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 ルサレテの怪我は毎日少しずつ回復していき、ようやく歩けるようになった。そこで、怪我をした体を引きずるように、歩いて歩いて、歩きまくった。

 このゲームの世界でアイテムを入手し、攻略対象の好感度を高めるためのイベントに参加するには、ポイントが必要となる。そのポイントを貯める方法は――歩くことだ。

(こんなに歩いたのに……たった1ポイント)

 部屋のひとりがけの椅子に深く座り、換算された歩数の画面を眺めながら思う。
 単純な作業だと思えるかもしれないが、1歩1ポイントではなく、1万歩で1ポイントなので、ポイントを貯めるのは割と大変だ。

 雨の日も、風の日もひたすら歩く。歩いて歩いて、歩き続ける。リハビリにしては歩きすぎで、周りの人から変わり者と揶揄されようとも、ゲームをクリアするために躍起になった。
 唯一、ペトロニラだけは怪しんでいたが知らん顔をした。どうせ彼女には、貯めているポイントを確認をすることはできないから。

 また、婚約者のジェイデンが、頻繁にペトロニラの元に見舞いという体で会いに来るようになった。
 彼はルサレテに階段から突き落とされたと信じ込んでおり、怪我をして寝たきりだったルサレテに会って早々、「君を軽蔑するよ」と吐き捨てた。ルサレテを心配する素振りもなく、ペトロニラには毎日のように花や果物を持ってきて、甲斐甲斐しく世話を焼いた。 
 ジェイデンはペトロニラと話す口実ができたのだから、願ったり叶ったりではないか、と思ったりしている。

(またあのふたり、一緒にいる……)

 部屋の窓から、庭でふたりが楽しそうに話している姿が見えた。ジェイデンの笑顔は、ルサレテに以前見せていたものと明らかに違って、恋をする男のそれだった。
 そのとき、窓から様子を見ているルサレテに気づいたペトロニラが、不敵に口角を上げた。彼女がルサレテへの報復でジェイデンと仲良くしているのだと理解した。

 そしてその日。

「君との婚約は解消させてもらう。僕は……前からペトロニラのことが好きだったんだ。彼女を傷つけた相手と結婚するなんて屈辱、耐えられそうにない」

 階段から落ちた日から1ヶ月が経っていた。居間でジェイデンから婚約解消を告げられる。彼がペトロニラに甘い眼差しを向けていたのを見て、彼女に好意を寄せていることは明らかだった。ジェイデンの横に座るペトロニラの頬は赤く染まり、照れた素振りを見せている。
 しかし、攻略対象たちのこともそうやって思わせぶりして、どっちつかずの態度で振り回したから、好感度がイマイチ上がりきらなかったのだろうと思った。

 母がペトロニラの背を擦りながら、こちらを冷たく見据える。

「こんなことがあった以上、大事なペトロニラの傍にあなたを置いておけないわ。この屋敷から出ていきなさい。ルサレテ」

 一方的に責められ続けたルサレテは俯き、膝の上でぎゅうと拳を握り締める。ペトロニラの言葉を鵜呑みにして、ルサレテにはまったく耳を貸そうとしない両親や婚約者。この人たちに縋っていても時間の無駄なのだろう。ルサレテは、そっと答えた。

「分かり……ました」

 言われたことに全く反発せずに処遇を受け入れ、居間を出るルサレテ。
 廊下に立ったまま、空中ディスプレイを操作する。ポイントを貯めたことで、攻略対象の誰かと接触するイベントが発生している。ルサレテは迷わず――ロアン・ミューレンスを選択肢した。

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