27 / 31
27
しおりを挟む元婚約者のジェイデンがルサレテの元に訪ねてきたのは、それから数日後のこと。
(ようやく完成した……! これはかなりシャロっぽいのでは!?)
シャロがいなくなってから、記憶に留めておくために彼をイメージしたぬいぐるみを作っていたのだが、それがようやく出来上がった。
ルサレテはあまり器用な方ではないが、よく頑張ったと満足し、不格好なシャロのぬいぐるみを両手で抱えて眺める。
それを、出窓のクマのマスコットの横にちょこんと置いた。クマのマスコットはロアンにもらったものだ。
するとそのとき、ゴーンゴーン……と、始業を告げる鐘が宿舎に響き渡った。
「嘘、もうそんな時間……!?」
慌てて時計を確認する。早起きして夢中になって手芸をしていたら、授業が始まる時間になってしまった。
講堂へ向かおうと、荷物を持って慌てて宿舎を飛び出すと――外でジェイデンが待ち構えていた。
久しぶりに見るジェイデンの姿に、ぴしゃりと硬直するルサレテ。
「ジェイデン様!? ど、どうしてここに……」
「久しぶりだね、ルサレテ。元気だったかい?」
「…………」
彼はこの学園をとっくに卒業しており、今は生徒ではない。学園の宿舎まで許可なく押しかけてくるとは何事かと身構えていると、彼が言った。
「そう警戒しないでくれ。君にどうしても話したいことがあって来たんだよ」
「……私はあなたと話すことは何もありません」
「つれないな。……侯爵夫妻が、君のことをとても心配しているよ。意地を張っていないで、早く家に戻ってはどうだい?」
「なんですって……?」
意地を張っている?
その言葉に、ルサレテは思わず眉をひそめる。ペトロニラの一件で、ルサレテと家族の間にわだかまりができてしまったのは、ルサレテが意地を張っているとかそういう問題ではない。心に負った傷がまだ癒えていないのだ。
しばらく両親から離れていたいという意思は、彼らも理解してくれているので、ジェイデンの言うことは見当違いだ。
(そんなことを言うために、わざわざ学園まで押しかけて来たというの? こんな朝早くに)
ルサレテが一方的に両親に突き放して、困らせているかのような口ぶりで。
ジェイデンが何を考えているのか分からない。
「家には戻りません。これは、私と両親の問題なので、ジェイデン様にはなんの関係もない話です。そのようなことをおっしゃるために来たなら、帰ってください」
これから授業があるので失礼します、と踵を返そうとすれば、彼はとんでもないことを言った。
「――俺と……やり直そう。ルサレテ」
「…………はい?」
一瞬耳を疑い、思わず振り返る。
けれどすぐに、ジェイデンが寄りを戻そうとしてきた真意は想像できた。
ジェイデンは勢力の小さな伯爵家の四男だ。爵位は一番上の兄が継ぐと決まっており、その下の弟たちは家を出て自分で生計を立てていかなければならない。
次男と三男は幼少のころから鍛錬を重ねて騎士団に入った。
そして、ジェイデンはナーウェル侯爵家の婿養子となり侯爵家を支えていく――はずだった。
しかし、ペトロニラとルサレテの階段転落事件の際、ペトロニラ側についた彼は、一方的にルサレテに婚約解消を言い渡した。……自分の立場を忘れて。そのときに彼は、侯爵家の後継者としての権利も手放したことになる。
339
お気に入りに追加
1,041
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。
しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」
その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。
「了承しました」
ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。
(わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの)
そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。
(それに欲しいものは手に入れたわ)
壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。
(愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?)
エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。
「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」
類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。
だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。
今後は自分の力で頑張ってもらおう。
ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。
ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。
カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)
婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…
離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?
ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる