15 / 53
15
しおりを挟むふたりは露店でローストビーフにサラダ、ミートパイ、ブルーベリーパイと飲み物を買い、テラス席で食べることにした。しばらく保存食ばかり食べてきたが、ようやくまともな食事ができるのだと心が浮き立つ。
白いテーブルの上に所狭しと並ぶ美味しそうな食事に、ノルティマは瞳をわずかに輝かせる。
「いただきます」
手を合わせたとき、袖が下がって普段は隠れている左腕の火傷の痕が晒される。
随分と昔にできたものなので傷自体は癒えているものの、痛々しく残った痕にエルゼは眉をひそめた。
「その傷痕……」
「火傷の痕なの。見苦しいものを見せてごめんね」
「そんなことはないよ。どうして負った火傷なのか聞いても?」
「子どものころに虐められている幼獣を助けたことがあったの。そのときにちょっとね」
「そう。……すまない。せっかく綺麗な肌をしているのに」
気にしていないから大丈夫と微笑み袖を上げる。だが、なぜか彼は悪いことをして叱られた子どものように、しゅんと項垂れた。
(どうしてエルゼが謝るのかしら?)
彼の反応を見て、ノルティマは首を傾げる。
エルゼと自分の小皿にミートパイを取り分けて、ナイフで綺麗に切って口へ運ぶ。
焼きたてのパイ生地はサクサクしていて、中の牛肉にはしっかり味が染みていて、舌によく馴染む。
(おいしい……)
一方のエルゼは、自分は手を動かさずにこちらが食べる様子嬉しそうに目を細めて眺めていた。頬杖をつきながらこちらに問う彼。
「おいしい?」
「ええ、とても。遠慮してないで、あったかいうちにあなたもお食べ」
手が止まっているのはもしかして、ノルティマの奢りだから遠慮しているのだろうか。すると彼は予想外のことを言った。
「俺はあなたが幸せそうに食べているところが見られたら、もうそれだけでお腹いっぱいだよ」
「ふ。何よそれ。ませたこと言って、ちゃんと食べないと大きくなれないわよ? あなたいくつ?」
「いくつに見える?」
「当てるわ。そうね…… 十三歳でしょう?」
「――内緒」
すっと意地悪に笑う表情は、子どもらしくないというか、妙に色気があって大人びている。随分としっかりしていて落ち着きもあるので、時々本当に子どもなのかと疑ってしまうほど。
「エルゼは秘密主義なのね」
ノルティマはそっと目を伏せる。
秘密があるのは、こちらも同じことだ。自分が手紙を残して消えたベルナール王国の王女だということを打ち明けられずにいるのだから。それだけではなく、湖の傍で倒れていた理由が――死のうとして崖から身を投げたからということも隠している。
3,509
お気に入りに追加
4,925
あなたにおすすめの小説
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
白い結婚がいたたまれないので離縁を申し出たのですが……。
蓮実 アラタ
恋愛
その日、ティアラは夫に告げた。
「旦那様、私と離縁してくださいませんか?」
王命により政略結婚をしたティアラとオルドフ。
形だけの夫婦となった二人は互いに交わることはなかった。
お飾りの妻でいることに疲れてしまったティアラは、この関係を終わらせることを決意し、夫に離縁を申し出た。
しかしオルドフは、それを絶対に了承しないと言い出して……。
純情拗らせ夫と比較的クール妻のすれ違い純愛物語……のはず。
※小説家になろう様にも掲載しています。
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました
ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。
このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。
そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。
ーーーー
若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。
作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。
完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。
第一章 無計画な婚約破棄
第二章 無計画な白い結婚
第三章 無計画な告白
第四章 無計画なプロポーズ
第五章 無計画な真実の愛
エピローグ
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました
さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。
時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。
手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。
ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が……
「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた
ホットランキング入りありがとうございます
2021/06/17
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる