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しおりを挟む魅了魔法の呪いは解けた。伏せってばかりだった体調も、少しずつ回復していった。
そして今日は、クラウスとピクニックに出かける日。焼き菓子を焼いて、サンドイッチを作り、バスケットに詰めた。リジーに身支度を整えてもらったら準備万端だ。
鏡台の前に座り、リジーに髪を整えてもらう。
「今日はどんな髪型にしましょうか?」
「後ろでひとつにまとめてちょうだい」
「分かりました。ちょっと編み込みますね」
彼女は器用にエルヴィアナの黒髪を結い始めた。少し前まではクマがひどくて顔色も悪かったので、白粉で誤魔化していたが、今は元の健康的な色を取り戻している。
鏡越しにリジーの腕が見えた。一介の侍女がつけるには高価すぎるブレスレットが袖口の近くで輝いていた。
「そのブレスレットは……」
「すみません。仕事中は外すつもりだったのですが、うっかりつけっぱなしに……」
「ううん。咎めている訳じゃないわ。ただ素敵だと思ったの。ルイス様からの贈り物?」
リジーはかっと顔を赤くして、ブレスレットをそっと撫でながら「はい」と頷いた。
エルヴィアナの呪いが解けたことで、リジーはルイスとのことを真剣に考え、求婚を受けることにしたらしい。
「幸せそうで何よりね」
彼女は柔らかい表情を浮かべながら、また頷いた。ルイスは公爵位を叙爵されているので、結婚したらリジーは公爵夫人という地位になる。彼女は元貴族とはいえ庶民。嫁入りしても大変なことは多いだろうが、ルイスは聡い人なので安心して任せられる。きっとしっかり彼女のことを守ってくれるだろう。
リジーの腕で煌めくブレスレットを、微笑ましくも少しだけ羨ましい気持ちで眺めた。自分もクラウスとの愛情の証を形として身につけられたらいいのに、と思った。
「リジーはいつここを出ていくの?」
「それは……まだ考えていません」
「そう」
ずっとリジーがルイスと結婚して自立することを願っていた。でもいざ別れを意識してみると。いつも傍にいた彼女がいなくなるととても寂しい。
「もしかして、寂しがってます?」
「むしろ、主人の言うことをちっとも聞かない口うるさい人がいなくなって……せいせいするわ」
「ふふ、素直じゃないんですから」
彼女は楽しそうに笑い、結い上げたエルヴィアナの髪に飾りをつけた。
「ここを離れても……ずっと友だちでいてくれますか?」
鏡に映るリジーの顔も、どこか寂しそうで。エルヴィアナはくすと小さく笑い、「当然でしょ」と答えた。
約束の時間ぴったりに、クラウスが迎えに来た。白いジャケットとシャツに細身のスラックスといったカジュアルな装いだったが、彼が醸し出す高貴さは少しも損なわれていない。
すると、主人より先にリジーがクラウスの前に出て挨拶をする。
「例のものは用意してくれたか?」
「もちろんです。ご査収くださいませ」
何かが入った紙袋を渡すリジー。クラウスはあからさまに歓喜しながら、お礼の品物をリジーに返している。
(闇取引の現場?)
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