【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ

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 アカデミーにいた時代。まだエルヴィアナとの関係は希薄だった。お互いただの政略結婚の相手としか思っておらず、心を通わせようとも考えていなかった。
 しかし、ある転機が訪れる。それをきっかけに、クラウスはエルヴィアナのことが好きになった。

 子どものころからクラウスは無口で大人しく無愛想で、アカデミーの子どもたちの中で浮いていた。貴族とはいえ、まだ分別のない子どもが集まるので、つまらない奴だと悪口を言われることもしばしば。

(また今日も……うまく馴染めなかった)

 休み時間になる度、中庭に出て木の下で一人反省会をするのが日課だった。膝を腕で抱えてちょこんと座り、俯きながらどうしたら社交性を身につけられるかと悶々と悩んでいた。社交性も貴族にとって重要な資質だから、早く身につけろと両親に口酸っぱく言われている。

 するとそこに、エルヴィアナと複数の生徒たちが通りかかった。

「あははっ、エルヴィアナちゃんったら、おかしい……!」
「もう。そんなに笑わないでよ」

 エルヴィアナはリジーと楽しそうに話している。彼女は生徒の中でも特にリジーと仲がいい。リジーの実家には後暗い噂があって、他の生徒たちは親から話を聞いているのか、リジーを敬遠し始めていた。だがエルヴィアナはそれを知っていても全く態度を変えず、一人ぼっちになりかけていたリジーに声をかけている。

(エルヴィアナは凄いな。周りのことをよく見ていて、気が回る。俺は自分のことさえままならないのに)

 エルヴィアナは誰に対しても物怖じせずにはっきり言うし、人見知りもしない。社交的でいつも大勢の人に囲まれている。……気が強くて短絡的なところがあるため、たまに揉めているところも見かけるが。

 自分はうまく人付き合いをしろと親にいつも厳しく言われているのに、いつまでたっても友人ができない。人の感情の機微に鈍感だし、気の利いたことが言えない。ついでに面白みもない。

 いっそ、何もかも投げ出して逃げ出したいとさえ思ってしまう。

 エルヴィアナが友人たちと楽しそうに話しながら歩いていくのを、眩しく思いながら眺めていたら、彼女がこちらの存在に気がついた。

「ごめん、みんな先に行ってて?」
「はーい」

 そう言ってグループから抜け出し、こっちに来る。

(……綺麗だ)

 優雅に歩く姿はまるで花のようだった。どんなときも余裕があり、洗練された振る舞いをする彼女。エルヴィアナは同じ年の子どもたちよりどこか大人びていた。風に吹かれて長い黒髪がはためくさまに、息を飲む。

 彼女はクラウスの目の前に立ち、前髪を耳にかけながら尋ねてきた。

「こんなところで何をなさっているの?」
「…………それは」

 クラウスは気まずそうに目を逸らした。

「一人反省会だ」
「一人反省会」

 絶対に馬鹿にされる。そう覚悟したが、彼女は笑ったりせずに隣に腰を下ろした。座る瞬間、ふわりと甘い香りがした気がしてどきっとする。なぜかエルヴィアナが近くにいるときは緊張するし、やたらと血圧が上がる気がする。
 ……これは後になって気づいたことだが、このころから多分、彼女のことを異性として意識はしていたのだと思う。
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