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しおりを挟むとある休日。エルヴィアナはリジーと共に街の手芸店に出かけた。
普段は魅了魔法の呪いを気にして外出を極端に控えていたが、今日はどうしても自分で店頭に行って選びたいものがあった。
(あ……このビーズ可愛い)
棚に並んだ糸とビーズを吟味していると、若い女店員がやって来て愛想良く声をかけられた。
「お客様、もしかして"飾り紐"を贈るご予定ですか? もしよろしければお手伝いさせていただきますが」
棚の看板には、でかでかと『恋人や好きな人に贈る♡素敵な飾り紐作り』と書かれている。そう。例によって今日はクラウスにプレゼントする飾り紐の材料を買いに来たのだった。けれど、それを素直に認められるエルヴィアナではない。手に持っていたビーズを早急な動きで棚に戻し、無愛想に言った。
「べ、別に、飾り紐はついでみたいなものよ。たまには裁縫をいいと思って。あ、あの人に喜んでほしいとか、特別な意味なんてないんだから」
「は、はぁ……」
エルヴィアナの反応に戸惑う店員。するとリジーがにっこりと笑顔を浮かべながらこちらに耳打ちした。
「誰もそこまで言ってませんよ。そんな古典的なツンデレ台詞はいいですから、素直に相談してみては? 最近の流行りとかもあるでしょうし」
エルヴィアナは気まずい顔を浮かべながら、「手伝っていただけますか」と店員に頭を下げた。
◇◇◇
買い物を済ませて、買った材料を抱えてほくほくしながら街の通りを歩いた。いつもは人通りを避けてばかりだったが、たまには街を歩こうとリジーに強く誘われて拒めなかった。
(来ないうちに新しいお店が増えてるわね)
活気に満ちた街が、見渡す限り続いている。可愛らしいメルヘンチックな建物や、シックなレンガ調の建物など、色んな雰囲気の店が軒を連ねていた。
しかしリジーは店には目もくれず、黙々とどこかへ向かっている。どこに行くのかと聞いても全然答えてくれない。
「リジー、早く馬車に戻りましょう。下手に誰かと接触して魅了魔法が発動したら大変だもの」
「そうやって引きこもってばかりでは、その内病気になってしまいますよ。魅了魔法にはある程度の発動条件がありますし、お嬢様も上手くコントロールできてるじゃないですか。そう滅多なことはありませんよ」
つい最近、その滅多なことが起きて婚約破棄を失敗したばかりである。呆れつつもリジーに着いて歩き、紙袋をはい、と渡した。
「これ、あげる」
「先ほど手芸店で購入されたものですよね? クラウス様のためのものなのでは……」
「あなたの分も買っておいたの。ルイス様に飾り紐を作って差し上げたら? 彼も狩猟祭に参加するようだから、きっとお喜びになるわ」
リジーは没落した元貴族令嬢。幼少のころから第七王子ルイスの妃候補だった。
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