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リュカ(本編補足)

16話

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 一緒に依頼をこなした翌日も、昼過ぎにギルドへ向かった。

 昨日、犬の世話をしながらザガンに聞いてみたところ、基本的にギルドを訪れるのは昼過ぎだそうだ。依頼を確認して、めぼしいものがあれば受けて、翌昼以降に帰ってくる。帰ってきたら依頼達成報告や素材換金をして、夜はゆっくり休み、また翌昼に依頼を受ける。そんなルーティンだって。

 気まぐれで午前中に行くこともあるそうだけど、今日は大丈夫。だって昨日のうちに約束したからね。今日も一緒に依頼を受けようって。

 冒険者ギルドの中に入ると、ザガンは先に待っていた。うんうん、昨日ずっと遊んでいる犬達を見守っていたし、近付いてくる子は撫でていたからね。無表情ながらも幸せそうだったので、今日もとても楽しみにしてくれていたに違いない。

 邪魔にならないよう壁際に立っているにもかかわらず、周囲を威圧しているのは、人に絡まれるのを避ける為だろう。そんな風貌も、30年見続けてきたザガンのまま。

「ザガン、待たせてごめんね」

 でも声をかけながら近付いていけば威圧を消してくれるし、俺を見てくる赤い双眸は今日もキラキラしていて、どうしても心臓が高鳴ってしまう。あと言葉の代わりにコクリと頷いてくる仕草が、とても可愛い。

「じゃあさっそく受けようか」

 また頷いてくれた。ホント可愛いなぁ。ちゃんと俺の傍まで来てくれるのも可愛い。
 Gランク掲示板に犬の世話があったことにホッとして、それをカウンターに持っていく。そして一緒に依頼を受けたら、すぐに施設に向かった。

 今日もザガンと世間話をしながら歩いたし、昨日と違った顔触れの犬達を見つめるザガンの柔らかな雰囲気に、愛しさが募る。そろそろ友人くらいにはなれたかな。……まだ早いかも? もっと仲良くなるには、とにかく一緒にいる時間を増やすしかない。

 だから3時間後。依頼を終えたから、ザガンを誘ってみた。

「ねぇザガン、もうすぐ夕食の時間だし、よければ一緒にどう?」

 帰ろうとしていたザガンは、足を止めてじっと俺を見上げてくる。可愛い抱き締めたい、じゃなくて。

「えっと、駄目かな?」
「……仲間がいただろう。そいつらが待っているんじゃないのか?」
「実は元々君を誘うつもりでいたから、夕食はいらないって断ってきてるんだよね。だからザガンに断られると、1人寂しい時間を過ごさないといけなくなっちゃう」
「俺が入れる店は限られている。そんなところに王子であるお前を連れていって、問題にならないかどうか判断付かない」
「ザガンと一緒に食べられるなら、屋台でも良いんだけど……」
「なるほど、リュカ自身はどんな店でも構わないのか。では店側に聞いてみて、断られた時には屋台にしよう」

 良かった、了承してもらえた。ノエル達のことを出された時は、断る口実を探しているのかと落ち込みそうになったけど、気遣ってくれていただけみたい。ホント優しいなぁ。

 ザガンに案内されたのは、裏通りにある酒場だった。冒険者ギルドから約5分程度の距離なだけあって、冒険者御用達らしい。でも料金が高めなので、粗野な者はほとんどいないとか。暴れようものなら店主に威圧されてブッ飛ばされるそうだ。こういう場所に構えている店舗の主は、だいたい元冒険者だとか。

 ドアを潜れば、あちこちから楽しそうな声が聞こえてくる。気配を抑えているので、注目されることもない。

「いらっしゃいませー! 2名様ですか?」
「そうだ。ところで店主はいるか? 王子が座っても問題無いか、聞いてほしい」
「えっ……あ、は、はい。少々お待ちください」

 声をかけてきた店員に聞くと、彼女は慌てて奥に入っていった。そのあとすぐに出てきたのは、厳つい男性である。料理をしている最中だったのか、フライ返しを手に持ったままだ。

「お、おお。本当にリュカ王子じゃねぇか」
「俺のこと知ってくれているなんて、嬉しいな。ありがとう」
「新聞で何度か見てますし、一昨日の外門出迎えにも行ったんで。いや、うちに来ていただけるなんて、すげぇ光栄です。でも王子なのに、酒場の料理で良いんですかい?」
「むしろそういう気軽なものが食べたいんだ。それに友人は生粋の冒険者でね。ここを断られたら、屋台に行こうと話していたくらいだよ」
「そうなんですかい。ならぜひ、うちで食べていってください。どれも自信作なんで」

 ということで無事了承をもらえたし、そのまま店主が席に案内してくれた。椅子に腰掛けてすぐにザガンがメニューを開いて、俺にも見えるようにテーブルに置いてくれる。

 ところで先程サラリと友人宣言してみたけど、ザガンの意識には引っかからなかったみたいだ。違和感を覚えたとしたら、俺をじっと見つめてきただろうし。つまり、もう友人ということだよね。こんなに早く関係が前進してくれて、嬉しいなぁ。

 笑顔でザガンを見つめていたからか、彼はメニューを捲っている手を止めて、首を傾げてきた。

「リュカ、気になる料理はないのか? 何か食べたいものは」
「どれも美味しそうに見えるけど、具体的な味はわからないから、ザガンが選んでくれると助かるよ」
「そうか。ではなるべくお前が食べたことのなさそうなものを選ぼう」

 俺がほとんどメニューを見てなかったことに気付いてるはずなのに、特に言及してこないザガン。

 昨日今日と話していて判明したことだけど、ザガンは言葉を濁されたり誤魔化されたとしても、少しも追求してこない。
 例えばザガンを見つめていて、視線に気付くと不思議そうに首を傾げてくる。でもなんでもないよと告げれば、そうかの一言で終わるのだ。どれだけ焦っていてもサラリと流してくれるので、まだ告白出来無い現段階では、正直とても助かっていた。

 タイミングを間違えて告白して断られようものなら、身が引き裂かれるくらいに落ち込んでしまうのは必至。だから確実に受け入れてもらえると確証が持てるまでは、告白しないつもりでいる。それがいつになるかは、まったく見当付かないけれど。

 はぁ……好きな人に振り向いてもらうのって、とても難しいな。でも焦ってはいけない。俺自身、無遠慮に寄ってくる貴族令嬢達に辟易しているので、匙加減が重要なのは理解している。

 しかもザガンは男性であり、どう考えても異性愛者だ。なにせ今ここにいるザガンの半分は、俺のアカシックレコード……あのゲームをプレイしていた人だから。そしてもう半分が、妹だと判明したノエルを陵辱することも厭わないザガンとくれば、恋愛対象は疑いようもなく女性じゃないか。

 もちろんそれが大多数の性的指向であり、俺もかつては女性のみが恋愛対象だった。挙句に現在なんて、人間嫌いである。熱い視線を向けられるのが苦痛なほどに。なのにザガンからはそう見られたいと思っているなんて、すごく我儘かもしれない。でもどうしようもなく好きなんだから、仕方無いじゃないか。

 とにかくまずは、俺を恋愛対象として意識してもらえるようにならないといけない……んだけど、どうすればいいかサッパリわからない。こんなふうに会っていれば、いつかザガンも俺を恋愛感情として好きになってくれる? いや無理だよね? どこまでいっても、友情での好きにしかならないよね?

 ちなみに貴族間の恋愛は、まず何度かデートをして交流を深める。そして交際しても良いと思えば、次に行うのは魔力相性チェック、つまりセックスだ。稀に魔力の相性が悪くて、身体を合わせるのが苦痛という場合があるから。相性が悪いと子供も望めないので、跡取りを必要としている貴族達は、交際前に相性チェックするのが習わしである。そして問題無ければ告白して、ようやくきちんと交際開始になる。

 令嬢達に積極的な人が多いのも、この魔力相性が理由だろう。逆に相性がすごく良ければ、心など関係無く、身体から墜落させられるかもしれないから。なので第2王子という、彼女達においての最優良物件に、群がってきてしまう。

 ……ザガンに意識してもらう為には、俺もそれくらいの気概で臨むべき? いやでも、無理矢理しようとしたら剣を抜かれそうだし、確実に嫌われちゃうよね。ザガンが同性愛者であればこの容姿で落とせたかもしれないけど、そうじゃないし。いっそ先に告白した方が良いのだろうか。しかし、そのタイミングもわからない。

 どうしようか悩みながらも、料理に使用されているモンスター素材について説明してくれるザガンの言葉に相槌を打つ。そのうちテーブルが賑やかになり、ザガンが小皿に取り分けてくれた。

「ん、美味い。リュカ、これすごく美味いぞ」
「ホントだ、美味しいね」

 あまり馴染のない味付けだけど、確かにとても美味しい。照焼きだっけ。こっちのネギ巻も美味しい。そもそもどれも器から小皿に取り分けるものばかりで、ザガンと同じ皿から食べているというだけで全部美味しく感じるし、幸せだ。

 ところで全体的に肉料理が多いけど、ザガンは肉が好きなのかな? 酒はそれほど進んでないけど、代わりにどんどん食べていく。口いっぱいに入れてもぐもぐしてるザガン、すごく可愛いなぁ。





 店から出ると、雪が降っていた。外気の寒さが、酒でほんのり熱くなっていた頬を冷やしてくる。夜に雪という静かなシチュエーションはベッドに誘ってもおかしくない雰囲気だけど、友人になったばかりのザガンに、そんなことは出来無い。

 せめて別れ道まで、ちょっとでも彼に触れられるようにと肩を並べた。腕が触れても距離を取られないし、近すぎると文句も言ってこない。もしかしてザガンも、俺に触れたい……なんて、あるわけないよね。まったく意識されていないだけだ。寂しいけど、今のところは嫌悪感を抱かれていないだけマシと思っておこう。

「この様子だと、明日は積もりそうだね」
「ああ。動けなくなるほどではないと思うが」
「屋敷の敷地内を雪掻きしないといけないから、あまり積もらないでほしいなぁ」
「……そうか、自分達で雪掻きするものなのか」

 王子が雪掻きすることに驚いたのか、ザガンが見上げてきた。それだけで嬉しくて、でも出かかった言葉は飲み込んでおく。明日もデートしようと誘いたかったけど、そろそろダンジョンに潜る準備をしないといけないから。国から支給された鎧を着けているノエルは問題無いが、他のメンバーは防具を買わないと危険である。特にベネットは、現段階では防御力ゼロに近い。

 ポツポツ話しているうちに別れ道まで来てしまい、ザガンが俺から離れてしまう。

「じゃあな、リュカ」
「ま、待ってザガン!」

 背中を向けた彼を慌てて引き留めれば、すぐに振り返ってくれた。見つめてくる眼球の強さに怯みそうになりながらも、口を開く。

「君にお願いがあるんだ。良ければ、俺の仲間になってほしい。君がいれば心強いし、きっとすごく楽しい旅になるから。……駄目、かな」

 大好きな君と、ずっと一緒にいたい。毎朝起きたら君とおはようの挨拶をして、一緒に食事を取り、鍛錬をして、眠る直前までいろんな話をする。そんな素敵な生活がしたい。それにアプローチ出来る機会がグッと増えるから、すぐにでも友情を超えて、恋愛対象として意識してもらえるようになるかもしれない。

 でもそんな期待とは裏腹に、ザガンは首を横に振ってきた。

「お前はまったく気にしていないから、あえて指摘したくなかったが……俺は闇属性だ。そこにいるだけで憎悪を向けられ、悪と罵られる。そのように差別されている人間を、傍に置くことは推奨しない。闇属性というだけで攻撃してくる者もいるしな」
「あ……そう、だった。君と一緒にいたいあまり、いろんなことが抜けてしまっていた」
「常に髪を隠しているからな。一見して闇属性だとわからなければ、当事者以外はそんなものだろう」

 違う、君が闇属性なのは、ずっとずっと前から重々承知している。だってかつての君は、黒髪を隠していなかったから。闇属性だからと差別し危害を加える人間を容赦無く殺害する、そんな圧倒的強者。

 ただタイムリープしているうちに物語の世界だと勘違いして、絶望して、差別どころではなくなってしまっていた。ザガンがどうして暗殺者になったのか、どうして死ななければならなかったのか。全ては闇属性への差別が原因なのに。

 しかも20年振りに再会して、君を好きになって。キラキラした恋心に浮かれてしまい、自分の感情ばかり優先していたことに、ザガンに指摘されてようやく気付いた。こんなにもザガンが好きなのに、大好きな人の境遇について忘れていたなんて、あまりにも酷い。

「ごめんねザガン。君を悲しませてしまった。本当に、ごめん」

 無表情だし声も淡々としていたけど、悲しくないはずがない。
 かつての君は両親から虐待され、大森林に捨てられてからも差別され続けて、最終的には闇組織からも裏切られた。今回だって虐待は避けられたものの、差別のせいで結局屋敷の地下に幽閉されているし、10歳になる前には屋敷から出ている。そして差別のせいで、冒険者なのに疎まれて、独りで活動している。そんなの、悲しいに決まってる。

 申し訳無くて、苦しくて。顔を上げられずに目を伏せていると、視界にザガンが入ってきた。じっと見つめてくる赤い双眸は相変わらず綺麗で、心が震える。衝動に駆られるまま抱き締めたくなる。

「別に悲しくなどないし、お前が差別せず、俺個人を見てくれることは嬉しく思っている。感謝するリュカ」
「……うん。こちらこそ俺を煙たがらずに、仲良くなってくれてありがとう。また今度、一緒に依頼受けようね」
「……気が向くものであれば、受けてやらなくもない」

 再び背中を向けられる瞬間、フッとザガンが微笑んだ気がした。もしかしたら錯覚だったかもしれない。それでも視線を外せなくて、雪の降る中、遠ざかっていく背中をひたすら見つめ続けた。





 屋敷に戻ると、びしょ濡れになっている俺を見て、みんなが心配してくれた。カミラが炎を出してニナが風を起こし、その間にもノエルが紅茶の準備をしてくれ、ベネットが風呂を沸かしに俺の寝室まで走ってくれる。
 リビングで木彫りを作っていたらしいミランダも、作業を再開せずに話しかけてきた。

「外に長時間出てないと、普通そんなに濡れないだろう。約束していた友人ってのと、何かあったのかい?」
「ううん、何も無いよ。ただちょっと、自分の軽はずみな言動に落ち込んで、動けなくなってただけ」

 ミランダには、ザガンのことは話せない。ミランダは闇属性に婚約者を殺されたせいで、闇属性を心底憎んでいるから。それをわかっていたからこそ彼女達には友人と会うとしか説明しなかったはずなのに、ザガンと一緒にいたいあまり、いろんな事情を忘れてしまっていた。自分の欲求に流されて大事な人を傷付けるなんて、ホント無神経で情けない。

「その軽はずみな言動とやらのせいで、相手を怒らせちまったと?」
「怒ってないよ。ただ理由をきちんと言われたうえで、駄目だと窘められてしまって」
「なんだ、喧嘩別れしたわけじゃないのかい。それなら気にする必要無いね」
「そうですね。自分が思っているよりも相手は気にしていないことって、よくありますし」

 ミランダの言葉に、紅茶を入れてくれたノエルが同意し、カミラも頷く。

「うむ。しかも理由を述べてきたということは、相手は冷静沈着なタイプであろう? そういう人間は、あらゆる感情を自己完結させる傾向にある。ゆえに次回会った時に、気まずくなるということも起こらん。お主自身が反省したのなら、あとは風呂にゆっくり浸かり、早く眠ることを推奨するぞ」
「雪降っちゃってるから、これから鍛錬も出来無いしねー。私ももうお風呂に入ろっかな。ベネット、こっちのお風呂は沸かしてる?」
「あ、は、はい。先程スイッチ入れてきました。もうしばらくすれば、入れます」
「ありがとうベネット! じゃあ今日は……誰と一緒に入ろうかな?」
「ニナ、私がお供しますよ。今夜は早めに休みたい気分ですから」

 みんなが和気藹々と慰めてくれる中、ノエルが俺を見ながらそう言ってきた。ちょっと怒っているのが伝わってくる。ノエルだけは相手がザガンだと知っているし、彼女の大好きな兄に断られるような言動をしたとなれば、当然のことだろう。

 そして予想通り、入浴を終えたあとに、ノエルが部屋を訪ねてきた。

「それで? 兄様に何をしてしまったんですか? 内容によっては、兄様の代わりに私が怒りますよ」
「ホント情けないから、怒ってほしいくらいだよ。実はザガンに、仲間になってほしいって言っちゃってさ」

 でも同行は断られたこと、その理由が闇属性の差別にあること。しかもそれらを差別されているザガン本人に説明させてしまい、落ち込んでいることを話す。

「確かにザガンは冷静沈着だけど、傷付かないなんてあるわけないじゃない。あぁもう、ごめんねザガン。でも大好きなんだ、どうしても君と一緒にいたいんだ」
「……私も兄様を前にしたら、興奮のあまり一緒にいてほしいと告げてしまいそうです。兄様にまた会えて嬉しいと。でも闇属性だからと屋敷を出ているわけですし、兄であるシエル・ブレイディは、戸籍上故人です。なので私は彼のことを、兄様と呼んではいけないんですよね……」

 ノエルはザガンに会ってからというものの、俺と話している時はザガンのことを兄様と言っている。でもそれは許されないことだと気付いたらしく、入室してきた勢いはすっかり消えて、意気消沈してしまった。

「リュカが兄様と恋仲になれば、兄様が戻ってきてくれると思っていました。だから応援しようと。でもそれは、難しいのでしょうか」
「どうだろう。ザガンを手に入れられるのなら身分だって利用するけど、第2王子という立場がどれほど差別に抗えるのか、正直わからないな」

 ううん、わかってる。ノエルにはハッキリ言えないけど、第2王子では確実に足りない。たぶん王であっても、何百年と続いている差別から守るのは難しいだろう。

 でも邪神を倒してリュミエールを破壊すると、俺は王国を救った英雄として讃えられることになる。アカシックレコードで誰とも恋愛関係にならないと、そういうエンディングを迎えるので間違いない。

 1000年続いていた脅威を排除したとなれば、ザガンを守れるくらいの融通は利くはずだ。邪神がいなくなれば、闇属性への差別も少しずつ緩和されるだろうし。

「差別を今すぐ消すのは無理だけど、ザガンが同行を断ったのは、あくまでも俺達を気遣ってのことなんだよね。自分のせいで一緒にいる俺達まで悪く言われるのを懸念したのと、闇属性嫌いなミランダがいるからって」
「私やリュカは周囲からどう思われようと……他貴族から何を言われようと、兄様と一緒にいられる方が重要です。であれば、ミランダさえ説得出来れば、同行していただけるのでしょうか?」
「ニナやベネットも気にしそうだけどね。というか仲間にならなくても、恋人にはなれるから。王命が終わるまでにどうにか婚約して、旅を終えたら結婚すれば良いかなって。もちろん旅も一緒に出来れば、最高だけどさ」
「そうですね。出来れば兄様と旅したいですが、下手に波風立てて兄様がダンジョン攻略から離れたら、二度と会えなくなってしまいます。それだけは絶対に避けなければ。私はもうしばらく見守っていますので、リュカは引き続き頑張ってくださいねっ」

 ノエルもザガンに会いに行きたいだろうに、自分が会いに行けばザガンが逃げるかもしれないと懸念して、我慢してくれている。俺ならザガンを射止められると信頼してくれるのにも、感謝が尽きない。

「うん。これからもどんどんザガンをデートに誘って、まずは意識してもらえるように頑張るよ。ザガンのいない世界で生きていくなんて、絶対に無理だもの」
「リュカは本当に、兄様が大好きですねぇ。難攻不落のリュカをここまで骨抜きにするなんて、さすがは私の兄様です」

 誇らしげにうんうん頷いているノエルに、つい苦笑が漏れてしまう。ノエルもザガンが大好きだよね。そのザガンに俺が相応しいと思い、こうして相談に乗ってくれるのが、とても心強い。

 ただしザガンと恋仲になれたとしても、とてつもない難問が待ち受けている。それはどのようにして、タイムリープを防ぐかだ。ザガンを死なせないようにして、第9都市と王都を完璧に守る。そうすれば止められるかもしれないと思っているけど、あくまでも予想で、実際の原因は違うところにあるかもしれない。

 またタイムリープしてしまうかもしれないと考えるだけで、ものすごい不安に襲われる。
 でも何故だろう、不思議にもザガンに会うだけで、タイムリープが阻止出来るんじゃないかと思えるのだ。『特異点だけでは難しかったアカシックレコードの大幅な変更が、周囲と協力することで可能になる』。そう大臣から、言われたから?

 俺1人では無理だった、アカシックレコードの変更。でも今回はザガンがいる。かつて暗殺者として怖れられた圧倒的強者であり、さらには俺のアカシックレコードを知っているザガンが。

 彼を支えれば、未来を変えられるかもしれない。ループを止められるかもしれない。あの強烈な赤い双眸に、そう期待せずにはいられない。

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