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しおりを挟む超上級の魔物を倒したルセーネは、国王から直々に褒賞を与えられることになった。
魔物討伐において大きな功績を上げた退魔師や聖騎士は、しばしば王家から表彰されることがある。時には、領地や爵位を下賜されることも。
「ルセーネ。手と足が一緒に出てるぞ」
国王の謁見の間で表彰されることになったルセーネ。
聖騎士の制服を着て、控え室で行ったり来たり、落ち着きがなく動き続けるルセーネに、ジョシュアが突っ込みを入れる。
ジョシュアは今日、付き添いで来てくれた。彼はソファで足を組みながら言う。
「無理もないか。国王陛下から直々に感謝状をいただけるなんて、そうそうないことだからな」
「……今は言わないでください! 緊張して吐き気が――うぷ」
ルセーネは顔を青くさせながら、手で口元を抑えた。
ヘルモルト伯爵家のその後についてたが、国の決まりで禁止される魔物の取引をしていたことで、爵位と領地は没収された。さらに、王女を誘拐した罪が重なり、ディーデヘルムは処刑。ミレーナとアビゲイルは共犯扱いされ、流刑となった。ヘルモルト家の商いに関わっていた者たちも、次々に処断されている。
だが、およそ17年前の、王女誘拐事件の真相が公になることはなかった。他でもない――ルセーネの意思によって。
そのとき、扉がノックされて、控え室にセシリアとグレイシーが入ってきた。グレイシーは自分の祖父が、17年前の大罪を犯した長本人であり、実母は病死し、父はグレイシーが生まれる前に死んでいるという事実にひどくショックを受けたそうだ。
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祖父ゼリトンの罪を公にはせず、王女ルセフィアネは行方知れずのままにしてほしい。そして、グレイシーを王女として王宮にいさせてあげてほしい――と。
「ルセーネさん、どうしてですの……? あなたこそ、ノーマイゼ王国の本物の王女なのですわよ。わたくしとは違う、正真正銘――純潔の」
「でも、私の望む生き方じゃありません。王女様って、ダンスのお稽古をしたり、刺繍をしたり、色々忙しくて大変なんでしょう? 私、勉強って苦手なんです。毎日息が詰まりそう。私には王女様は向いていないかなって」
「それでも、散々ひどいことをしたわたくしの立場など、守ってやる必要などありませんのに……」
拐われた王女が隠れていることで、グレイシーの立場は今までと変わらないし、本物の王女の影に怯える必要もなくなる。
グレイシーはジョシュアに縁談の白紙を申し込んだらしいが、実は元々好意がなかったと分かった。憧憬のようなものは多少あったのかもしれないが。嫌がらせについては、すでに何度も謝罪されている。
ルセーネはあっけらかんとした様子で伝える。
「私、喧嘩をしたのって生まれて初めてです! でももうわだかまりは無しです。仲直りしましょ?」
「なんですのよ……それ」
これまでの嫌がらせを『喧嘩』という言葉で済ませてしまうルセーネのおおらかさに、グレイシーは拍子抜けする。
すると、セシリアがふっと笑った。
(私は王女様にはなりたくないし、グレイシー様の居場所がなくなっちゃうのも嫌だよ。それなら、今のままが合っている気がする)
人には適材適所というものがある。ルセーネは実父である国王に会ったことがまだないが、ジョシュアに教えてもらいながら、下手くそな字で手紙をしたためた。
17年間、苦労を強いられてきたルセーネを哀れんだ国王は、彼女の切実な願いを無下にすることができなかった。
後日、ルセーネのもとに、子どもでも読みやすい字で、『現状維持は約束する。だが、父のもとにも時々会いに来てほしい』という旨が書かれた手紙が届いた。
ルセーネは文字の読み書きの絶賛勉強中なので、やはりそれもジョシュアに読んでもらった。
「私は、もっともっと、誰かのお役に立ちたいんです。貴族のご令嬢としての才能も、神力もからっきしだけど、私には――魔力があるので」
ふと、ひとりぼっちで悲しかったころを思い出す。
今はただ、誰かに必要とされたい。誰かの役に立ちたい。そんな7年分の思いがルセーネを強く突き動かしているのだ。
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