上 下
12 / 31

12

しおりを挟む
 
 また別の日。今度は、ルイに関わるイベントが起きた。
 学園の廊下で彼が悩ましげに立っているのを見かけた。彼の目の目の前には教科書が山のように積み重なっている。『イベント発生』の文字が表示された空中ディスプレイを見つつ、話しかけてみる。

「何かお困りですか?」
「仮に困っていたとして、そなたに話す義理はない」
「……ああ、そうですか」

 冷たく突っぱねられたルサレテはすぅと目を細める。
 まぁ、わざわざ聞かずとも、ディスプレイを見れば悩みの内容は分かる。どうやら、ルイは所属している生徒会の会議があったのに、この教科書をすぐに図書室へ運んでほしいと教師から押し付けられてしまったらしい。
 ルサレテは無言で教科書の山を抱える。

「図書室、ですよね」
「どうしてそれを……。それより、何のつもりだ? 僕は別に頼んだ覚えはない」
「はい。私が勝手にやるだけです。ちょうど、本を運びたい気分だったので」
「どんな気分だ」

 さっさと教科書を運び始めると、ルイの好感度が+5上がっていた。

「……すまない。助かる」

 彼はいそいそと会議へ行ってしまった。
 教科書を運ぶだけで好感度が上がるなら、安いものだ。
 好感度を上げるために頑張ってはいる。それでも、開始時の好感度が-100なので、好かれるには程遠い。大嫌いが嫌いになったくらいではほぼ意味がないのに。

「頑張ってるネ~ルサレテ!」

 教科書を持って歩いていれば、目の前にぽんっとシャロが現れた。

「頑張ってるけれど、最初の好感度が低すぎて埒が明かないわよ」
「まぁまぁそう言わズ! ボクは興味深い観察をさせてもらってるヨ!」
「他人事でいいわねシャロは。見てるだけじゃなくてたまには手伝ってよ」

 嫌味を零して睨めつけると、彼は少しだけ申し訳なさそうに言った。

「じ、じゃあここにキミの推しを呼んでアゲル! 好感度を上げるチャンスだヨ! わ~いやったネ!」
「えっ、ちょっと待って、何勝手に――」

 頼んでもいないことを勝手にするなと阻む前に、シャロは画面の中に消えていった。
 その瞬間、教科書の山が崩れそうになり転びかけ、ルサレテの腰が支えられたのと同時に、腕から教科書のおよそ半分の山が取り上げられた。

「ひとりだと大変でしょ。手伝うよ」

 さり気なく気遣ってくれたのは、ロアンだった。好感度は-70。まだ割と、かなり、嫌われている。

「どこまで運べば?」
「図書室です」
「遠いね。こんなに沢山、ひとりで運ぶには無理な量だよ。分けて運ぶとか、そういう工夫はできないの?」

 キャパを考えろと嫌味を言われる。ついさっきバランスを崩していた身では、ぐうの音も出ない。

「あの……親切にしてくださってありがとうございます」
「教科書を落として傷まないようにと思っただけだよ」
「でも……なんだかんだ言って、優しいですよね。私が転ばないように支えてくださいましたし」
「自惚れないで」
「……すみません」

 そのとき、ロアンの好感度が+2上がった。ほんのりと頬も赤く染っていて。

(もしかして、優しいって褒めたから?)

 意外と単純なところがあるのかもしれない。教科書を図書室に運んで戻ると、廊下の途中でルイとペトロニラを見つけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈 
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...