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おまけ(完結後)
芸術祭 前
しおりを挟む※完結から約5ヶ月後
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11月9日。明日から3日間は芸術祭ということで、去年約束していた通り、リュカ達と第11都市を訪れた。
芸術祭自体は、王都を始めとして、どの都市、街、村でも毎年行われるもの。けれど芸術の街として有名な第11都市の芸術祭は、やはり1番規模が大きいし、とても優れた芸術家達が集まるそうだ。
音楽や観劇などのホールが必要になるものだと競争率が激しく、数ヶ月前からコンクールが開かれて、芸術祭での場を賭けて競っているとか。展示系でも、同じようにコンテストがあるらしい。様々な芸術分野における、最高峰が集まるのが第11都市である。
ちなみにここまで送ってくれたのは神ソレイユと女神リュヌで、彼らは今日はこのまま第11都市で過ごし、明日王都に帰宅する予定だ。
2神を先頭にして外門を潜れば、ここの領主であるモデスト侯爵および護衛達、そして魔物達が待っていた。彼らは到着した2神に向かい、膝を付いて頭を垂れる。
「ようこそいらっしゃいました、神ソレイユ、女神リュヌ」
『うむ。1日だけだが、邪魔するぞ。美味いワインを期待しておる』
『私達の為に、待っていてくれてありがとう。皆、面を上げて起立して』
そんな会話から始まり、侯爵と少し言葉を交わしたあと、隣にいた人型の魔物達も挨拶してきた。神を接待するのはその魔物達のようで、2神は彼らの言葉に頷くと、邪魔にならないように人化する。
『じゃあ眷属達、芸術祭を楽しんで』
「ああ。ここまで運んでくれて、感謝する」
「ありがとうございます、女神リュヌ、神ソレイユ。貴方がたも楽しんで。それと王都の方、よろしくお願いいたします」
『うむ任された。芸術祭が終われば迎えに来るから、きちんと準備して待っておるのだぞ』
そう言い残して、2神は魔物達のあとを付いていった。
休暇でどこかに運んでもらうたび、神ソレイユからきちんと待っているようにと言われる。彼らにとって、眷属は子供みたいなものなので、わからなくはないが……少々こそばゆい。そんな俺の想いも、女神リュヌには筒抜けなわけだけど。
2神が離れていくと、モデスト侯爵がこちらに来た。
「ほっほっほっ。お久しぶりですな、リュカ殿下、ザガン殿。それから、お嬢さん方も」
「お久しぶりです、モデスト侯爵。今回も世話になるね」
「世話になる」
「よろしくお願いいたします、モデスト侯爵」
お嬢さん方と言われたように、俺とリュカの後ろには、ノエル達もいる。でも返事をしたのは、リュカと俺、そしてノエルのみだ。去年は仲間として同行していた友人達だが、これからは従者や使用人という立ち位置になるから。
ニナ、カミラ、ベネット、シンディ、そして以前はいなかったエロワ。エロワ以外の使用人達は全員、休暇としてクラージュのいる大図書館に預けている。
モデスト侯爵は、前回泊めてくれた屋敷に、今回も案内してくれた。前回と同様、友人達にはそれぞれの寝室で荷物整理をしておいてもらい、ノエルが湯を沸かしてくれている間に、リビングで世間話をする。
王都でどういう生活をしているかとか、俺達の仕事のこと。逆に第11都市のことも。ノエルが入れてくれた紅茶を飲みながら、いろいろ話をした。
「今年は例年に比べて、観光客がだいぶ増えてのぅ。これもリュカ殿下とザガン殿が、頑張ってくださったおかげですな」
2神が復活して早10ヶ月。神ソレイユが出していた怨念が少なくなり、問答無用で人間を襲ってくるモンスターも減少した。それに力を隠さなくなった魔物達が護衛してくれたり、大金を払うことでドラゴンが運んでくれたりと、街から街への移動も早くなっている。そうなると、観光客が増えるのは必然。
「もしペガサス列車が運行されるようになれば、人の移動はもっと激しくなるな。そうなると、この時期の第11都市は、人で溢れてしまうかもしれない」
「まさしく、問題はそこです。もっと観光客が来ても問題無いように街開発するか、あるいは2神がおられる王都の芸術祭も、特別なものにしていただくか。他の都市の芸術祭を、大きくしてもらうという選択肢もありますのぅ。しかしどれにしても、いきなりというのは難しい」
「そうだね。だからペガサス列車の運用は、もうしばらく先になるよ。全都市で足並みを合わせていかないと、大変なことになってしまうから」
「なるほど、そういうのも王家を中心にして進めていくのか。まだまだ大変なんだな」
じっとリュカを見つめると、ふふっと微笑まれて、頭にキスされた。心配したのが伝わったらしい。
「ほっほっほっ。ご結婚なされたことで、以前よりさらに愛が溢れておりますのぅ」
「はい、に……ザガン殿とリュカ殿下が幸せそうで、私も嬉しいです」
優しい眼差しを向けられると照れてしまうが、でもリュカがとても嬉しそうに頬を寄せてくるので、そのまま大人しく受け入れておく。
1時間ほどでモデスト侯爵が帰り、友人達がリビングに集まっている間に、俺達も寝室で荷物の整理をする。
しばらくしてリビングに戻れば、ダイニングテーブルに、ミランダとソフィーが座っていた。彼女達と会うのは、結婚式以来である。
「よ、久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「ああ、俺達は元気にしている」
「久しぶりミランダ、ソフィー。君達も元気そうで、良かったよ」
彼女達の向かいに腰掛けると、ベネットがコーヒーを置いてくれた。ん、美味い。
「毎日充実しているからね。ソフィーのおかげで、Sランク討伐100体達成も間近だし。しかも明日からは、ワイン飲み放題! テンション上がっちまって、ウズウズしちまうよ。ねぇソフィー」
「そうね、とても楽しみだけど……ミランダがあまり飲み過ぎないように、見張らないといけない気がするわ」
ふぅと溜息をつくソフィー。彼女は出会った当初に比べると、だいぶ落ち着いた服装になっていた。他属性を誘惑して、殺害する必要が無くなったからだろう。
ソフィーは自分からミランダの監視下に入ることを望み、ミランダは相手が元婚約者の敵でありながらも、それを受け入れた。そうしてソフィーも冒険者になり、2人がパーティーを組んで約9ヶ月。たったそれだけでSランク討伐100体に達しそうというのだから、相性は抜群である。
並んで座っている2人からは、かつて彼女達の間に憎悪があったなんてわからなくなるくらい、幸せが感じられた。新たな出会いも、素晴らしいもので良かったな。
「……ところで、お前達に同行しているスピリットはどうした?」
ダンジョンに潜るのは2人だが、街中では闇属性のソフィーに向けられる悪意を和らげる為、スピリットが護衛に付いている。第11都市までも、3人で来たはずだ。
「彼女なら、ここの都市にいる友人のところに行ったよ。1万年来の友人なんだってさ。なんというか……そういう人達が人間に紛れてずっと生活していたなんて、今でも驚いちまうね」
そうだな。しかしソレイユ王国は、建国当初から魔物達と共存して生きてきた。歴史でも、邪神に王国が襲われる以前は、当然のように傍にいたと学ぶ。それが実は、ずっと傍にいてくれただけのこと。そして現在、昔に戻ろうとしているだけだ。彼らが魔物姿のまま街を歩くようになったので、いずれ違和感も無くなるだろう。
「ところでさ。ニナ! アンタはいつまで、そうして立ってるんだい? アンタに畏まられていると、違和感バリバリなんだけど」
「だそうですよ、ニナ。そろそろ楽にしてください」
後ろを振り返ってみると、ニナはリビングのソファに座っているノエルの、後ろに控えていた。服装はいつもの執事服ではなく、私服を着ているものの、姿勢を正して立っている。同じようにソファに座っているのは、カミラとシンディ、そしてエロワ。カミラとシンディは気にしないタイプだし、エロワはシンディに合わせる人間である。
俺達が見ていたからか、彼女はこちらに向かって、恭しく頭を下げてきた。
「ノエル様のご要望ならば、なるべく叶えて差し上げたいです。ですがリュカ殿下と、ザガン様の許可を得ておりませんので」
なるほど。主人であるノエルの評価を落とさない為に、王子を無視するわけにはいかないわけか。
リュカに視線を向けると、リュカはニコリと微笑んでから、ニナに声をかけた。
「ニナ。ここは王都ではないし、俺達は休暇で来てるんだよ。だからニナも、芸術祭が終わるまで楽にして」
「寛大なお心、感謝いたします。……ふぃー、疲れた!」
大きく伸びをしたニナは、ノエルに声をかけたあと、こちらに来た。
「ベネット。甘いカフェオレ、入れてくれる?」
「はい。用意するので、座って待っていてください」
ベネットに促されたことで、ミランダの隣に腰掛けるニナ。そしてイタズラっぽい笑顔を浮かべる。
「ミランダ、どうだった? 私、ちゃんと執事になってるでしょ」
「ああ、見違えたよ。でも私の前では、堅苦しいのはナシにしてほしいね。居心地が悪いったらありゃしない」
「だよねぇ。実は私もまだ慣れてないよ。正直言っちゃうと、リュカやお兄さんに敬語で話すの、いまだにムズムズするもん」
「ふふ。ニナは元々民間人だし、先に仲間としての関係を築いていたから、気恥ずかしさがあるのかもしれないね。でもすごく努力していて、偉いよ」
「そうだな、ニナは努力家だ。それによく、ノエルを支えてくれている」
「もー……なんでそんなに、真っ直ぐ褒めてくれるかなぁ。でも嬉しい。ありがとう、リュカ、お兄さん」
ニナは笑顔で礼を言ってきたものの、やはり恥ずかしくなったのか、うううぅと唸りながら両手で顔を覆った。
全員が揃ったので、冒険者ギルドに出掛けることにした。
2神が復活したことにより、闇属性への差別は減ってきている。2神がいる王都、そして魔物達がたくさんいる大都市は、特にその傾向が強い。
それにここ第11都市は、去年からすでに、黒髪を晒している俺に寛容的だった。だからかリュカと手を繋いで歩いていると、手を振ってくる者がいるし、こんにちはと挨拶もされる。
皆でのんびり歩いて、冒険者ギルドに到着した。10人という大所帯だが、冒険者ギルドの出入り口はとても広く、それに開け放たれていて開放的だ。そんな中に入れば、ザワッと騒がしくなった。
「やだあれ、リュカ殿下とザガン様じゃない!?」
「嘘、こんな近くで見られるなんて」
「うわヤバい、すっっごく強いし、すっっっごく格好良い」
「いらっしゃいませ、リュカ殿下、ザガン様」
弱肉強食な冒険者は、社会的身分でなく、強さによるランクで決められている。だからか独特な感性を持っているようで、すごく歓迎された。それにギルド職員達も、目が合うと、ニコニコした笑顔で頭を下げてくる。
「お2人は、本当にラブラブなのね。素敵だわぁ」
「はぁあああん、イケメン達が手を繋いでる! 萌え!」
あと一部の女性達から、やけに熱い視線を向けられているが……これについては、また別の感性だろうから、気にしないでおこう。
と思っていたら、リュカが腰に腕を回してきて、さらには黒髪にキスしてきた。キャー!! と、うるさいほどの黄色い声が上がる。しかもそんな女性達に、笑顔で手を振るリュカ。サービス精神旺盛だな。
しかしこれ以上はギルドに迷惑を掛けてしまうので、去年のように芸術祭向けの依頼を受けたら、すぐに冒険者ギルドから出た。さて、頑張ろう。
街の住民達に混じって仕事をして、夕方頃に屋敷に戻ってきた。そして中庭で、久しぶりにバーベキューをする。リュカが休暇の時にしか出来無いので、うちでも滅多に行えない。それくらい、リュカは今でも多忙だ。だからこそゆっくり出来る日は、まったり肉を焼きながら、酒を飲むに限る。
ん、今日も肉が美味い。どんどん焼いて、どんどん食べてしまう。ビールも美味い。
ひたすらもぐもぐ食べていると、同じコンロを囲っているシンディが、こちらに声をかけてきた。
「そういえばお姉さん、今日初めてサインを求められちゃったの。ねぇ、エロワ君」
「そうですね。シンディさんのサイン、とても可憐でした!」
可憐なサインとは? と思いつつも、また肉を口に入れる。
2ヶ月前、シンディ著書『リュカ・ソレイユ王命紀行』が発行された。リュカをメインにした、仲間達との生活。それから俺との恋模様と、闇属性の差別について。あとは千年前に隠蔽されたソレイユ王国の真実、判明した神ソレイユと女神リュヌについてなど。
リュカがメインなので、シンディと出会う前……王命を受けて、ノエルと王都を出発したところから始まっている。それから俺との出会いも。このあたりは完全に、俺達から話を聞きながら書かれている。
あの1年間が詳細に書かれた本は、2神を復活させたリュカがメインであり、しかも救われた2神が勧めていることであって、あっという間に大ベストセラーになった。なのでその著者であるシンディに、サインを求めるのはわかる。しかし。
「その者は、よくお前がシンディだとわかったな?」
「うふふ、エロワ君が傍にいたからみたい」
なるほど。あの本には、シンディとエロワのことも書かれている。
悲しい結末を迎える可能性があるゆえに、書けるかわからなかった2人の恋。けれどエロワは無事で、しかも処罰されることもなかった。だから闇属性への差別に言及しながら、シンディ自身の恋も綴られたのだ。
「しかもその女性は、俺にも握手を求めてきたんだ。フッ、俺の格好良さに惹かれたんだな」
そうか。闇属性相手に、握手を求めてくる人まで現れたか。闇属性への差別が減ってきて嬉しいし、どうやらエロワも嬉しかったようだ。しかし気恥ずかしさを誤魔化すにしても、シンディに嫉妬させようとするセリフを言うのだ駄目だと思う。そんなだから残念眼鏡なのだ。
「お前の残念な性格を、誤魔化しながら書いてもらって良かったな」
「くっ……ザガン、貴様は相変わらず辛辣だな!? なんでこんな陰険野郎が、シンディさんの親友なんだ! 羨ましい!」
「ザガンはとても優しいし、寛容だからね。それにとても綺麗で強いから、シンディが惹かれるのも無理はないよ。君がザガンのようになるのは不可能なんだから、そろそろ無意味な嫉妬は止めたらどうかな?」
「う、うぐぐ……王子まで。この、イケメンが……っ」
それは暴言なのか? まぁリュカはあまりにもキラキラしていて、暴言さえも霞んでしまう。それにリュカはリュカで、悪態らしきものを吐かれても、ふふっと微笑んでサラリと流す。ついでに愛しげに、俺の頭に頬を寄せてきた。少々酒が飲みづらい。
「もう、リュカ君ったら。エロワ君を苛めて良いのは、私だけよぉ?」
「シンディさん……! やはりシンディさんの1番は、俺ですよね! 愛してます!」
と言いながら彼女を抱き締めると、豊満な胸に顔を埋めるエロワ。人前で何をやっているのか。けれどシンディはシンディで、そんなエロワの頭を撫でた。
「みんなのおかげで本を発行出来たし、今年もここの芸術祭に来られたわ。だからこれからは、子作りに専念出来るわねぇ」
「こ、子作り……! 俺とシンディさんの!?」
そんなエロワが興奮するようなセリフ、言って良いのか?
「うふふ。エロワ君の精気、カラッポになるくらいに、搾り取らせて……くれる?」
「おおおおお願いしますぅー!」
良いらしい。まだ肉は残っているが、腹が満たされたくらいには食べたのだろう。
エロワはシンディの腰を持ち上げると、屋敷に入っていってしまった。笑顔で手を振ってくるシンディに、振り返しておく。ちなみに2人の結婚式は、来月だ。
姿が見えなくなると、リュカが小さく溜息をついた。
「シンディの、すごい誘い文句だったね」
「そうだな。カラッポになるほど搾り取られるなんて、エロワは明日、動けるんだろうか」
明日は午前中から、皆で演劇を観覧する予定になっている。そのチケットも、モデスト侯爵に頼んで確保してもらっていた。まぁいざとなれば、俺が触手で運んでやろう。
「……ザガンも、俺を搾り取ってみる?」
「? 俺は毎晩満たされているから、今夜もいつもと同じくらい貰えれば、充分だぞ」
いきなり何を言い出すのだろう。俺はシンディのように、放置プレイしたり1週間おあずけ食らわせるなんてこと、していないではないか。毎晩身体を繋げてリュカに満たしてもらっているし、リュカも満足してくれているとばかり。でももしかして、リュカはいつも足りていないのか?
少々不安になる……ことはなく、両手で顔を覆って天を仰いでいるリュカを、酒を飲みながら待つ。しばらくすると、悶え終えたリュカがぎゅっと抱き締めてきた。
「俺のザガンが可愛すぎる! もちろん俺も、毎晩満たされているからね。今夜もゆっくりエッチしようね」
「ん」
コクリと頷けば、リュカは幸せそうに微笑んで、掌で下腹部を覆ってきた。それだけで嬉しいし、きゅんと胎内が疼く。リュカが欲しくなる。
ソワソワしているのがバレたからか、リュカがノエル達に断りを入れてくれた。そして抱きかかえられ、寝室へと移動した。
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