3 / 38
03
しおりを挟む「両親の頼みを聞く必要なんてありません! 身代わりなんて、そんな無茶な……。不正が明るみになれば、姉さんまで咎められることになるんですよ。父さんたちは何を考えてるんだか……」
夕食のあと、レイモンドの部屋を訪れた。
金色のまつ毛に縁取られた金眼をした儚げな美貌の青年は、双子の弟のレイモンドだ。男女の双子なのに、鏡を映し合わせたように似ている。
大雑把で男らしいオリアーナに対し、レイモンドは慎重派で繊細だった。見た目は瓜二つなのに、まとう雰囲気は違う。
「姉さんに迷惑をかける訳には……ゲホッゴホッ」
「落ち着いて、レイモンド。身体に障る」
苦しそうに咳き込むレイモンドの背中を擦る。寝台の横に椅子を置いて、腰を下ろした。
「そうやって両親の言いなりになって、姉さんの人生はそれで……いいんですか」
「…………」
今までもずっと、両親の言いなりになって生きてきた。いつも周りの顔色を伺って、有能な弟と比べられ続けてひどいことを言われても、耐えてきた。体が弱いレイモンドを両親の元に置いて自分だけ逃げることが、オリアーナにはできなかった。可愛い弟を守りたいから、家を追い出されないように両親の顔色を伺ってきた。
「姉さんに任せて。レイモンドは何も心配せずに静養していたらいい」
「姉さん……」
今ひとつ納得していないレイモンド。
気まずくなって目線を逸らすと、寝台近くのチェストの花瓶に薔薇が生けてあった。水に濡れたみずみずしい花弁が、質素な部屋を華やかにしてくれている。
更に、テーブルの上の包みに目が留まった。
「これは?」
「魔法学院から制服が届いたんです」
「……そう」
亜麻色の紙の包装を開くと、魔法学院の――男子用の制服が収められていた。黒のブレザーに同色の細身のスラックス。白いシャツと紫のベスト。――それから、胸に付ける校章が付属している。
(この制服を、私が着るのか)
ブレザーをそっと手に取り、眉をひそめた。
魔法学院は、ヴィルベル王国最難関といわれる名門魔法教育機関で、十六歳から十九歳までの生徒たちが通う。レイモンドは首席で合格し、この制服も本来は彼が着るためのものだった。しかし――。
春から学院に通うのは、レイモンドではなく――非魔力者のオリアーナだ。そしてそれは、病に伏せった彼の身代わりとして……。
55
お気に入りに追加
1,475
あなたにおすすめの小説
[完結]婚約破棄してください。そして私にもう関わらないで
みちこ
恋愛
妹ばかり溺愛する両親、妹は思い通りにならないと泣いて私の事を責める
婚約者も妹の味方、そんな私の味方になってくれる人はお兄様と伯父さんと伯母さんとお祖父様とお祖母様
私を愛してくれる人の為にももう自由になります
婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。
永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……
矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。
『もう君はいりません、アリスミ・カロック』
恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。
恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。
『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』
『えっ……』
任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。
私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。
それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。
――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。
※このお話の設定は架空のものです。
※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)
真実の愛は素晴らしい、そう仰ったのはあなたですよ元旦那様?
わらびもち
恋愛
王女様と結婚したいからと私に離婚を迫る旦那様。
分かりました、お望み通り離婚してさしあげます。
真実の愛を選んだ貴方の未来は明るくありませんけど、精々頑張ってくださいませ。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる