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しおりを挟む二週間ほどかけて、一度はベルナール王国に到着した。二ヶ月以上降雨が止まったせいで大地はすっかり渇ききっており、道の脇に生えている植物も枯れていた。
そして、道行く人々の表情も薄暗く、街は本来の活気を失っていた。
王宮では、数日後に催される新王太女のお披露目パーティーに向け、招かれた各国の王族や上位貴族の家長にその妻子が宿泊していた。
戴冠式は暴動によって散々の有り様になり中断されたが、その後王家だけでひっそりと行われた。
そして、今回のお披露目パーティーも恒例行事ではあるが、規模をかなり縮小し、厳重な警備体制の元に行われることになったのである。
今も絶えずアントワール王家に抗議する民衆が王宮の門へと押し寄せている。だが、王家は純血の者を女王に据えて威厳を守るために、エスターを王太女にするしかなかった。
お披露目パーティーも、貴族や民衆に王家の権威を知らしめるために、贅を尽くしているとか。
(これ以上王家の面子を潰さないために、後に引けない……という感じね)
そして、王家に抗議する者たちを次々に捕えて、見せしめのように処刑していった。大規模な粛清のせいで、人々の不満はより一層高まっている。
「これが例の慰霊碑か?」
「ええ、そうよ」
ノルティマたちは、王宮敷地内の精霊の慰霊碑の前に来ていた。
シャルディア王国の国王であるエルゼのもとにも王太女のお披露目パーティーの招待状が届いており、強引な手段を取らずとも王宮に入ることができた。
ノルティマは元王太女として王宮の者たちに顔が割れているため、男装をして騎士を装い、ローブを上から羽織ってフードで顔を隠している。
ぱっと見ただけではノルティマだと分からないが、エスターやヴィンスなど、関わりが深かった者は誤魔化しきれないだろう。
フードを深く被り直しつつ頷くと、エルゼは精霊の慰霊碑に手をかざして目を閉じた。
しばらくして精霊の慰霊碑の周りがほの暗く光りだしたかと思えば、エルゼが目を開き、眉間にしわを寄せた。
「これは……ひどいな」
「悪霊化した精霊たちがいるんですか?」
「ああ。水の精霊国という拠り所を失った精霊たちがここに集まり、闇側に落ちたようだ」
「……」
エルゼの険しい表情が、恨みによっては悪霊になった仲間たちへの同情だと理解した。
そして、ひっきりなしに集まってくる精霊たちを浄化していくには途方もない神力が必要となり、今のエルゼには到底無理だという。
「精霊たちはこう言っている。アントワール王家に、国を統治する資格は――なしと」
アナスタシアの治世はあまりにも脆弱で、アントワール王家の血筋であることを除いたとしても、指導者としてふさわしくはない。彼女を取り巻くヴィンスや廷臣たちも、自分の利益ばかりを追求するような者ばかり。
(なんの言葉も出てこないわね)
するとそのとき、芝生を踏む靴音がいくつか近づいてきて、聞き覚えがある女の喚き声も聞こえてきた。
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