上 下
16 / 31

16

しおりを挟む
 
 愛らしい桃色のフリルドレスに身を包んだペトロニラが、こちらに駆け寄って来て、同じテーブル席に座った。彼女がどうして姉と一緒にいるのかとしつこく問いかければ、ロアンは冗談めかしてデートだよと答え、ペトロニラの表情はあからさまに不機嫌になった。

 彼女の取り巻き令息たちも同じテーブルに着き、ステージを見ることになった。しかし、ペトロニラの関心はステージではなく、ロアンとルサレテの関係の方にばかり向いていて。

「ロアン様、どうしてお姉様と親しくされているんですか? 最近私のところにもあまり遊びに来てくださらないので……寂しいです」
「少し彼女に世話になってね。でも別に、そこまで親しい訳ではないよ。君とも以前と変わらず話しているじゃないか」
「それでも……最近はお姉様の方が一緒にいます」
「はは、いつからペトロニラはそんなにやきもち焼きになったんだ?」

 不機嫌そうに彼女が呟くと、ロアンは機嫌を取ろうと宥めた。楽しそうに話しているところを見るに、まだペトロニラへの好意はあるようだ。

(それもそうね。-100から始まった私が、長い付き合いがあるペトロニラに追いつくのは簡単じゃない)

 他の攻略対象たちも、ペトロニラと楽しそうに話していて、ルサレテだけは蚊帳の外だ。ペトロニラは、ルサレテを空気のように扱って、自分が会話の中心でいようとした。
 するとそのとき、ステージの大道芸人のパフォーマンスが突然中断される。
 同時に、ざわざわと騒がしくなる会場。どうしたのかと辺りの様子を観察していると、いち早く状況を察知したのはエリオットだった。

「何かあったのでしょうか」
「王女様が失くし物をしたようです。あちらをご覧に」

 真っ青になった王女と、侍女に護衛騎士たちがあちこちで何かを探していた。
 そして、ルサレテの空中ディスプレイに、『イベント発生』の文字が映る。王女が失くしたのは、青い宝石がついた指輪らしく、それを見つけてやることで――攻略対象全員の好感度がアップすると書いてある。

(これはかなり美味しいイベントね)

 ペトロニラも捜索に参加するかと思いきや、彼女は攻略対象たちとのお喋りに夢中で、一切指輪のことなど頭にない様子だ。どうせ、このテーブル席では空気扱いなので、ルサレテは早く指輪探しをすることにした。

「失くし物探しを手伝ってくるわ。皆さんでごゆっくり」
「とか言って、本当は私たちの会話に入れないのがお辛くなっただけではありませんか?」
「まぁ……そんなところ」

 彼女の嫌味を笑って受け流し、椅子から立ち上がる。ペトロニラは、ようやく邪魔者がいなくなったと言わんばかりの清々しい様子で、攻略対象たちに話しかける。

「では皆さんは、お姉様抜きで私とお喋りしましょ?」
「「…………」」

 しかし、誰も彼女の言葉に頷かない。そしてなぜか、ロアンまで立ち上がった。

「じゃあ俺も行くよ。手伝ってあげるなんて、優しいね」
「僕も行こう」
「私も」
「俺も」

 他の3人までルサレテに続いて椅子から立ち、王女の失くし物探しを手伝う意思を示した。ペトロニラは、彼らが自分ではなくルサレテを選んだように感じ、眉間に皺を寄せた。

「皆して……お姉様に付いて行かれるんですか……!? なら私は、ひとりで楽しみますよぅ」
「うん。君はそこで座っているといい」

 ロアンはペトロニラを慰めるどころか、拗ねた発言を構わず斬り捨てた。
 困っている人がいるのに、しかもその相手はルイの妹なのに放っておくなんて、乙女ゲームのヒロインにはあるまじき対応だ。もしペトロニラに空中ディスプレイが見えていたのなら、きっと指示にしたがって捜索を手伝っていたのだろうが……。
 ルサレテは悔しそうにするペトロニラを置いて席を離れた。

 画面には矢印が出ており、指輪の在り処を指し示している。それを辿って行くと、池に辿り着いた。足首が浸かるくらいの浅い池だが、昨夜雨が降っていたせいで、水が茶色く濁り、汚れが浮いている。

(うわぁ……この中を探せっていうの?)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?

青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。 エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・ エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・ ※異世界、ゆるふわ設定。

貧乏伯爵令嬢は従姉に代わって公爵令嬢として結婚します。

しゃーりん
恋愛
貧乏伯爵令嬢ソレーユは伯父であるタフレット公爵の温情により、公爵家から学園に通っていた。 ソレーユは結婚を諦めて王宮で侍女になるために学園を卒業することは必須であった。 同い年の従姉であるローザリンデは、王宮で侍女になるよりも公爵家に嫁ぐ自分の侍女になればいいと嫌がらせのように侍女の仕事を与えようとする。 しかし、家族や人前では従妹に優しい令嬢を演じているため、横暴なことはしてこなかった。 だが、侍女になるつもりのソレーユに王太子の側妃になる話が上がったことを知ったローザリンデは自分よりも上の立場になるソレーユが許せなくて。 立場を入れ替えようと画策したローザリンデよりソレーユの方が幸せになるお話です。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...