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 元婚約者のジェイデンがルサレテの元に訪ねてきたのは、それから数日後のこと。

(ようやく完成した……! これはかなりシャロっぽいのでは!?)

 シャロがいなくなってから、記憶に留めておくために彼をイメージしたぬいぐるみを作っていたのだが、それがようやく出来上がった。
 ルサレテはあまり器用な方ではないが、よく頑張ったと満足し、不格好なシャロのぬいぐるみを両手で抱えて眺める。
 それを、出窓のクマのマスコットの横にちょこんと置いた。クマのマスコットはロアンにもらったものだ。

 するとそのとき、ゴーンゴーン……と、始業を告げる鐘が宿舎に響き渡った。

「嘘、もうそんな時間……!?」

 慌てて時計を確認する。早起きして夢中になって手芸をしていたら、授業が始まる時間になってしまった。
 講堂へ向かおうと、荷物を持って慌てて宿舎を飛び出すと――外でジェイデンが待ち構えていた。
 久しぶりに見るジェイデンの姿に、ぴしゃりと硬直するルサレテ。

「ジェイデン様!? ど、どうしてここに……」
「久しぶりだね、ルサレテ。元気だったかい?」
「…………」

 彼はこの学園をとっくに卒業しており、今は生徒ではない。学園の宿舎まで許可なく押しかけてくるとは何事かと身構えていると、彼が言った。

「そう警戒しないでくれ。君にどうしても話したいことがあって来たんだよ」
「……私はあなたと話すことは何もありません」
「つれないな。……侯爵夫妻が、君のことをとても心配しているよ。意地を張っていないで、早く家に戻ってはどうだい?」
「なんですって……?」

 意地を張っている?
 その言葉に、ルサレテは思わず眉をひそめる。ペトロニラの一件で、ルサレテと家族の間にわだかまりができてしまったのは、ルサレテが意地を張っているとかそういう問題ではない。心に負った傷がまだ癒えていないのだ。
 しばらく両親から離れていたいという意思は、彼らも理解してくれているので、ジェイデンの言うことは見当違いだ。

(そんなことを言うために、わざわざ学園まで押しかけて来たというの? こんな朝早くに)

 ルサレテが一方的に両親に突き放して、困らせているかのような口ぶりで。
 ジェイデンが何を考えているのか分からない。

「家には戻りません。これは、私と両親の問題なので、ジェイデン様にはなんの関係もない話です。そのようなことをおっしゃるために来たなら、帰ってください」

 これから授業があるので失礼します、と踵を返そうとすれば、彼はとんでもないことを言った。

「――俺と……やり直そう。ルサレテ」
「…………はい?」

 一瞬耳を疑い、思わず振り返る。
 けれどすぐに、ジェイデンが寄りを戻そうとしてきた真意は想像できた。

 ジェイデンは勢力の小さな伯爵家の四男だ。爵位は一番上の兄が継ぐと決まっており、その下の弟たちは家を出て自分で生計を立てていかなければならない。
 次男と三男は幼少のころから鍛錬を重ねて騎士団に入った。
 そして、ジェイデンはナーウェル侯爵家の婿養子となり侯爵家を支えていく――はずだった。

 しかし、ペトロニラとルサレテの階段転落事件の際、ペトロニラ側についた彼は、一方的にルサレテに婚約解消を言い渡した。……自分の立場を忘れて。そのときに彼は、侯爵家の後継者としての権利も手放したことになる。
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