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79話

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 15年振りの父上は、とても立派になられていた。いや、以前から素晴らしい人ではあったが。ただ歳を重ねたからか、貫禄がついてさらに格好良くなっているし、最後に見た時よりも強くなられている。

 それにしても、父上でもあのような言葉遣いをするのだな。俺には丁寧な口調で話されていたが、昔はクソガキだったとオロバスが言っていた。つまりあれが素であり、今でも幼馴染であるオロバスやシャルマン公爵相手には、あのように話すのだろう。

 とりあえず俺を見下ろしたまま固まっているので、軽く会釈すると、彼も慌てた様子で会釈を返してきた。隣に着地したオロバスに揶揄されたのか、父上は顔を赤くして怒りながら、再びドラゴンと対峙する。バシンと背中を叩き合い、そのまま戦闘に入る2人。

 なんだか眩しいな。
 彼らの友情に羨ましさを感じるまま、リュカの背中に頬を押し付ければ、腰に回している腕を撫でられた。

 そうだな、俺にはリュカがいる。絶対的な最愛が。それにミランダやカミラ、ベネット、シンディと、ここまで支え合いながら戦ってきた友人達がいる。妹のノエルも俺を支えてくれ、その親友であるニナも、仲間として共に歩んでくれた。

 俺はもう、独りではない。――独りではないからこそ、守りたいものがあるからこそ、前へと進まなければならない。

「リュカ、そろそろ行けそうか?」
「うん、落ち着いたみたい。ほら、この子も走れるって」

 リュカの言葉に同意するように、ヒヒンと鳴く馬。強いな。さすがはこの1年間、リュカを望むところへと運んできただけある。

「うふふ、それじゃあお姉さんも、気合を入れないとねぇ。ザガン君、私をお馬君の5m前まで持っていける?」
「触手をだいぶ伸ばさないといけないから難しいが、シンディ1人なら可能だ」

 触手を増やすことで、シンディを馬の5m先へと移動させる。すると彼女は特製MPポーションを飲み、槍杖を構えると魔力を込めた。

「えーい!」

 気の抜けるような掛け声であったものの、シンディのいる場所からドドドドッと勢いよく新たな道が……橋が架けられていく。女神リュヌへと、最短で向かえる橋が。

「城門を抜けて王城内を走るなんて、あまりに障害が多すぎるもの。これなら女神のところまで一直線よ。勝手に建造物を造るのは違法だけど、緊急事態だから許してね?」
「俺が許可するから問題無いよ。行こう!」

 リュカが合図するとすぐに、馬は走り出した。力強い足取りで、緩やかな坂を駆け上っていく。シンディも馬のスピードに負けず、どんどん橋を伸ばしていく。崩れないよう定期的に柱で支え、馬に恐怖を与えないよう手摺まで付いているのだから、すさまじい魔力操作だ。

 シンディは基本サポートに徹している為、最近の実力は不明瞭だった。だがこの見事な橋に、納得はしている。彼女も屋敷滞在中は毎晩、リュカ達と一緒に魔法訓練をしていたから。闇組織の者達が危険かもしれないと気付いてからは、読書しながら魔力操作もするという、器用なこともしていた。

 彼女も努力してきた。そして今、その成果を発揮している。愛する男を助ける為に。

 城門上を通過して、王城敷地内に突入する。
 中央に聳えている400mを越える塔、その上層が、かつて神ソレイユが使用していたという神殿。中層から下は、神を支えるようにして謁見の間と、王家の住まいがある。中央塔から全方位に広がりながら様々な部署や施設が設備されており、東西南北にもそれぞれ約250mの塔が建っている。

 俺達は北塔の横を通りすぎると、神殿のさらに先、女神リュヌのいる東南に向かった。女神は出現した場所から動いていない。ただ攻撃している動作や轟音はするし、衝撃が魔導バリアにぶつかり、吸収されているのも見える。あれは、俺がクラージュに渡した魔導バリアか。

 近付くにつれ、シンディは橋の高度を落としていった。闇組織の者達がいるのは、訓練場のようだ。開けた場所で固まっており、魔導バリアを挟んだ状態で邪神と対峙している。座りこんだり倒れたりしている者達が半数以上いるし、紫色の魔力がじわじわ抜けているように見えるが、無事なのか?

 爆撃音が鳴り続いている中、彼らの近くに到着。シンディを触手から下ろすと、すぐに駆け出した。そして倒れていた眼鏡の傍らに膝を付く。

「エロワ君、エロワ君! しっかりして、エロワ君!」
「…………シンディ、さん?」
「ああ、良かった……っ。このMPポーション飲めば、すぐ起きられるようになるわ」

 シンディは眼鏡の頭を抱えると、口元に特製MPポーションを持っていった。朦朧としているようだが、自ら口を開けて飲んでいる。魔力流出はしているものの、魔導バリアを展開しているからか、枯渇に陥るほどではなかったらしい。無事な者達が傍に付いて、MPポーションを飲ませていたのもあるだろう。地面にいくつものガラス瓶が転がっている。

 少しすれば、眼鏡はシンディの胸にグリグリ頭を押し付けるくらいに回復した。……魔力流出は止まっていないし、女神からの攻撃も続いている状況で、何をやっているんだか。これだから残念眼鏡なのだ。

 そんな眼鏡の頭を、シンディはぎゅううと抱き締めた。安堵からか、ポロポロと涙まで零している。

「ぐえっ。く、苦し……え、シンディさんっ!? な、なんで泣いて……ぐええぇっ」
「良かった。エロワ君が生きててくれて、本当に良かった……っ」

 いつもニコニコ微笑み、涙とは無縁そうだったシンディが、泣いている。それほど不安だったのだろう。眼鏡が生きていて良かったな、シンディ。
 俺もホッとしている。友が悲しみの涙を流さずに済んだから。けれどまだ周囲で伏せている者達がいるので、眺めている場合ではない。

「シンディ、カミラから預かっているポーション、全部出してくれ」
「ふ。うう……ええっ、わかったわ」

 声をかければ、シンディは泣きながらもマジックバッグを開き、大きな箱を地面に出してくれた。その蓋を開け、こちらを見ていた闇属性達に、触手でどんどん渡していく。

「これは仲間が錬金してくれたMPポーションで、魔素細胞を活性化させることで数時間は魔力を回復し続ける。効果は、そこの眼鏡で判断付くだろう」
「あ……ありがとう、ございます」
「ん。もし足りなければ、言ってくれ」

 魔力流出している人数分以上は渡したので、大丈夫だと思うが。彼らはよほど切羽詰っていたのか、敵からの施しであろうと素直に飲んでいた。

 しばらくすれば、全員動けるくらいに回復する。だいぶ余ったものの、もう必要無さそうなのでマジックバッグにしまっていると、俯きながら近付いてくる女性がいた。ソフィーである。

「えっと、ザガン……さん? ミランダは?」
「ミランダなら、途中で遭遇した大量のモンスター相手に、戦っている」
「嘘、大量ってどこ!? 私そんなの知らない!」
「安心しろ、ミランダは強い。それに仲間も一緒だ」
「そ、そう。……ふーん。なら、いいけど」

 咄嗟に詰め寄ってきたソフィーは、再び俯くと、スススッと離れていった。
 まぁ仲間はカミラだけだし、正直あれだけの数を相手にして、本当に無事でいられるかはわからないが。けれど心配して声をかけてきた彼女に、わざわざ不安要素を伝える必要は無い。それに俺は信じている。あの2人なら、大丈夫だと。

 とにかく闇組織の者達は、問題無さそうだ。あとは彼らが女神から離れれば、魔力を吸収されることもなくなるはず。

 周囲を見渡せば、少し離れたところでリュカが待っていた。馬はいない。どうしたのだろう? リュカを見つめながら首を傾げれば、こちらにやってくる。

「あの子なら厩舎に帰らせたよ。ここにいるより安全だし、それなりに離れているけど、1人で帰れるか聞いたら頷いてくれたから。大丈夫、ここは彼が産まれた場所だから、迷わず帰れるよ。もし迷っても、厩舎にいる馬達の気配を探れるし」
「そうなのか。とても優秀な馬だな」

 そんな会話をしながら、リュカと共にクラージュのところへ向かう。

 クラージュは魔導バリアの前に立ち、攻撃してくる邪神をじっと見上げていた。
 ゲームでは必ず死んでしまう、闇組織の者達。彼らの未来を変えられるかどうか、ずっと不安だった。それでも変えられるはずだと、強く願いながらここまで進んできた。そうして現在、邪神が復活しても彼らは生きている。……良かった、本当に。

 俺達が来たことはとっくに気付いているはずだし、近付いている気配も感じているだろう。それでも振り向こうとしない、頑なな背中に声をかける。

「魔力を奪われている者達は、仲間の作ってくれたMPポーションで動けるようになっている。お前達がここで食い止めてくれていたから、周囲への被害も最小だ。感謝する」
「…………その言葉、私からすれば、嫌味にしか聞こえないんですが?」
「だろうな。しかし俺からすれば本心だ。だから礼は言っておく」

 クラージュの横に立ち、同じように邪神を見上げた。大量の魔瘴を纏っている姿は、間近で対峙するととんでもない迫力である。バリア越しに攻撃されているので、余計に。
 だが破壊される兆しは見えない。1つ1つの攻撃が、俺の極大魔法よりも弱いから。負の感情に飲まれて正気を失っているだけで、女神自身は攻撃する意思を持っていないからだ。

 あのおどろおどろしい魔瘴の中に、これから入らなければならないのか。そう考えていると、クラージュが溜息をついた。

「こんなバリア、展開するべきではありませんでした。仲間が犠牲になろうと……私自身が死のうとも、邪神の攻撃を遮るべきではなかった。見てくださいよ、この状況を。貴方からいただいた魔導バリアがまったく壊れないせいで、邪神はこちらを攻撃したまま膠着こうちゃく状態です」
「自分達の命まで犠牲にしたら、結果的に全て無かったことにされるぞ」

 むしろ今以上に、闇属性だけが悪にされてしまう。死人に口無し。国民が差別するから襲撃されているのだと、差別していなければこんなことにはならなかったのだと、生きて訴え続けなければ意味が無い。

「わかっています。だから不本意ながらも貴方からの忠告を念頭に入れ、制御魔法を使用しないよう伝えておいたんですよ。なのに邪神に攻撃された瞬間、何人かが使ってしまった。しかも制御出来無いどころか、魔力を奪われるばかりです。その者達を助けようとさらに加わったところで、相手は邪神、無意味に決まっていますよね」
「そうか。お前がバリアを展開したおかげで、彼らの魔力流出は緩やかになったし、邪神からの攻撃も防げるようになった。お前の適切な判断のおかげで、全員生きている。よくやった」

 クラージュが仲間想い、かつ理性的な人間で良かった。そうでなければ、ここは死屍累々になっていた。

 俺に褒められてしまったからか、クラージュは俯くと、悔しげに歯軋りする。

「仲間を失いそうになって。咄嗟に展開した魔導バリアは、素晴らしいもので。解除しなければ王都を破壊出来無い、でも解除すれば我々が死ぬ。そんな状況下に置かれて、どうすべきか悩んで……なのにさほど経たずに、貴方が来た。あれだけ来られないよう邪魔したのに。しかも倒れていた仲間達を助けてくれました。……なんなんでしょうね、貴方は。なんで私達の邪魔しておきながら、私達まで守るんですか? 全部を守りたいなんて、そんなの甘ったれた戯言でしかないはずなのに、何故!」

 吐き捨てるような声だった。だが、それで良い。いくらでも文句を言うと良い。気に入らない俺からの施しなど使いたくなかった、王都を壊滅させて他属性達を皆殺しにしたかったと。
 その悔しさは、言葉にして吐き出せばきっと消えるから。大切な仲間達を失うことに比べれば、きっと些細なことだから。

「お前が多くの仲間に支えられているように、俺も1人ではなかったからだ。リュカが支えてくれた、友人達が助けてくれた。だから俺は今、ここにいる。そして俺をここまで突き動かした要因の半分は、お前だ、クラージュ」

 クラージュが弾かれたようにこちらを見てきた。その目を見つめ返す。

「お前達が革命を起こし、国を変えようとしなければ、俺は闇属性でありながら差別から目を背け続けていただろう。独りでも、生きられたから。殺さなければ逆に殺されてしまう闇属性達の怒りや悲しみがどれほどのものか知らないまま、産まれてすぐに殺される赤子達について胸を痛めることもなかった。……お前が、教えてくれたんだ」

 リュカとの未来に関しても、しばらくはリュカが身分を捨てて冒険者になるものだと思っていた。それ以外に、共にいられる方法は無いと。それが自然と考えてしまうくらい、俺は差別から逃げていたのだ。

「すまないクラージュ。そして、よくここまで耐えてきた。よく生きていてくれた」
「俺からも感謝を。今まで頑張って生きてくれて、ありがとう。千年前の王家のせいで、何百年も闇属性が差別されるようになったこと、いくら謝罪しても許されることじゃない。ただ約束するよ。必ず全ての真実を明るみにし、闇属性への差別を無くすと」

 俺やリュカの言葉に、クラージュはくしゃりと顔を歪めた。そのまま顔を背けた彼の、震える背中にそっと触れる。

「今まで苦しんできたからこそ、生きて、この先の未来を……闇属性の差別が無くなる未来を、お前達に見てほしい。大丈夫だ、闇属性への差別は近いうちに必ず無くなる。だからクラージュ、あとは俺達に任せろ」

 ぽんぽんと背中を叩けば、クラージュは盛大に息を吐いた。はぁぁぁと、とても長く。そして顔を上げた。その双眸は、強く真っ直ぐに、俺を射抜いてくる。

「……感謝します。私の仲間を、助けてくれて」
「ああ。だが彼らの魔力流出が完全に収まったわけではない。だから早くここから離れろ」
「わかりました、あとはお任せします。どうやら貴方がたには、勝算があるようですしね」

 頷けば、クラージュは微かに笑みを浮かべた。今までとは違う、嫌味の含まれていない微笑。魔導バリアのリモコンを差し出されたので受け取ると、彼は後方にいる仲間達のところへ向かう。

 全員ここから移動する準備を済ませていたし、シンディも眼鏡に肩を貸して支えていた。目が合うと、ニコリと微笑まれる。

「リュカ君とザガン君なら大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
「ありがとう、シンディ。君も気を付けて」
「シンディ、橋を戻ればオロバスが気付いてくれると思うが、もしそうでなかったら」
「もちろん孤児院に行ってみるわ。うふふ、心配してくれてありがとう」
「ふんっ、シンディさんは俺が守るから問題無い! 貴様らは引っ込んでろ! い、いたたたっ!」

 ニコニコ微笑んだまま、眼鏡のどこかを抓ったらしい。……シンディ、本当にその男で良いのか? 人それぞれ好みが違うのは承知しているが、それでもさすがに心配になるぞ。

 眼鏡が呻いている間にもクラージュ達が橋を上がっていき、シンディもこちらに手を振ると、痛みで涙目になっている眼鏡と歩いていく。

 標的にしている者達が離れていくからか、ただ殴るだけだった邪神の攻撃が止まった。力を溜め始めたので、すぐに短剣と杖を装備し、リュカの前で構える。リュカも刀を抜くと、魔法詠唱した。

「ホーリーランス!」

 邪神に何百という光槍を落とすリュカ。しかし相手は『リュミエール』のラスボスなだけあり、ほとんどダメージが入っていない。それでも赤い双眸を俺達に移すことは成功した。これでターゲットは取れた。

 邪神がグワッと口を開ける。放たれる、膨大な魔力の塊。
 バリアに直撃したそれは、消滅せずにぶつかり続け、ビキビキとひびを入れてきた。どんどん大きくなっていく亀裂。

 パリーン――ッ! 割れる音が聞こえた瞬間、全身全霊を尽くして魔法壁を張る。ぶつかってくる大きな衝撃。だが耐えられないほどではない。

 やはり、所詮は邪神なのだ。ドラゴンよりは強いものの、ゲームで主人公達が倒せる程度の存在。負の感情に飲まれて暴走しているだけで、女神自身が危害を加えようとしているわけではない。

 背中に触れてくるリュカを守ったまま、魔法壁を張り続けていると、しばらくて攻撃が止んだ。俺達は無事だし、周囲の被害も最小限に抑えられている。ただ、ここからが正念場だ。

 何があっても対応出来るよう特製MPポーションを飲んでから、背後にいるリュカを確認する。

「ではリュカ、ここは任せる」
「了解、待ってるよ!」

 返答に頷くことなく、邪神に向かって駆けた。邪神は攻撃してきたリュカを標的にしている為、近付いてる俺には目もくれない。これからリュカは、俺が戻るまで1人で邪神の攻撃を防御し続けなければならない。だから早く、女神を見つけないと。

 身体強化で猛ダッシュし、リュカを殴ろうとしている邪神の胸に向かって跳躍。

「ダイブ」

 影に沈む魔法を発動させ、そのまま邪神の中に侵入する。
 日中では影になっている場所でしか使えないが、夜なら基本どこでも使用可能な魔法。自分と重なる部分を浮力ある闇に変えて同化するのだが、あくまでも無生物限定だ。それでも瞬時に物質変化させられるのは、この世界の全てに魔素が含まれているから。

 ただし無茶な魔法には違いなく、かなりの魔力を消費するので、本来なら長時間潜り続けることは出来無い。今は特製MPポーションを飲んでいるので、数時間は潜っていられるが。しかしそんなに時間を掛けたら、邪神と対峙しているリュカが持ち堪えられないかもしれない。

 なので早く女神を捜したいのに、ドロドロしたものが全身に纏わり付いてきて、ひどく動きづらかった。これは冷静に考えれば、気のせいなのだ。魔法を発動し続けているので、動きを制限してくるものなど無いはず。

 それでも何かが纏わり付いているように感じるのは、たぶん洗脳するかのように次々聞こえてくる、負の感情のせい。

『アイツすげぇムカつくんだけど。早く死んでくれねぇかな』
『もう諦めようかなぁ。その方が楽になれるよね……』
『人間殺す、殺す殺す、殺す殺す殺す』
『お前みたいなブス、あの人が好きになるわけないでしょ。ほらまた泣くし。ホントうざいわー』
『面倒臭い……働きたくない……』
『今日も負けちゃった。なんで勝てないんだろ……あー悔しい、悔しい、悔しい!』
『殺す、殺す、殺す殺す殺す殺す殺す』
『ひ……い、嫌だ、嫌だ! 誰か助けてくれ!!』
『殺す、殺す、人間殺す、殺す殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す』
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

「ぐ、うぅ……ッ」

 暗闇で視界が覆われている中、聞こえてくる無数の声に頭が痛くなってきて、耳を塞いだ。それでもなお聞こえてくるのは、意思伝達の類だからか? 脳に直接響いてくる怨念に、精神がやられそうだ。こんなものを大量に纏っていたら、女神であろうと正気を失って当然である。

 だからこそ早く助けたい。それに待ってくれているリュカの為にも、こんなところで止まるわけにはいかない。早く女神を。早く、早く、はやく……クソ、頭痛が酷くなってきた。

『諦めれば楽になれるのに、頑張っちゃって馬鹿みたい』

 うるさい、勝手に諦めていろ。俺は絶対に諦めない。

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

 うるさい、千年も前のことをいつまでグチグチ言っているんだ。アンタこそが愛する女神を苦しませていると、何故気付かない?

 舌打ちしながらも、纏わり付いてくる魔瘴の中を、少しずつ進んでいく。だが神ソレイユの怨念が強すぎて、どこに女神リュヌがいるのか感じられない。集中したくても、頭痛のせいで注意力が散漫になってしまう。
 クソッ、どこにいる? いったいどこに。


 ――……ったく、しょうがねぇな。

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