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おまけ的SS
膝枕
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とある町の小さな公園―――その片隅でわたしは今、人生で初めての膝枕を恋人にしている。
「ねえねえママ、あの人達何しているの?」
「ラブラブなのよ、邪魔しちゃダメよ」
「ラブラブってぇ?」
「んー、とっても仲良しってコト」
「パパとママみたいにぃ?」
「そうよぉ。ふふ、照れちゃうわねー」
あああ~……無邪気な子供の声が、耳に痛い。
「若いモンはいいねぇ」
「わたしらにもあんな頃があったねぇ」
「そうねぇ……懐かしいわねぇ」
別の方向から突き刺さる人生の先輩達の生温かい眼差しも、肌に痛い。
針のむしろっていうのは、きっとこういうことを言うんだろうな。
「オレ知ってるー。ああいうの、バカップルって言うんだろ? 兄ちゃんが言ってたー」
「へー、バカップルっていうんだー」
あぁあぁあ、もうっ、色んな方向からの色んなことが全部、全部聞こえてくるんだけどっ! いたたまれなさ過ぎるっっ!!
「なっ、なぁドルクッ、わたし達、何か色々間違えてないかな? こういうのって、比較的広くて人が分散するような、カップルの多い公園でやるモンなんじゃないのかな!? 木を森に隠す的な意味で! それか、もしくは人気のない穴場的なところでやるのが相場なんじゃないのかなぁ!?」
こんな、地域の人達が集う憩いの場的なところでやるモンじゃないんじゃないのかな!? 膝枕って!
「まあ普通はそうでしょうね……」
頬を紅潮させ涙目で訴えるわたしの太腿に頭を乗せたまま、何でもないことのようにこちらを見上げてしれっと答える恋人に、わたしは思わず牙を剥いた。
「何当たり前みたく言ってんだよ!」
「オレ達の都合とあなたの体調と今日の天気のタイミング、こじんまりとしながらも芝生が綺麗に手入れされた公園―――この辺りがピッタリ合致したので、少々悪目立ちしてしまうくらいは世間一般の『普通』とは縁遠いオレ達的にはなくもないかな? と思ったりもしたんですが。気になります?」
「こんなの気になるに決まってんじゃん! 落ち着かないよ!」
てか、何であんたはそんなに平然としてんの、恥ずかしいって感情が欠落してんの!?
「公園の利用状況についてはリサーチ不足でしたね……まさか、利用者がこんなにいるとは思いませんでした」
賑わう園内にちらと視線を走らせたドルクは、がなるわたしに視線を戻してふと笑んだ。
「それにしても―――顔、赤すぎですよ。こんなに真っ赤になって」
すい、と腕を伸ばして形の良い指先でわたしの頬に触れながら、ダメ押しの言葉を放つ。
「何でこんなに可愛いのかな、あなたは」
「―――!」
ただでさえ熱い頬が更に火照って、顔面から湯気を噴きそうになる。
ああ、もう、もう、この男は! 何でこの状況でそんな言葉を吐くかな!?
もう無理、無理無理、色んな意味で膝枕はもう無理だ、切り上げよう! でもって金輪際なし!
限界を迎えたわたしがそう口火を切ろうとした時だった。不意にドルクが身体を起こしてこう言ったのだ。
「今日は予行演習ということにして切り上げましょうか。いい教訓になりましたね。本番はもっと落ち着けるいわゆる『普通』の場所でやりましょう。あなたの脚、ずっと力が入っていて硬いままですし」
「いや、ていうか、わたしはもう―――」
「リサーチ不足は連帯責任ですから。今度は事前に下調べしておきましょうね」
「え!?」
まあ確かに、わたし自身何の確認もしてなくてただ促されるままついてきたっていう、ドルクに丸投げにしちゃった形ではあるんだけどさ。そこを突かれると痛い。
でも膝枕は正直もういいっていう思いが強いんだけど!
「う……ううーん」
葛藤して唸るわたしにドルクがもたれれかかるようにして上目遣いでこちらを見やり、囁いた。
「オレ、ちゃんと柔らかい膝枕で寝てみたいです」
ぎゃ! ちょ、どこ触ってんだ!
他からは見えない角度で太腿の内側に置かれた手がそこを優しく揉みほぐすように悪戯を始めて、それを止めようとしたわたしの両手にドルクのもう一方の手が重なった。両手をドルクの手で挟み込まれるような形になって、間近にある彼の顔をにらみつけると魔狼の表情で微笑まれた。
「いいでしょう、フレイア?」
うわ、この、悪い顔している!
あれだな、わたしが承諾しなかったら絶対何かやらかす気だな!? そうだな!?
「う……わ、分かったよ」
うぐぐ……思わず頷いてしまった。
「良かった、本番が楽しみだな」
にっこりと微笑むその顔がわざとらしい爽やかさに満ち溢れていて、何だかとっても胡散臭い。
まさか、こういう展開になるのが分かっててわざとここへ連れて来たんじゃないだろうな……?
「……」
ドルクの性格的に充分有り得るのが嫌だ。
くそっ、次は絶対に下調べするぞ! こんな恥ずかしい体験はもうごめんだ!!
わたしは固く決意して、心の中でぎゅっと拳を握りしめた。
恥ずかし過ぎて散々だった初めての膝枕は、逆に忘れられない思い出として、わたしの中にしっかりと刻み込まれてしまったのだった。
<完>
「ねえねえママ、あの人達何しているの?」
「ラブラブなのよ、邪魔しちゃダメよ」
「ラブラブってぇ?」
「んー、とっても仲良しってコト」
「パパとママみたいにぃ?」
「そうよぉ。ふふ、照れちゃうわねー」
あああ~……無邪気な子供の声が、耳に痛い。
「若いモンはいいねぇ」
「わたしらにもあんな頃があったねぇ」
「そうねぇ……懐かしいわねぇ」
別の方向から突き刺さる人生の先輩達の生温かい眼差しも、肌に痛い。
針のむしろっていうのは、きっとこういうことを言うんだろうな。
「オレ知ってるー。ああいうの、バカップルって言うんだろ? 兄ちゃんが言ってたー」
「へー、バカップルっていうんだー」
あぁあぁあ、もうっ、色んな方向からの色んなことが全部、全部聞こえてくるんだけどっ! いたたまれなさ過ぎるっっ!!
「なっ、なぁドルクッ、わたし達、何か色々間違えてないかな? こういうのって、比較的広くて人が分散するような、カップルの多い公園でやるモンなんじゃないのかな!? 木を森に隠す的な意味で! それか、もしくは人気のない穴場的なところでやるのが相場なんじゃないのかなぁ!?」
こんな、地域の人達が集う憩いの場的なところでやるモンじゃないんじゃないのかな!? 膝枕って!
「まあ普通はそうでしょうね……」
頬を紅潮させ涙目で訴えるわたしの太腿に頭を乗せたまま、何でもないことのようにこちらを見上げてしれっと答える恋人に、わたしは思わず牙を剥いた。
「何当たり前みたく言ってんだよ!」
「オレ達の都合とあなたの体調と今日の天気のタイミング、こじんまりとしながらも芝生が綺麗に手入れされた公園―――この辺りがピッタリ合致したので、少々悪目立ちしてしまうくらいは世間一般の『普通』とは縁遠いオレ達的にはなくもないかな? と思ったりもしたんですが。気になります?」
「こんなの気になるに決まってんじゃん! 落ち着かないよ!」
てか、何であんたはそんなに平然としてんの、恥ずかしいって感情が欠落してんの!?
「公園の利用状況についてはリサーチ不足でしたね……まさか、利用者がこんなにいるとは思いませんでした」
賑わう園内にちらと視線を走らせたドルクは、がなるわたしに視線を戻してふと笑んだ。
「それにしても―――顔、赤すぎですよ。こんなに真っ赤になって」
すい、と腕を伸ばして形の良い指先でわたしの頬に触れながら、ダメ押しの言葉を放つ。
「何でこんなに可愛いのかな、あなたは」
「―――!」
ただでさえ熱い頬が更に火照って、顔面から湯気を噴きそうになる。
ああ、もう、もう、この男は! 何でこの状況でそんな言葉を吐くかな!?
もう無理、無理無理、色んな意味で膝枕はもう無理だ、切り上げよう! でもって金輪際なし!
限界を迎えたわたしがそう口火を切ろうとした時だった。不意にドルクが身体を起こしてこう言ったのだ。
「今日は予行演習ということにして切り上げましょうか。いい教訓になりましたね。本番はもっと落ち着けるいわゆる『普通』の場所でやりましょう。あなたの脚、ずっと力が入っていて硬いままですし」
「いや、ていうか、わたしはもう―――」
「リサーチ不足は連帯責任ですから。今度は事前に下調べしておきましょうね」
「え!?」
まあ確かに、わたし自身何の確認もしてなくてただ促されるままついてきたっていう、ドルクに丸投げにしちゃった形ではあるんだけどさ。そこを突かれると痛い。
でも膝枕は正直もういいっていう思いが強いんだけど!
「う……ううーん」
葛藤して唸るわたしにドルクがもたれれかかるようにして上目遣いでこちらを見やり、囁いた。
「オレ、ちゃんと柔らかい膝枕で寝てみたいです」
ぎゃ! ちょ、どこ触ってんだ!
他からは見えない角度で太腿の内側に置かれた手がそこを優しく揉みほぐすように悪戯を始めて、それを止めようとしたわたしの両手にドルクのもう一方の手が重なった。両手をドルクの手で挟み込まれるような形になって、間近にある彼の顔をにらみつけると魔狼の表情で微笑まれた。
「いいでしょう、フレイア?」
うわ、この、悪い顔している!
あれだな、わたしが承諾しなかったら絶対何かやらかす気だな!? そうだな!?
「う……わ、分かったよ」
うぐぐ……思わず頷いてしまった。
「良かった、本番が楽しみだな」
にっこりと微笑むその顔がわざとらしい爽やかさに満ち溢れていて、何だかとっても胡散臭い。
まさか、こういう展開になるのが分かっててわざとここへ連れて来たんじゃないだろうな……?
「……」
ドルクの性格的に充分有り得るのが嫌だ。
くそっ、次は絶対に下調べするぞ! こんな恥ずかしい体験はもうごめんだ!!
わたしは固く決意して、心の中でぎゅっと拳を握りしめた。
恥ずかし過ぎて散々だった初めての膝枕は、逆に忘れられない思い出として、わたしの中にしっかりと刻み込まれてしまったのだった。
<完>
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