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しおりを挟むエルヴィアナのことを『レディ』と呼ぶのは、魅了魔法に当てられた取り巻き美男子たちだけ。この人たちは会って間もないから、魅了魔法をかけるような隙はなかったはず。
(どういうことなの……?)
硬直しているエルヴィアナに、クラウスが囁く。
「王子カフェだ」
「おうじかふぇ」
「なんでも、王子のように美しい男子たちを目の保養にしながら食事を楽しむコンセプトで、巷の女性たちの間で人気らしい」
確かに、店内には見渡す限り女性客しかいない。派手に着飾った美男子たちに甘い接客をされながら、紅茶やスイーツを楽しんでいる。
(いや、どんなチョイス!)
真面目な顔をしてどこに連れて行かれるかと思えば、ちょっと特殊なコンセプトカフェで反応に困ってしまう。
「二名様でよろしいですか?」
「ああ」
「では、お席にご案内いたします」
案内されたのは、ホールの中央の席。
内装は、物語のお姫様が暮らしていそうなお城を思わせるメルヘンさで。エルヴィアナは実際に王城に入ったことがあるが、実際はもっと落ち着いた雰囲気だ。
それにしても、女性客しかいない中にクラウスがぽつんといると、違和感がある。
「あの、どうしてこちらをお選びに?」
まさか彼にはこういう趣味があるのだろうか。不審に思い、内緒話をするように口元に手を添えて尋ねてみる。
「君は美男子が好きなのだろう? 喜んでくれると思ったが、失敗だっただろうか」
「!」
失念していた。自分が美男子好きの悪女として通っているということを。大事な設定を忘れてはいけない。今からでも美男子たちを見ながら目を血走らせておいた方がいいだろうか。
「あ、ああそう! 綺麗な男の人は好きよ、大好き」
「…………」
すると、ただでさえ無愛想な彼の表情が更に険しく暗くなる。ずーんとあからさまに落ち込んでいる様子。自分から誘っておいてショックを受けているらしい。
「えっと……でもわたし、クラウス様が一番綺麗だと……思うわ」
「そうか」
そう伝えれば、明らかに満更でもなさそうな顔を浮かべる彼。表情の変化に気付かないふりをして、手元よメニュー表に視線を落とす。
特別メニューには、美男子からの"あ~ん"や"頭なでなで"といったサービスがついていて。だが、エルヴィアナは美男子から奉仕されるのはうんざりするほど経験してきた。全く心が踊らない。帰りたい。
とりあえず、美男子と手を合わせてハートを作るというサービス付きのメニューを選び、店員を呼んだ。
「わたしはこの"癒しのらぶカプチーノ"を、」
「却下だ」
「…………」
注文を口にしたところで、なぜかクラウスに止められる。
「じゃ、じゃあこっちの"トキメキ溢れるロマンチックワッフルプレート"を……」
「絶対に却下だ」
「…………」
後者は、美男子がハイタッチをしてくれるサービスがついているものだった。これも駄目なら何を注文したらいいのだろう。……それにしても品名がうるさい。クラウスはサービスが付かないノーマルメニューを二人分注文した。
普通のメニューを頼んだのでは、わざわざこの店に来た意味がなくなる気がする。
「すまない。君に他の男が触れるのは耐えられない。弾みで殺してしまうかもしれない」
「こわい」
そんなあっさり物騒なことを言わないでほしい。メルヘンな世界観がぶち壊しだ。けれど、内心で安堵した。身分を隠してお忍びでやって来たが、曲がりなりにもエルヴィアナは貴族令嬢。未婚の乙女が男に触れられるのは、貴族の規範である貞淑さに反する。
(どうせ頭を撫でてもらうなら、クラウス様がいいのに)
そんなことを考えていたら、まもなく注文したワッフルとドリンクが運ばれてきた。
二人の間に特に会話はなく、黙々とスイーツを食べるだけの時間が続いた。すると、周りの席からやけに視線が集まっていることに気づいた。
「ねぇ見てあの人。超カッコよくない? 王子様みたい」
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