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 エルヴィアナはすぐにクラウスの後を追いかけた。

(わたしのせいでルイス様まで……)

 魅了魔法のせいでルイスが変わってしまったことに罪悪感を抱く。それに、クラウスの様子もおかしかった。彼がルーシェルの言葉を鵜呑みにしているとは思えない。彼なら、エルヴィアナの話を直接聞こうとするだろうから。なのにまるで失望したような態度で広間から出て行ってしまった。

「クラウス様、待って」
「……」
「誤解なの。わたしが飾り紐を贈ったのはあなただけよ。お願い、わたしの話を聞いて?」

 廊下を歩いている後ろ姿を見つけて、声をかける。近くの客室を借りて、話すことにした。



 ◇◇◇



「――という訳だ。すまない、エリィ」

 クラウスから告げられたのはある作戦のことだった。

 ルーシェルはクラウスに岡惚れして、エルヴィアナとの仲を引き裂こうとしている。また、魅了魔法の呪いのことを知っている。更に、エルヴィアナに呪いをかけた魔獣に似た獣を飼っている可能性がある。

 クラウスが王城の者たちに探りを入れたら、つい最近まで彼女の部屋に例の獣がゲージで飼われていたという。けれど今はどこにいるのか分からないと皆が口を揃えた答えた。

 そこで、ルイスに一役買ってもらうことにした。

「つまり……王女様から本音を引き出すための演技だったということ……?」

 ルイスは、魅了魔法にかけられて、エルヴィアナに惚れている演技をしていたのだ。

 そもそも、クラウスの生家のルーズヴァイン公爵家は、王室と密接な関係にある一族。上流貴族の中でも大きな勢力を持っている。その嫡男に虚偽をそそのかして、婚約者との関係を引き裂こうとすることは、王女であっても許される振る舞いではない。

「そうだ。ルイス王子はエリィに惚れたフリをすることで、ルーシェル王女がどう出るか試した。この件はそのまま両陛下に奏上される」

 今日の広間での出来事は、ルイスがルーシェルの悪行を実際に確認するためだった。彼が証人となり、国王や妃に事の仔細を報告すれば――。国王は非常に厳格で、貴族同士の友好関係を重視する人なので、ひどく咎められるだろう。

 きっと、クラウスに接近して妙なことを吹き込むことはなくなる。魔獣も差し出すようにしてくれるはずだ。

「すまない。君を騙すようで心苦しかった」
「まぁ妥当な判断ね。……わたしはすぐに顔に出るから」
「……それは否定しない」

 もし事前に知らされていたら、すぐにボロが出てルーシェルに疑われていたことだろう。というか、クラウスも終始申し訳なさそうな様子でちらちらエルヴィアナの様子を伺ってばかりだった。たぶん、彼も人を騙すことに向いていない。似た者同士だ。

「わたしがお慕いしているのは、クラウス様ただお一人ですかはね。昔も今も――これからも」
「知っている」

 その言葉で、すっと肩の力が抜けていく。
 するとそのとき。コンコン、と扉がノックされて、向こうから鈴を転がすような甘い声が聞こえた。

「――クラウス様。お入りしても?」

 その声は、ルーシェルのものだった。
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