15 / 31
15
しおりを挟む園遊会は盛会だった。宝石のように繊細なお菓子が、レースクロスのかかったテーブルに所狭しとと並んでいる。上流階級の貴族たちが、あちこちで雑談している。
「ねぇ、あの令嬢はどなた?」
「わ……すごく綺麗」
「ドレスも素敵ね。どこで仕立ててきたのかぜひお聞きしたいわ」
会場の王宮庭園に着いて早々、ルサレテは注目の的になっていた。ゲームのアイテムとして手に入れたドレスを身にまとっているため、オーラが何割も増してとりわけ華やかに見えるのだろう。
(ロアン様は……どこかしら)
きょろきょろと辺りを見渡すの、人集りを見つけた。複数の夫人に囲まれ、もてはやされていたのは攻略対象のひとり、ロアンだった。学園で若い令嬢たちに囲まれているのはよく見ていたが、年齢層の高い女性にも同様に好かれるらしい。
彼はルサレテの姿を見かけて目を見開いた。
「すみません。先約があるので失礼しますね。お嬢さんたち」
「まぁ、お嬢さんだなんて久しぶりに言われたわぁ」
「顔がいいだけじゃなくてお上手ねぇ」
ロアンを取り囲んでいる夫人たちは、残念そうに彼を見送る。ロアンはまっすぐこちらに歩いてきて、ルサレテの姿をじっと見つめた。
「ごきげんよう。ロアン様は大人気ですね」
「え……あ、そんなことないよ。それより……驚いたな。今日の君、すごく綺麗だ」
「ありがとう……ございます」
すると、彼の好感度は+10アップして、-40になった。ロアンの好みに合わせたドレスを手に入れるために多くのポイントを費やしたのだから、綺麗だと思ってくれなくては困る。
今日のルサレテは、全身緑色に染まっている。それは、彼の瞳をイメージしたものだ。
「今日は無理を言ってすまないね。家長の代理でこの会に出なくちゃならなくて、パートナーが必要だったんだ。……一応言っておくけど、誘いやすい君を選んだだけだから、妙な誤解はしないように」
「え……ああ、はい」
妖精が干渉して、ロアンがルサレテと園遊会に出なければならないように状況を操作したのだろう。彼に無理を言われたような記憶はなく、ロアンの記憶も一部が改変されているらしい。家長の代理という具体的な事情についてルサレテはよく知らないので、適当に相槌を打った。
ルサレテとロアンはテーブルに着き、ステージの上を見た。王家に招かれたファンファーレ楽団や歌手、踊り子たちが次々にパフォーマンスをしていく。
続いて登場したのは、色んな国を渡り歩いているという大道芸人で、打楽器人形を操りながら変わった音楽を奏でた。
「わ……見てください! あの猿の人形、すごく可愛いです!」
「ルサレテ、はしゃぎすぎ」
呆れたように言う彼だが、好感度がなぜか+2上昇した。
(あら……どうして好感度が?)
普段は落ち着いた性格のルサレテが盛り上がっている様子を見て、どこか楽しそうにロアンも笑う。ただステージを楽しんでいただけなのに、その様子を見て好感度が上がったことを不思議に思う。
すると、ロアンがテーブルに包装された小さめの箱を置いた。これは何かと聞くと、この前の薬のお礼だと彼は答えた。
「どんなものなら喜んでもらえるか、分からなかったんだけど……」
包みを開けてみると、その中には手のひらサイズの熊のぬいぐるみが入っていた。瞳が宝石でできていて、首にも青い宝石のネックレスを着けており、明らかに高価そうな代物だ。
ルサレテは可愛いものが好きだ。こんな可愛らしいぬいぐるみをロアンが買っているところを想像すると、なんだか面白い。
「とても気に入りました……! 大切にしますね」
ぬいぐるみを撫で、にっこりと笑ってお礼を伝えれば、また好感度メーターの数字が変わる。今日はやけに調子がいいみたいだ。
するとそのとき、後ろから聞き慣れた声がした。
「お姉様がどうしてここに? それに、ロアン様まで……」
声の主は、ペトロニラだった。
236
お気に入りに追加
936
あなたにおすすめの小説
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます
結城芙由奈
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】
私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。
もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。
※マークは残酷シーン有り
※(他サイトでも投稿中)
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした
水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」
子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。
彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。
こんなこと、許されることではない。
そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。
完全に、シルビアの味方なのだ。
しかも……。
「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」
私はお父様から追放を宣言された。
必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。
「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」
お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。
その目は、娘を見る目ではなかった。
「惨めね、お姉さま……」
シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。
そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。
途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。
一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。
【完結】都合のいい女ではありませんので
風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。
わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。
サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。
「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」
レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。
オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。
親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。
※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる