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「両親の頼みを聞く必要なんてありません! 身代わりなんて、そんな無茶な……。不正が明るみになれば、姉さんまで咎められることになるんですよ。父さんたちは何を考えてるんだか……」

 夕食のあと、レイモンドの部屋を訪れた。

 金色のまつ毛に縁取られた金眼をした儚げな美貌の青年は、双子の弟のレイモンドだ。男女の双子なのに、鏡を映し合わせたように似ている。

 大雑把で男らしいオリアーナに対し、レイモンドは慎重派で繊細だった。見た目は瓜二つなのに、まとう雰囲気は違う。

「姉さんに迷惑をかける訳には……ゲホッゴホッ」
「落ち着いて、レイモンド。身体に障る」

 苦しそうに咳き込むレイモンドの背中を擦る。寝台の横に椅子を置いて、腰を下ろした。

「そうやって両親の言いなりになって、姉さんの人生はそれで……いいんですか」
「…………」

 今までもずっと、両親の言いなりになって生きてきた。いつも周りの顔色を伺って、有能な弟と比べられ続けてひどいことを言われても、耐えてきた。体が弱いレイモンドを両親の元に置いて自分だけ逃げることが、オリアーナにはできなかった。可愛い弟を守りたいから、家を追い出されないように両親の顔色を伺ってきた。

「姉さんに任せて。レイモンドは何も心配せずに静養していたらいい」
「姉さん……」

 今ひとつ納得していないレイモンド。

 気まずくなって目線を逸らすと、寝台近くのチェストの花瓶に薔薇が生けてあった。水に濡れたみずみずしい花弁が、質素な部屋を華やかにしてくれている。
 更に、テーブルの上の包みに目が留まった。

「これは?」
「魔法学院から制服が届いたんです」
「……そう」

 亜麻色の紙の包装を開くと、魔法学院の――男子用の制服が収められていた。黒のブレザーに同色の細身のスラックス。白いシャツと紫のベスト。――それから、胸に付ける校章が付属している。

(この制服を、私が着るのか)

 ブレザーをそっと手に取り、眉をひそめた。

 魔法学院は、ヴィルベル王国最難関といわれる名門魔法教育機関で、十六歳から十九歳までの生徒たちが通う。レイモンドは首席で合格し、この制服も本来は彼が着るためのものだった。しかし――。

 春から学院に通うのは、レイモンドではなく――非魔力者のオリアーナだ。そしてそれは、病に伏せった彼の身代わりとして……。
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