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しおりを挟む馬車に揺られてしばらく。到着したのは郊外の小さな街。陽射しが眩しくて、爽やかな風が肌を撫でる。
エルヴィアナとクラウスは、穏やかな街をのんびり歩いた。
彼に先導され、辿り着いたのは背の高い針葉樹が立ち並ぶ森。山の麓ふもとに護衛の者を待機させる。穏やかな丘を進んだ先――あまりの美しい光景に息を飲んだ。
木が生えていない開けた空間に、ポピーの花が一面に咲き誇っている。見渡す限り、赤やオレンジ、黄色の色調豊かな花畑が広がっている。それはまるで、絨毯のようだ。
「…………綺麗」
エルヴィアナは思わず、感嘆の息を漏らした。
すると、クラウスが少し屈みながらこちらに片手を差し出してきた。彼がエスコートしようとしているのだと理解し、手をその上に重ねる。できるだけ花を踏まないように細心の注意を払いながら花畑の中を進み、花が生えていない木の根元にレジャーシートを敷いて腰を下ろした。
「気に入ってくれたか?」
「ええ。とても」
花を摘み、慣れた手つきで茎を編み始める。出来上がった花冠をクラウスの頭に被せると、彼は少しだけ困惑したように眉を下げた。
「よく似合うわ」
「……そうか?」
作ってきたお弁当を食べながら、おしゃべりをして。普段より時間の流れがゆったりしているような気がする。
「そうだ。クラウス様にお渡ししたいものがあるの」
持ってきた鞄を探って箱を取り出して渡す。可愛くラッピングしてあるリボンを覚束ない手つきで解き、蓋を開ける彼。
箱の中には、パステルカラーのアイシングクッキーが収まっている。花をモチーフに、精緻を極めた模様が描いてある。
「凄いな。芸術品みたいだ」
クラウスは目を見開き、感嘆の息を漏らした。昨日一日かけて作った大作なので、褒めてくれて嬉しい。
「これはマーガレットで、こっちはバラだな。これは――」
「ガーベラね」
「よく出来ている。立体に絞るのは難しいんじゃないか?」
「慣れれば結構簡単よ」
最初は難しいが、数を重ねたら誰でも上達する。好きこそ物の上手なれ、だ。
「君は器用だな。ありがとう、一生大切にする」
「一生……」
壊れ物を扱うように、慎重に蓋を閉じようととするクラウス。クッキーなので一生取っておくことはできないと思うのだが。
「ここで食べてくれないの?」
「なくなってしまうのが惜しくてな」
それを聞いて、エルヴィアナはくすと笑う。これは多分、放っておいたらいつまでも食べられなくなるパターンだ。
「またいつでも作るわ。せっかくだから感想を聞きたいのだけれど」
「分かった」
あえて今食べるように促す。クラウスは閉じかけた蓋をもう一度開き、どれを食べようか悩み出した。一分、二分、三分……と、時間が過ぎていく。急かすのは悪いと思い待っていたが、十分経過してとうとう痺れを切らしたエルヴィアナは、箱の中のクッキーをひとつ指差した。
「これがオススメ」
指差したのは、つつじの花と葉のリースを描いたクッキー。中央には『いつもありがとう』のメッセージが書いてある。クラウスは無表情のまま、こちらに箱を差し出して言った。
「食べさせてほしい」
「!」
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