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 転移魔法で強制的に部屋から追い出されたオリアーナは、部屋の扉を叩いた。

「レイモンド! 話はまだ終わってないよ! ここを開けるんだ!」

 しかし、扉を叩くオリアーナの肩にセナが手を置き、「やめろ」と窘めるように首を横に振った。

「リア。……魔力の異常増幅って何? 俺も初めて聞いたんだけど」
「今日……リヒャルト王子から聞いた。レイモンドは随分前から、身体の内側から爆発するように魔力が増えているらしい」
「…………」

 セナは顎に手を添えてしばらく思案した。

「レイモンドの不調の原因は魔力増幅で……それはあいつにとって後ろめたいこと――か」
「どうして隠したんだろう。レイモンドだって、誰より病気をよくしたいと思ってるはずなのに」
「ひとまず、魔法医学の専門家に相談してみよう。うちの学校にはいるだろ? 魔力核のスペシャリストが」
「……エトヴィン先生――か」

 オリアーナは頷き返した。



 ◇◇◇



「――で。そこにいるのはレイモンドじゃなく双子の姉のオリアーナの方で、レイモンドには魔力増幅の症状が見られるから診断してほしい、と」
「はい。その通りです」

 翌日。朝早くにオリアーナは、化学準備室に押しかけて頭を下げた。オリアーナがレイモンドの代わりに入学することになった経緯を、包み隠さず全て打ち明ける。不正を咎められて退学することになり、両親から責められてももう構わない。
 エトヴィンは呆れたようにため息をついた。

「失望したぞ。それでもアーネル公爵家の人間か? 国から下賜された家宝を使い、不正を働いているとは……。この件が露見したら、始祖五家と王家全体の名誉に関わる」
「返す言葉もございません。私が独断で行ったことですのでどうか、弟のことは咎めないでください。――罰なら私だけが受けます」
「ふん、人に物を頼める立場だと思うな」
「……はい」

 失望をあらわにするエトヴィンに平謝りする。

「だが、お前の弟のことは俺が責任を持って視てやる」
「……本当ですか!?」
「嘘なんかつかねぇよ。これはただの推測だが、レイモンドは二人分の魔力核が体内で形成ているんだと思う。聖女が持つべき、膨大な魔力を」
「……母胎の中で結合したということですか?」
「魔力核に限らず、こういう障害は稀にある。だから、本人はお前には言いずらかったんじゃねぇか?」
「…………!」

 彼の推測に、全ての点と点が結びつくような気がした。ただでさえ冷遇されているオリアーナが、理不尽に両親から責められないように。またオリアーナが負い目を感じないように気遣ってのことなのだろう。

(私……最低な姉さんだ。何も知らずにレイモンドのことを責めたりして……)

 昨日の自分の振る舞いを思い出して、表情を曇らせる。そんなオリアーナを見て、エトヴィンは面倒臭そうに言う。

「んな辛気臭ぇ顔すんな。こっちまで憂鬱になんだろ。まだ決まった訳じゃない。とりあえず中間テストが終わったら、すぐに時間を作る」
「はい。よろしくお願いいたします」

 藁をも掴む思いでエトヴィンに頭を下げたのだった。



 ◇◇◇



 しかし、エトヴィンは替え玉の件を上に報告しなかった。始祖五家と王家の名誉に関わる重要事項。
 もしかしたら、問題に巻き込まれるのが面倒で沈黙したのかもしれないし、オリアーナの境遇への同情があったのかもしれない。結果として彼は『聞かなかったことにする』という選択を取った訳だが、その真意は分からなかった。
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