた。
レオニードとガルディは静観して成り行きを見守っている。

「バリラ、フラ。逸っても好転しない落ち着け」
「う、うん。わかってる」


レオニードに肩を掴まれたバリラは深く呼吸をすると、極力抑えた声でティリルへ話しかけた。
「ティル、無事で良かった。必ず助けるから!どうか辛抱強く待っていて!ね、お願い!」

哀願するように声をかける親友に元王女ティリルは微動だにせず、連れて来られたままそこに佇んでいる。
もう一度声を掛けようとバリラが口を開きかけた時、ミューズが黒い目隠しを解いた。


「ほら、なんか言ってやりなさいよ。お友達なんでしょ?」
憎らしい笑みを浮かべてミューズは解いた黒い布切れを指で弄びながら煽る。
ティリルはゆっくりと閉じていた瞳を開いてやっと口を動かす。


「……私は何も言いませんわ」
「ティル!?」


友人の口から放たれた言葉にバリラは固まる。
あまりの素っ気なさに愕然としてしまったのだ。


そしてティリルの瞳はどこか濁っていて、視界も定まっていない様子だった。
レオニード側は、人質ティリルが何らかの制裁を受けたのではと危惧した。

思わず咆えそうになるバリラだったが、友人の無事のため耐えるしかないと口をきつく噛む。
それから、ミューズ側は”話は終わっただろう”とばかりに侮蔑の視線を寄越すと洞窟の方へと去って行った。


連れ去られるティリルの背中を、バリラは暗がりに消えるまで見つめていたが仲間の声に我に返る。
「ごめん、私は冷静でいられたかな?」
「うん、だいじょうぶ。バリラは頑張ってたよ。必ずまた会えるから」

少し背の高いバリラの頭を、背伸びして撫でるフラウットは「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と声をかけて歩いた。


***

敵国と対峙して半時。

ガルディ王とレオニード達は国境付近に移動して、野営の準備をしていた。
交渉時の緊張と数度の転移魔法で疲弊した一行は酷い倦怠感に襲われていた。

彼らは食事も碌に摂らず、軽く水分を口にして寝入ることにした。
さすがの獣人フラウットも寝ず番は交代することを願いでた。

何回目かの交代で起きたレオニードは、雲に見え隠れする星空を仰ぎ見て冷たい夜の空気を吸い込む。
「冬の空は澄むというけれど、本当だな……」


「錯覚だというのに……バカだな」
今にも落ちてきそうな星々は、手で掴めそうな距離に見えてレオニードは少し苦笑いした。

「何がおかしいのさ」
「!……バリラか」


きゅうに声を掛けられたレオニードは少々驚いた。小さな焚火を挟むように彼女は坐る。
「声かけくらいでビビッてどうすんの、寝ず番の意味ないだろ」
「悪かったよ、交代したばかりで寝ぼけ気味だったんだ」

「ふん」

バリラは火にかけたヤカンから湯を注いでフゥーフゥーと飲む、しかし、どこかもの足りそうな顔をした。
そういえば夕飯を摂っていないとレオニードも自分の腹を摩る。


魔法鞄を漁ると少し欠けたビスケットとフワフワな何かが指に触れた。
「……取って置きだけど仕方ないか」

レオニードは焚き木用の小枝を数本集めて拭うとアルモノを刺して地面に突き立てた。
バリラは眠そうな目を擦りそれをボンヤリ観察していた。


「なにをやってんだコイツって顔だな」
「ふん、だって何をやってるか意味不明だし。眠いしどうでもいいや」

バリラは寝ず番でもないのに起きてきて損したとテントへ戻ろうと立ち上がる。
だが、炙られたそれがプクリと焦げ香ばしい煙に引き止められる。


「なんだこの匂い!?甘くて良い香がする!」
「焼きマシュマロだよ、キャンプの御馳走のひとつさ」

パンパンに膨れ上がったソレを、レオニードはニヤニヤしながらバリラへと突き出してやる。
バリラは迷わずそれを受け取るとドカリと隣に座るやいなや食み始めた。


「アチチチッ!」
「はは、落ち着いて食え逃げないからさ」

蕩けて伸びてアツアツの焼きマシュマロはあっと言う間にバリラを虜にしていった。
「なにこれ!すんげぇ美味い!マシュマロってフワフワなだけじゃないのかよ!」
「はい、これも食べてみな」

焼きマシュマロのビスケットサンドがバリラを益々喜ばせていく。
かつてストロ村ダンジョンでフラウットと秘密のオヤツを食べたことをとうとう暴露した。

「んだよもう!ずっるいじゃんか!……はぁティルはご飯たべたかな。あの子にも分けてやりたいな」
「……」

急にしょ気たバリラにレオニードが言う。

「だいじょうぶってフラに言われたろ?」
「うん……」

「信じてやろうぜ」
「……うん」


「それにアレはティルじゃないしな。平気さ」
「……うん。……うっ!うん!?ど、どういうことさ!どういう意味なんだ!こら!」

レオニードの言葉に荒れに荒れたバリラの怒号が、惰眠を貪っていた連中を叩き起こしたのは言うまでもない。


しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう

冬月光輝
恋愛
 ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。  前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。  彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。  それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。  “男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。  89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

推ししか勝たん!〜悪役令嬢?なにそれ、美味しいの?〜

みおな
恋愛
目が覚めたら、そこは前世で読んだラノベの世界で、自分が悪役令嬢だったとか、それこそラノベの中だけだと思っていた。 だけど、どう見ても私の容姿は乙女ゲーム『愛の歌を聴かせて』のラノベ版に出てくる悪役令嬢・・・もとい王太子の婚約者のアナスタシア・アデラインだ。 ええーっ。テンション下がるぅ。 私の推しって王太子じゃないんだよね。 同じ悪役令嬢なら、推しの婚約者になりたいんだけど。 これは、推しを愛でるためなら、家族も王族も攻略対象もヒロインも全部巻き込んで、好き勝手に生きる自称悪役令嬢のお話。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

アリエール
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

処理中です...