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 デートに出かけてから一ヶ月が経った。エルヴィアナの体調も良くなり、来週から学園に復学することになっている。

 今日はルーズヴァイン公爵邸にエルヴィアナが遊びに来る日だった。二人でまったり過ごすのを楽しみにしていたのだが……。

「やあ。今日はお招きいただきどうも」
「君を呼んだ覚えはないが」
「わ。露骨に嫌そうなカオ」

 なぜかエルヴィアナの他に、ルイスもリジーまで着いて来ていた。招いた覚えはないのに。するとエルヴィアナが申し訳なさそうに謝ってきた。

「ごめんなさい、クラウス様。みんないた方が賑やかで楽しいと思って」

 彼女に悲しい顔をさせてしまうとはなんという不覚。エルヴィアナがクラウスを思ってしてくれたことなら、先に言ってほしかった。知っていたら迷惑そうな反応は決してしなかったのに。

「謝らなくていい。とても嬉しく思う。むしろ大歓迎だ」

 エルヴィアナはよかったと息を吐いた。

「さ、邪魔するよ」

 ルイスは他人の屋敷にずかずかと上がり込み、我がもの顔で先に行ってしまった。昔から彼とは気の置けない友人だが、彼はクラウスに対して遠慮がないところがある。

 するも、少し歩いた先で立ち止まり、こちらを振り返った。

「――で。君の部屋はどこ?」 
「教えるか。応接室はこっちだ」

 私室に入れさせたら、いたずら好きのルイスは何をしでかすか分からない。それに、私室にはエルヴィアナさえ一度も入れたことがない。一応いつも綺麗にしてはいるものの、生活空間に彼女を入れて、センスがないと幻滅されたりしたら嫌だ。

 すると、エルヴィアナがクラウスの裾を摘んで言った。

「わたし、クラウス様のお部屋が見てみたい。あなたがどんな生活をしているのかちょっと興味があるわ」
「よし行こう。一刻も早く。こっちだ」

 即断。彼女のわがままならなんでも叶えてあげたい。可愛い。

 あまりの変わり身の速さに、ルイスは面白そうに笑った。三人をクラウスの部屋に案内した。最低限の家具が備えられた飾り気のない部屋。案の定ルイスには、「面白みのない部屋」だと言われた。彼の反応はすこぶるどうでもいい。

 ルイスはいつもクラウスが使っている寝台を指差して、エルヴィアナに囁きかけた。

「試しに寝ておいでよ」

 何が試しに、だ。とんでもないことをそそのかす男だと思いつつ、慌てて彼の口を塞ぐ。

「エリィに妙なことをそそのかすな」

 エルヴィアナは冗談をすぐ真に受けるタイプだ。まさかとは思うが、婚約者とはいえ男のベッドに好奇心で飛び込むなどという品のない真似を、彼女にさせられるはずがない。

 一方、エルヴィアナの視線は寝台に一点集中している。

「――エリィ?」
「!」

 彼女はびくっと肩を跳ねさせて後退した。それから、周りに汗を飛ばしながら弁明する。

「わ、えと、クラウス様のお使いになる寝台の寝心地とか匂いとか……そういうのは全然気になったりしてないから……!」
「何も言ってないが」

 クラウスは内心で悶えながら、緩んだ口元を手で押さえ、エルヴィアナの肩に手を置いた。

「いくらでも寝てくれて構わない。毎日体を清めているし、シーツも替えているから臭くはないはずだ」
「お、お構いなく……!」

 その様子を見ていたルイスは笑いながらリジーに耳打ちした。

「あの二人、いつもこんな漫才みたいなことやってるの?」
「いつもこんな感じです」
「存在がギャグだね。見ていて飽きないし、からかいがいがある」
「ほどほどになさらないと、そのうち嫌われますよ」
「はは、手厳しいな。親しみを込めてのいじりなのに」
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