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しおりを挟む「ねぇ見てあの人。超カッコよくない? 王子様みたい」
「ぶっちゃけここにいる店員さんよりイケメンじゃない?」
「分かる。あのレベルはそうそういないよね」
女性客たちはちらちらとクラウスのことを覗き見ていた。男性客が珍しいからというだけでなく、その造形美に感動している。
確かに、クラウスほど美しい人は滅多にお目にかかれるものではない。
溢れ出るノーブルさは、育ちの良さから来るものだ。彼は本物の大貴族のボンボンで、幼少のころから洗練した所作や振る舞いをするように叩き込まれている。あの女性客たちも、そんな高貴な男が庶民的な店に来て遊興に耽っているとは思いもしないだろう。
クラウスのところだけ後光が差してるようで、目を眇めた。すると、女性客たちは更に噂話を続けた。
「一緒にいる女の人も凄い美人だよね。絵かと思った。恋人かな?」
「でもなんかちょっと怖くない? 目つきとか。彼が王子様ならあの人は姫っていうより意地悪な悪役って感じ」
「ああ、分かる」
好き勝手言われ放題だ。けれど、社交界や学園で悪い意味で注目され続けてきたし、謗りを受けることにはもう慣れている。
エルヴィアナはつり上がった目にはっきりした顔立ちをしていて、無表情でいるだけで怖がられることがある。峻厳とした佇まいのおかげで、男と間違われることも。
(意地悪な悪役とは、なかなか的を得ているじゃない)
学園で男をたぶらかす『悪女』と名高いエルヴィアナ。ふいに噂話をしている女性の一人と目が合う。エルヴィアナは挑発するように片眉を上げ、静かに目線で威圧した。彼女はさーっと青ざめて俯いた。これでもう彼女たちの不愉快な話題の材料にされることもないだろう。
(人の外見をあげつらうのは、貴賎に関係なく人としてどうかと思うわ)
下町の若い人は無粋だと思った。けれど、噂好きなのは庶民も貴族もそう大して変わらないのかもしれない。
「俺の目には女神に見える」
どうやらクラウスの耳にも噂が聞こえていたらしい。
「フォローは結構よ。こういうのは慣れてるから」
しかし、クラウスは口を止めなかった。
「君の凛とした眼差しも、芯の強さを感じさせる面立ちもとても魅力的だ。ずっとそう思っていた」
「……ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
「慰めてくれなくていいって言ってるでしょう? 悪役ヅラなんて、飽きるくらい言われてきたもの」
フォローしてくれなくたっていい。正統派で誰もが絶賛するクラウスとは違うことくらい、自分でよく分かっている。
クラウスは小さく息を吐いてこちらを静かに見据えた。
「慰めたかった訳ではない。要するに――君の可愛さを理解しているのは俺だけで十分だということだ」
「…………」
予想外の切り返し。
(それって……独占欲)
彼のつつじ色の瞳が熱を帯びた気がして、気まずくなって視線を下に落とした。
生クリームがふんだんにかかったワッフルをナイフで切り、一口くちに運ぶ。さっきよりもなぜか甘く感じたのだった。
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