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しおりを挟む愛らしい桃色のフリルドレスに身を包んだペトロニラが、こちらに駆け寄って来て、同じテーブル席に座った。彼女がどうして姉と一緒にいるのかとしつこく問いかければ、ロアンは冗談めかしてデートだよと答え、ペトロニラの表情はあからさまに不機嫌になった。
彼女の取り巻き令息たちも同じテーブルに着き、ステージを見ることになった。しかし、ペトロニラの関心はステージではなく、ロアンとルサレテの関係の方にばかり向いていて。
「ロアン様、どうしてお姉様と親しくされているんですか? 最近私のところにもあまり遊びに来てくださらないので……寂しいです」
「少し彼女に世話になってね。でも別に、そこまで親しい訳ではないよ。君とも以前と変わらず話しているじゃないか」
「それでも……最近はお姉様の方が一緒にいます」
「はは、いつからペトロニラはそんなにやきもち焼きになったんだ?」
不機嫌そうに彼女が呟くと、ロアンは機嫌を取ろうと宥めた。楽しそうに話しているところを見るに、まだペトロニラへの好意はあるようだ。
(それもそうね。-100から始まった私が、長い付き合いがあるペトロニラに追いつくのは簡単じゃない)
他の攻略対象たちも、ペトロニラと楽しそうに話していて、ルサレテだけは蚊帳の外だ。ペトロニラは、ルサレテを空気のように扱って、自分が会話の中心でいようとした。
するとそのとき、ステージの大道芸人のパフォーマンスが突然中断される。
同時に、ざわざわと騒がしくなる会場。どうしたのかと辺りの様子を観察していると、いち早く状況を察知したのはエリオットだった。
「何かあったのでしょうか」
「王女様が失くし物をしたようです。あちらをご覧に」
真っ青になった王女と、侍女に護衛騎士たちがあちこちで何かを探していた。
そして、ルサレテの空中ディスプレイに、『イベント発生』の文字が映る。王女が失くしたのは、青い宝石がついた指輪らしく、それを見つけてやることで――攻略対象全員の好感度がアップすると書いてある。
(これはかなり美味しいイベントね)
ペトロニラも捜索に参加するかと思いきや、彼女は攻略対象たちとのお喋りに夢中で、一切指輪のことなど頭にない様子だ。どうせ、このテーブル席では空気扱いなので、ルサレテは早く指輪探しをすることにした。
「失くし物探しを手伝ってくるわ。皆さんでごゆっくり」
「とか言って、本当は私たちの会話に入れないのがお辛くなっただけではありませんか?」
「まぁ……そんなところ」
彼女の嫌味を笑って受け流し、椅子から立ち上がる。ペトロニラは、ようやく邪魔者がいなくなったと言わんばかりの清々しい様子で、攻略対象たちに話しかける。
「では皆さんは、お姉様抜きで私とお喋りしましょ?」
「「…………」」
しかし、誰も彼女の言葉に頷かない。そしてなぜか、ロアンまで立ち上がった。
「じゃあ俺も行くよ。手伝ってあげるなんて、優しいね」
「僕も行こう」
「私も」
「俺も」
他の3人までルサレテに続いて椅子から立ち、王女の失くし物探しを手伝う意思を示した。ペトロニラは、彼らが自分ではなくルサレテを選んだように感じ、眉間に皺を寄せた。
「皆して……お姉様に付いて行かれるんですか……!? なら私は、ひとりで楽しみますよぅ」
「うん。君はそこで座っているといい」
ロアンはペトロニラを慰めるどころか、拗ねた発言を構わず斬り捨てた。
困っている人がいるのに、しかもその相手はルイの妹なのに放っておくなんて、乙女ゲームのヒロインにはあるまじき対応だ。もしペトロニラに空中ディスプレイが見えていたのなら、きっと指示にしたがって捜索を手伝っていたのだろうが……。
ルサレテは悔しそうにするペトロニラを置いて席を離れた。
画面には矢印が出ており、指輪の在り処を指し示している。それを辿って行くと、池に辿り着いた。足首が浸かるくらいの浅い池だが、昨夜雨が降っていたせいで、水が茶色く濁り、汚れが浮いている。
(うわぁ……この中を探せっていうの?)
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