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 ふたりは露店でローストビーフにサラダ、ミートパイ、ブルーベリーパイと飲み物を買い、テラス席で食べることにした。しばらく保存食ばかり食べてきたが、ようやくまともな食事ができるのだと心が浮き立つ。

 白いテーブルの上に所狭しと並ぶ美味しそうな食事に、ノルティマは瞳をわずかに輝かせる。

「いただきます」

 手を合わせたとき、袖が下がって普段は隠れている左腕の火傷の痕が晒される。
 随分と昔にできたものなので傷自体は癒えているものの、痛々しく残った痕にエルゼは眉をひそめた。

「その傷痕……」
「火傷の痕なの。見苦しいものを見せてごめんね」
「そんなことはないよ。どうして負った火傷なのか聞いても?」
「子どものころに虐められている幼獣を助けたことがあったの。そのときにちょっとね」
「そう。……すまない。せっかく綺麗な肌をしているのに」

 気にしていないから大丈夫と微笑み袖を上げる。だが、なぜか彼は悪いことをして叱られた子どものように、しゅんと項垂れた。

(どうしてエルゼが謝るのかしら?)

 彼の反応を見て、ノルティマは首を傾げる。

 エルゼと自分の小皿にミートパイを取り分けて、ナイフで綺麗に切って口へ運ぶ。
 焼きたてのパイ生地はサクサクしていて、中の牛肉にはしっかり味が染みていて、舌によく馴染む。

(おいしい……)

 一方のエルゼは、自分は手を動かさずにこちらが食べる様子嬉しそうに目を細めて眺めていた。頬杖をつきながらこちらに問う彼。

「おいしい?」
「ええ、とても。遠慮してないで、あったかいうちにあなたもお食べ」

 手が止まっているのはもしかして、ノルティマの奢りだから遠慮しているのだろうか。すると彼は予想外のことを言った。

「俺はあなたが幸せそうに食べているところが見られたら、もうそれだけでお腹いっぱいだよ」
「ふ。何よそれ。ませたこと言って、ちゃんと食べないと大きくなれないわよ? あなたいくつ?」
「いくつに見える?」
「当てるわ。そうね…… 十三歳でしょう?」
「――内緒」

 すっと意地悪に笑う表情は、子どもらしくないというか、妙に色気があって大人びている。随分としっかりしていて落ち着きもあるので、時々本当に子どもなのかと疑ってしまうほど。

「エルゼは秘密主義なのね」

 ノルティマはそっと目を伏せる。

 秘密があるのは、こちらも同じことだ。自分が手紙を残して消えたベルナール王国の王女だということを打ち明けられずにいるのだから。それだけではなく、湖の傍で倒れていた理由が――死のうとして崖から身を投げたからということも隠している。
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