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65話

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 リュカに抱かれたことでだいぶ落ち着けたので、昼食を取った。マジックバッグに入っていた弁当を出して、一緒に食べる。
 それからノエル達が帰ってくるまでは、身体を繋げたり、触手を絡ませて遊んだり、ぽつぽつ話したり、ただ触れ合うだけだったり。そんなふうに、のんびり過ごした。

 夕方にはちゃんと服を着て、帰ってきた友人達を玄関で迎える。夕食の準備も手伝い、ダイニングで皆で食べた。それから2時間ほど、酒を飲みながらトランプゲームで白熱。

 解散したあとは、リュカと一緒に入浴した。昨夜は別々だったし、その前は都市から都市への移動中で入浴しておらず、共に入るのは約1週間ぶりだ。そこまで広くないので、湯船には後ろから抱き締められた状態で浸かる。
 風呂から上がれば、夜10時。ベッドに横になり、就寝までゆっくり時間を掛けてセックスした。







 翌日、12月7日。朝食を終えたあと、本日の予定を確認する。

 まずは昨日ダメージを負った、リュカのコートについて。防具屋に修繕を頼むかどうかだが、ミランダが言うには、ドラゴン革ともなると、修繕だけでだいぶ時間が掛かるそうだ。

「ならばわらわが、針を強化しようか? ドラゴンの血を少々使用することになるが、代わりに数時間はドラゴン革でも貫通させられるぞ」
「でしたら、私でも穴を塞げますね。そうだリュカ、兄様とおそろいの猫シルエットを刺繍しても良いですか?」
「それは嬉しいな。もちろん良いよ。ありがとうノエル」
「じゃあ午前中はその作業をします」
「わらわも針の強化をしなければならんし、まだまだポーションを作っておきたいから、午前中は作業じゃな」
「了解したよ。それから……」

 リュカがこちらを確認してきたので、すかさず手を挙げる。

「ノエルの作業を、傍で見学していたい」

 一昨日オロバスが言っていた。王都では邪神復活に向けて準備しており、重要建造物にはより強固な魔導バリアが張られ、避難場所も確保済みだと。
 王が権力を駆使して、たくさんの力を動かし、民を守ろうとしている。なのでこれ以上、俺が魔導バリアを製作する必要は無いだろう。闇組織に無理矢理持たせるものだけで充分。

 そんなわけでダンジョン攻略まで時間が出来たので、たまにはゆっくり英気を養ってみようと思う。何もせず、ただ妹の作業している様子を眺めるというのは、かなり贅沢なはずだ。
 リュカも微笑み、頷いてくれる。

「そうだね。ザガンは家の中で、ゆっくりしてて」
「では作業する前に、紅茶を入れますね!」

 まだ最後まで予定を決め終わっていないのにもかかわらず、ノエルは嬉しそうに立ち上がり、キッチンに向かった。そんな彼女を優しい目で見送る面々。甘やかされているが、会話が聞こえる距離にはいるので問題無いか。

「リュカ、私は鍛錬したいから付き合っておくれ。冒険者として、少しでもザガンに追い付きたいからね。構わないだろう?」
「はいはいはーい、私も修行する! オロバスさんから、主人を守れるほど強くないと、執事にはなれないって言われた!」

 ミランダ、ニナは鍛錬を希望。

「私は、午前中は旅の記録のまとめ作業をしたいし、昼食後にはオロバスさんが顔を出すと言っていたから、神や歴史についての話をお聞きしたいわぁ。でも鍛錬も必要だから、夕食後にお願い出来るかしら?」
「わらわもいつも通り、夕食後で頼む」
「ぼ、僕も、夕食後にお願いします。それまでは、ダンジョン用のお弁当を作っていますから。ザガンさん、お肉料理、たくさん用意しますね」
「そうか。ベネットの料理はとても美味いから、楽しみにしておく」
「は、はい! ご期待に沿えるよう、頑張ります!」

 気合を入れてくれるのは嬉しいが、消費しきれないほど作らないようにな。とにかくベネット、カミラ、シンディは、夕食後に鍛錬を希望か。

 それとシンディも言っていたが、昼食後にはオロバスが来るし、俺も聞きたいことがある。けれど急ぎではないので、シンディに譲ろう。

 ということで、また挙手する。

「午後が空いているなら、デートしたい」

 防具ではなく私服を着て、リュカと手を繋いで街を散歩したい。歩きながら温かいものを飲んで、観光スポットにも寄りたい。冒険者ギルドで動物関連の依頼を探すのも良いな。犬の散歩依頼があれば最高だ。

 どうだろうか? リュカは了承してくれるだろうか? ……悶えていないで、早く返答してほしいのだが。

「んんんんっ、俺のザガンが、今日も可愛くて尊いっ」
「兄様はいつでも尊い存在です!」

 デートに誘っただけなのに大袈裟だし、ノエルも、よくわからない同意をしては駄目だぞ。お前まで友人達から呆れられてしまうから。
 幸せそうなベネットは置いておくとして、ミランダからは盛大な溜息が聞こえてくるし、ニナやカミラは苦笑している。シンディはニコニコしているが、やはり内心は呆れているだろう。

 リュカはそんな彼女達を気にも留めず、悶えるのを止めると、キラキラ王子スマイルで俺を見つめてきた。手を取られ、指先にキスされる。

「ザガンとのデート、とても楽しみだよ。むしろ今からでも出掛けたいくらい。……ね、どうする?」

 周囲に聞こえないよう耳元で甘く囁きながら、誘惑してくる。それくらい、俺とのデートを望んでくれるのは嬉しい。だがノエルの作業は見たいし、そもそもこれから鍛練予定の、ミランダやニナはどうするのか。
 そう思うも、ちゅっちゅっと耳や頬に触れてくる唇がくすぐったくて、なかなか返答出来無い。

 とにかくタイミングが見つかるまで待とう。そう考えた直後、うわっ! という声と共に、リュカが離れた。見ればいつの間にかミランダがリュカの背後にいて、彼の襟首を掴んでいる。

「もう予定は決まったんだから、さっさと行くよ!」
「ちょ、待ってミランダ。せめてザガンの唇にも、キスしてから……く、首、首締まりそうっ」
「さーて、今日も頑張ろー!」

 ミランダに続いて、ニナも外に向かう。引き摺られていくリュカも、なんだかんだ笑顔で楽しそうだ。

「うふふ、平和ねぇ」
「良いことじゃ」

 友人達の言葉に、頷いた。





 ノエルの入れてくれた紅茶を飲みつつ、傍でコートの修繕作業を眺める。
 柔らかくなめされた革であろうと、ドラゴン素材であることには変わりない。そんな最高の防御力を誇るコートに、丁寧に刺繍していくノエル。猫のシルエットが少しずつ作られていく過程は、見ているだけで楽しい。

 針に強化を施したカミラも、そのまま近くで作業していた。壷に材料を投入したあと、ずっとぐるぐる回している。特性MPポーションを生産するには、かなりの時間を必要とするようだ。

「よし! コートの修繕、終わりました!」

 しばらくするとノエルが声を上げ、コートを見せてきた。修繕箇所に刺繍された銀猫は、まさしく俺のフードマントに刺繍されているものと同じ。

「お疲れノエル。上手く出来ている」
「ありがとうございます、兄様。褒めていただけて嬉しいです」
「うむ、ドラゴン革でも問題無く仕上げられておるな。さすがはノエルじゃ」
「カミラもありがとうございます。ホント、ちゃんと直せて良かったです。最高素材ですからね、針を刺すのには緊張しました」
「素材の持ち込みでない場合、白金貨50枚以上するコートらしいぞ」
「そ、それを言われると、こんな刺繍をしてしまって良かったのかと、不安になるのですが」
「リュカのものだから、気にする必要は無いがな」

 焦る様子が可愛くて、フッと笑みが零れてしまう。するとノエルは、頬を膨らませて俺を睨んできた。

「兄様イジワルです」
「すまないノエル。許してほしい」

 そっと頭を撫でると、すぐ笑顔になるノエル。可愛いな。

 コートの修繕が終わったあとは、中に着ていたシャツも直した。こちらはドラゴン革ほど高級ではないからか、すいすい縫っていく。

 全部終えた頃には、カミラも一段落着いていたので、3人で菓子を摘まんだ。

「ところでノエル、相談があるのだが。1月1日はリュカの誕生日だろう? 何をやれば喜ぶか、想像付くか?」
「……リュカの、誕生日ですか。兄様があげるものなら、なんでも喜びそうですけど」

 ん? 少し機嫌が悪くなったか? そう思ったものの、じっと見つめても、ただただプレゼントについて考えてくれている。ならば追求はしない方が良いか。

「指輪で良いじゃろう。恋人同士なのだから」
「あっ。そうです、結婚指輪ですよ兄様! オロバスに結婚を認めてもらえたのですから、今のうちに用意しておかないと!」

 なるほど、結婚指輪。それなら確かに、リュカが喜びそうだ。

 しかしいつの間にか、ノエルの認識までもが、オロバスに勝てたら俺達が結婚するというものに変わっていたらしい。オロバスがすんなり認めるわけにはいけないと言い、リュカに決闘を申し込んだからか? 1ヶ月前の、闇属性の差別を無くすのが先決という言葉は、どこへ消えたのだろう。

 そんな疑問が浮かぶものの、リュカとの結婚が嫌というわけではない。リュカが喜ぶのなら、俺もとても嬉しい。

 それにこの1ヶ月で、結婚へのメリットに気付けた。
 例えばモデスト侯爵が主催したパーティーでは、俺がリュカの傍にいることで、リュカに近付こうとする面倒な貴族達を牽制していた。結婚して伴侶になれば、どのような催しでも、リュカのパートナーとして参加可能となるだろう。『パーティーがこんなに気楽で楽しいのは、初めてだよ』。そう言っていたリュカの心を、守れる。

 シャルマン公爵の言葉にも、納得している。男である俺と結婚すれば子が産まれないので、リュカに傀儡としての価値が無くなる。それによってリュカや、王太子夫妻を守れる。
 マニフィーク公爵が無断で、俺を婚約者として全国紙に載せたのも、たぶん同じ理由。

 とにかく貴族社会では、結婚しているということが重要視されるのだ。跡取り問題に、財産相続、貴族間の繋がりなど。

 リュカやノエルの中で、俺達の結婚条件がどんどん早いものに変わっているのも、他貴族からの妨害を懸念しているからと思われる。己の欲望の為には何するかわからない輩というのは、確実に存在している。
 婚約者として国中に周知される発端となった令嬢も、そうだった。リュカがすぐ傍にいるにもかかわらず、ノエルに支えられている俺に攻撃してくる暴挙。それにダンスパーティーでも、殺気を飛ばしてくる女達がいた。アイツらは俺がいなければ、確実にリュカに迫っていただろう。俺からリュカを奪おうなど、絶対に許さな……。

 いや、ちょっと待て。

「なぁノエル。その、変な質問かもしれないが……ソレイユ王国では、複婚制だったりするか?」

 今更ながら、ゲームにはハーレムエンドが存在していたことを思い出した。ヒロイン全員と仲良く暮らすエンド。最後には7Pでのセックスシーンもあり、男としてはロマンあるルートだったかもしれない。
 俺としては2次元だから許せるのであって、実際そうなりたいとは微塵も思わないし、ぶっちゃけリュカ以外はいらないけれども。

 とにかく王国では、一夫多妻が可能かもしれない。そうなると俺とリュカが結婚したところで、アプローチをかけてくる人間は、絶えないのではないか?

 もし違っていたら笑い飛ばされるような質問なのに、カミラはふむと頷いてから、ノエルに視線を向けた。ノエルは眉間に皺を寄せて、目線を彷徨わせている。

「も、もしや本当に、重婚可能で」
「ああ違いますっ、重婚は犯罪なので安心してください。ただそれに似たような制度が、一応あるにはあってですね。しかし私はあまり詳しくないので、どう説明すれば良いのかわからないのです」
「ではわらわが説明するかのぅ。いわゆる、愛人制度というものじゃが」

 なんだそれは。思わず顔を顰めたからか、カミラはクッと喉を鳴らした。

「名前だけ聞くと、微妙に感じるかもしれん。だがザガンに悪影響を及ぼすようなものではない。王侯貴族が、優秀な民間人を他貴族に取られぬよう迎え入れる、というのが目的だからのう。つまりお主に殺気を向けてくるような貴族令嬢達を、愛人にすることは不可能じゃ」

 なるほど、対象は民間人のみか。それなら結婚さえすれば、リュカにアプローチをかけてくる女達はいなくなるだろう。

「他にもいくつか条件があってな。まず愛人を囲うには、既婚者でなければならない」
「そうだな。結婚していないのに、愛人を迎えるという意味がわからん。まずその人と結婚しろ」
「そうですそうです。貴族同士でなければ結婚出来無いとか、幼少期から婚約者がいるというのは、昔のことですからね。母様も民間人である父様と結婚してますし、リュカだって兄様を選んでいます。不義理は絶対に駄目です」

 俺が頷くと、ノエルもコクコク頷いて同意してきた。確かに今の時代、幼少期から婚約者がいるのは、王太子と4大公爵家くらいだろう。

 ただカミラが言うには、この制度が出来た理由も、幼少期からの婚約が問題だったらしい。
 家の為の結婚だからか、伴侶を愛せずに浮気する者達がかなりいた。しかも民間人相手であれば、どのような不義理を働いても問題にならないという時代があったそうだ。
 それを少しでも緩和する為に、定められた制度であると。

 時代が移り変わった今では、夫婦間でどうしても子を授からなかった場合に愛人を迎えて跡取りを産んでもらったり、最初にカミラが説明したように、たんに優秀な人材を他貴族に抜擢されないよう囲ったりする為のものになっている。
 もちろん、そのままの意味も残っているが。

「ちなみに愛人は5人まで。しかも夫婦どちらの許可もないと無理じゃ。そもそもお主らの場合、ザガンが民間人だから、愛人制度は適用されんよ」

 ということらしい。
 つまりあのハーレムエンド、主人公はまず伯爵令嬢のノエルと結婚してから、愛人制度で他5人を囲ったのだな。もちろんノエルの許可ありで。

 良かった、一夫多妻制ではなくて。
 ホッとして息をつくと、ノエルも安心したように吐息を零した。

「では令嬢達が、貴族身分を捨ててまでリュカに迫ってくる、なんて事態も起こらないのですね。良かったですね兄様」

 ニコリと微笑まれたが、そこまで考えが及んでいなかったので、少々驚いてしまう。
 そんな理由で身分を捨てるなど、情熱的を通り越してただの阿呆だぞ。一歩間違えればストーカーである。民衆の上に立っている貴族達に、そんな愚者がいるはずない……と言い切れないのが悲しいところだが。

 微妙な顔になっていたからか、ノエルは慌てたように謝ってきた。

「す、すみません兄様、脅かしてしまって。ちょっとアレな人はどこにでもいますが、心配しなくて大丈夫ですよ。リュカと結婚すれば、王族の伴侶という身分を得られるので、兄様に攻撃したり侮辱してくる人間はいなくなりますからね。そんなことをすれば不敬ですから。なので安心してください」

 グッと拳を握り、励ましてくるノエル。少々引いただけなのに、ここまで心配してくれるなんて、本当に優しい妹だ。

「それで、誕生日プレゼントに話を戻すわけじゃが。指輪を用意して、ザガンから格好良くプロポーズでもすれば、リュカは泣いて喜ぶのではないか?」
「よし買おう。結婚指輪を買おう」

 コクコク頷き、カミラの言葉に同意する。
 格好良さは大事だ。闇属性だとか、家庭を持つことに違和感があるなんて言っている場合ではない。それに結婚することで互いを守れるのは、とても魅力的だからな。

 俺なりに格好良く、リュカにプロポーズしてみせる。

「……お主、リュカからチョロいと言われたことはないか?」
「? リュカが俺にそんなこと言うはずないだろう」
「まぁ、それもそうじゃな」

 首を傾げつつも答えると、カミラは小さく苦笑した。……どうやらカミラは、俺をチョロいと感じたらしい。
 ムッとして見つめると、すまなそうに煎餅を渡される。仕方無いので誤魔化されておこう。ん、美味い。

「指のサイズは、リュカが寝ている隙にこっそり測ると良いですよ。糸とハサミが必要ですから、このソーイングセットをお貸しします」

 ノエルが差し出してきたのは、掌サイズのソーイングセットだった。この中に入っている糸をリュカの薬指に巻き、結んでから糸を切れば完了か。
 ありがたく受け取り、懐に入れる。

「測れたら、一緒にアクセサリー屋に行きましょう。私と兄様だけでは世間体的に問題になりますし、闇属性のこともあるので、必ずリュカを連れていかなければなりませんが。でも指輪を買う時は、無理矢理でも兄様から剥がしますから、任せてくださいね!」

 そうだな。サプライズでプロポーズするのだから、リュカに気付かれるわけにはいかない。

「感謝するノエル。明朝には測れると思うから、時間を見つけて出掛けよう」
「はいっ。兄様との買い物、とても楽しみです!」

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