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影王の専属人は、森のひと
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「ラステルの話を聞いた限りでは今のノヴァと以前のノヴァ、確かに違いはあるように思えますね」
人で溢れ返る大通りを歩きながら、わたし達は先程聞いたばかりの義賊ノヴァの件について話し合っていた。
ラステル曰く、以前のノヴァは分かりやすい勧善懲悪に徹していたという。
弱者から暴利をむさぼる者、権力をかさに着て横暴を働く者、人身売買のような重大な犯罪に手を染める者―――それらを手玉に取るノヴァの逸話は、声高に言ってはいけないのだろうけど、そのどれもが聞いていて胸がスッとするものだった。
それに対し今のノヴァが狙う相手は、貴族とはいえさほどの権力を持っているわけではなく、世間に表立った悪評が流れているわけでもなく、どうにも齟齬を禁じ得ない。
クリストハルト陛下の治世になって堂々と悪事を働くような権力者は粛清される時代になり、そういった輩は鳴りを潜めるようになったという時代の変化もあるのかもしれないけど、それでも暗い噂のまとわりつく人物は今もいるのに、どうしてノヴァはそこに狙いを定めないのだろう? 街の人達の中にはラステルと同じようにそんな疑問を抱いている人も少なからずいるみたいだった。
「今回のローゼン子爵はどうして狙われたんでしょうね? それと……前のゲイリー男爵でしたか。他にも被害に遭われた方がいらっしゃるみたいですが、その方々に何か共通する点はあるんでしょうか?」
「それが私、被害に遭われたという方達とお会いしたことがなくて、具体的なことは全く分からないのよね……被害者やこの事態を憂慮する者達から王城へ陳情が上がってきていることは確かなのだけれど、調査中のことはお兄様、何も話して下さらないから」
シルフィール様はうーん、と唸って空を見上げた。
「困ったわ……肝心なことを何ひとつ知らないのでは、何も導き出しようがないし―――ねえ、リーフィア。この際私達で街の人達に聞き込みしてみるのはどうかしら? たくさんの人にお話を伺って、私達の手で街の噂の真相を突き止めてみるの!」
えええええっ!? 目を輝かせて突然何を言い出すの、この方は!?
「上手くいけばお兄様の手助けにもなるし、どうかしら!?」
いや、それ、絶対ダメなヤツです! 下手したらお兄様の業務を妨害することにもなりかねませんし!
「どうして? お兄様とは違う視点から義賊の足跡をたどってみるのよ」
お兄様の方でも対策を立てられて、街での聞き込みとか絶対していますから! 下手にこちらで動き回って相手に警戒されたりしたら目も当てられません!
「第一、危険ですよ。相手の正体が不明なんです。今この瞬間、近くにいたとしてもこちらでは気付きようがないんですよ」
自分で言っていて気が付いた。
あれ……? じゃあラステルはどうしてさっき、あんなことを―――。
「義賊は無抵抗の子女に危害を加えたりしないのではないの?」
脳裏をかすめた疑問に意識を引っ張られていたわたしは、シルフィール様の声で我に返った。
「義賊とはいえ、盗賊ですよ。それに義賊を装っているだけの偽物かもしれませんし」
「ええー……いい案だと思ったのだけど……。ダメかしら?」
「ダメです、護衛としての立場上許可出来ません」
「リーフィアがそこまで言うなら……分かったわ」
シルフィール様は可愛らしい口を尖らせて、不承不承といった様子で頷いた。
まあ気持ちは分からなくもないけれど、王妹という立場の方がすることではないし、無理にでも納得してもらうしかないわよね。
溜め息混じりにそんなことを思った時だった。
「ああっ! シ、シルケ様っ!」
聞き覚えのある声がして振り返ると、往来を通りがかった黒塗りの馬車の窓から、人の良さそうな顔をした青年が身を乗り出すようにしてこちらに手を振っているところだった。
げっ! 確か……カイン!
これだけ人のいる街中で、そうそう会うことはないだろうと思っていたのに!
内心で天を仰いだわたしとは対照的に、シルフィール様はふわりとした笑みを彼に向けた。
「あら、貴方は確か―――」
「覚えていて下さいましたか!? 先日お話させていただいたカインです! どうやらご縁がありましたね、またお会い出来て光栄です!」
勢いよく馬車を降りてきたカインは息を弾ませながらシルフィール様の前までやって来ると、弾丸のようにまくしたて、こぼれんばかりの笑顔を見せた。
「そうですね、ご縁があったみたいですね。私もまたお会い出来て嬉しいです」
「そう言っていただけて僕も嬉しいです。何やらお話が盛り上がっていたところのようでしたが、お邪魔してしまいましたか?」
「大丈夫です。ここのところよく耳にする義賊の噂話をしていただけですから」
「義賊……ノヴァ、ですか?」
……?
微妙にカインの声のトーンが変わったような気がして、わたしは彼の顔を注視した。
「はい。私、その方の動向に今とても興味があって」
「シルケ様、ノヴァに興味がおありなんですか? それはまた……どうして?」
「? おかしいですか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、その……僕がお仕えしている方の周りで、被害に遭われたという方が何名かいらっしゃいまして。それでちょっと」
「まあ、そうなんですか? 申し訳ありません、そうとは知らず無神経なことを」
「ああ、いえ、お気になさらないで下さい。知らなかったのですから仕方がありません」
カインは微苦笑を返し、顔の前で軽く両手を振ってみせた。
「実は僕、ラズフェルト侯爵にお仕えしていまして、その関係で被害の件を聞き及んだんです」
ラズフェルト侯爵? 侯爵となれば結構身分の高い方よね。わたしも名前を聞いたことがあるような気はするし、シルフィール様はご存じの方なんじゃ?
「まあ、侯爵様にお仕えしていらっしゃるんですか? すごいですね。どうりで立派な馬車に乗っていらっしゃると思いました」
シルフィール様にそう言われたカインは気持ち襟を正し、控え目に胸を張った。
「はは、幸運にも縁あって召し上げていただけました。あの、差支えなければ教えていただきたいのですが、その……シルケ様はどちらの御令嬢なのでしょうか?」
マズい! 「シルケ様」の詳細な設定なんて、打ち合わせてないわ!
あせったけど下手な口を挟むことも出来ず、祈るような気持ちでシルフィール様を見守っていると、模範的な回答が滑り出てきた。
「そんな大層なものではありませんわ。爵位も持たぬしがない一市民です」
「そうなのですか? 優雅な気品をお持ちなので、僕はてっきり、名のある家の御令嬢なのかと―――」
「ふふ、お上手ですね。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞ではありませんよ」
「しがない一市民でがっかりされましたか?」
「まさか! むしろ、安心しました。僕なんかが声をかけてもいい方なのか、内心ではかなり葛藤がありましたから」
「まあ。それにしてはずいぶん積極的に声をかけて下さった気がするのですけれど」
「はは、そこはまあ。ためらう気持ちよりも、貴女と言葉を交わしたい気持ちの方が大きくて―――」
カインはそう言って熱っぽくシルフィール様を見つめた。
「あの、シルケ様、不躾ですが、今日はお時間ありますか? 先日もお伝えしましたが、ご迷惑でなければ……僕、もっと貴女とお話をしてみたくて」
カイン、謙虚そうな見た目によらずグイグイ来るわね。これはマズい!
「―――あの、失礼ですがカインさん、用事の途中だったのでは?」
二人の間に割って入ると、カインはハッとした様子でわたしを見、それから待たせている馬車を振り返って、がっくりとうなだれた。
「そ、そうでした……旦那様から言いつかった届け物の最中だったんでした。すみません、窓から外を眺めていたら思いがけずシルケ様のお姿をお見かけして、もう無我夢中で―――」
えええ、ガッツリ仕事中じゃない。どんだけ周りが見えなくなっているの。
そして意外に押しが強いなぁ。これでもかとシルフィール様への気持ちをアピールしてくるわね。
「まあ、そうだったのですか。わざわざ足を止めさせてしまって、申し訳ありませんでした」
シルフィール様、軽やかにスル―。天然、強し。
「いえいえ、そんな! 僕が勝手にしたことですから、シルケ様には何の責任もありません! あ、あの……あのっ……次はいつ、お会い出来ますか?」
カイン、必死だなぁ。気持ちは分からなくもないけれど……。
「申し訳ありません、家では兄が厳しくて。次の外出許可がいつ下りるのか確約が出来ないんです」
「そうですか、お兄様が……」
勇気を出して尋ねたであろう質問をかわされてしまったカインは分かりやすく肩を落としたけど、短い沈黙の後、不屈の闘志を瞳に燃やして顔を上げた。
「あの、今日はこの届け物が終わりましたら僕は身体が空くんですが、シルケ様のご予定は? もしお時間があるようでしたら、一緒に馬車に乗っていかれませんか? 届け物の後でご自宅までお送りしますよ」
ちょっ……ないない、ないでしょ! 厳しいお兄様のいる家に街で偶然二回会っただけの男性から馬車で送り届けてもらったりしたら、「シルケ様」が困った立場になるでしょうが!
これ以上ややこしいことになる前に退散願いたい。わたしがきっぱりと断りの文句を伝えようとしたその時、一拍早く、カインが切り札を持ち出した。
「道中、例のノヴァの話などいかがですか? 街の噂では聞けない話がたくさんあると思いますよ」
―――これはマズい! 間に合って……!
「申し訳ありませんが―――」
あせりながら口を開いたわたしの声を、喜色に満ちたシルフィール様の声が打ち消した。
「まあ、宜しいのですか!? ぜひ、お聞かせ願いたいです!」
あああああ~~……! シルフィール様、分かりやすく餌に食いつき過ぎです……!
人で溢れ返る大通りを歩きながら、わたし達は先程聞いたばかりの義賊ノヴァの件について話し合っていた。
ラステル曰く、以前のノヴァは分かりやすい勧善懲悪に徹していたという。
弱者から暴利をむさぼる者、権力をかさに着て横暴を働く者、人身売買のような重大な犯罪に手を染める者―――それらを手玉に取るノヴァの逸話は、声高に言ってはいけないのだろうけど、そのどれもが聞いていて胸がスッとするものだった。
それに対し今のノヴァが狙う相手は、貴族とはいえさほどの権力を持っているわけではなく、世間に表立った悪評が流れているわけでもなく、どうにも齟齬を禁じ得ない。
クリストハルト陛下の治世になって堂々と悪事を働くような権力者は粛清される時代になり、そういった輩は鳴りを潜めるようになったという時代の変化もあるのかもしれないけど、それでも暗い噂のまとわりつく人物は今もいるのに、どうしてノヴァはそこに狙いを定めないのだろう? 街の人達の中にはラステルと同じようにそんな疑問を抱いている人も少なからずいるみたいだった。
「今回のローゼン子爵はどうして狙われたんでしょうね? それと……前のゲイリー男爵でしたか。他にも被害に遭われた方がいらっしゃるみたいですが、その方々に何か共通する点はあるんでしょうか?」
「それが私、被害に遭われたという方達とお会いしたことがなくて、具体的なことは全く分からないのよね……被害者やこの事態を憂慮する者達から王城へ陳情が上がってきていることは確かなのだけれど、調査中のことはお兄様、何も話して下さらないから」
シルフィール様はうーん、と唸って空を見上げた。
「困ったわ……肝心なことを何ひとつ知らないのでは、何も導き出しようがないし―――ねえ、リーフィア。この際私達で街の人達に聞き込みしてみるのはどうかしら? たくさんの人にお話を伺って、私達の手で街の噂の真相を突き止めてみるの!」
えええええっ!? 目を輝かせて突然何を言い出すの、この方は!?
「上手くいけばお兄様の手助けにもなるし、どうかしら!?」
いや、それ、絶対ダメなヤツです! 下手したらお兄様の業務を妨害することにもなりかねませんし!
「どうして? お兄様とは違う視点から義賊の足跡をたどってみるのよ」
お兄様の方でも対策を立てられて、街での聞き込みとか絶対していますから! 下手にこちらで動き回って相手に警戒されたりしたら目も当てられません!
「第一、危険ですよ。相手の正体が不明なんです。今この瞬間、近くにいたとしてもこちらでは気付きようがないんですよ」
自分で言っていて気が付いた。
あれ……? じゃあラステルはどうしてさっき、あんなことを―――。
「義賊は無抵抗の子女に危害を加えたりしないのではないの?」
脳裏をかすめた疑問に意識を引っ張られていたわたしは、シルフィール様の声で我に返った。
「義賊とはいえ、盗賊ですよ。それに義賊を装っているだけの偽物かもしれませんし」
「ええー……いい案だと思ったのだけど……。ダメかしら?」
「ダメです、護衛としての立場上許可出来ません」
「リーフィアがそこまで言うなら……分かったわ」
シルフィール様は可愛らしい口を尖らせて、不承不承といった様子で頷いた。
まあ気持ちは分からなくもないけれど、王妹という立場の方がすることではないし、無理にでも納得してもらうしかないわよね。
溜め息混じりにそんなことを思った時だった。
「ああっ! シ、シルケ様っ!」
聞き覚えのある声がして振り返ると、往来を通りがかった黒塗りの馬車の窓から、人の良さそうな顔をした青年が身を乗り出すようにしてこちらに手を振っているところだった。
げっ! 確か……カイン!
これだけ人のいる街中で、そうそう会うことはないだろうと思っていたのに!
内心で天を仰いだわたしとは対照的に、シルフィール様はふわりとした笑みを彼に向けた。
「あら、貴方は確か―――」
「覚えていて下さいましたか!? 先日お話させていただいたカインです! どうやらご縁がありましたね、またお会い出来て光栄です!」
勢いよく馬車を降りてきたカインは息を弾ませながらシルフィール様の前までやって来ると、弾丸のようにまくしたて、こぼれんばかりの笑顔を見せた。
「そうですね、ご縁があったみたいですね。私もまたお会い出来て嬉しいです」
「そう言っていただけて僕も嬉しいです。何やらお話が盛り上がっていたところのようでしたが、お邪魔してしまいましたか?」
「大丈夫です。ここのところよく耳にする義賊の噂話をしていただけですから」
「義賊……ノヴァ、ですか?」
……?
微妙にカインの声のトーンが変わったような気がして、わたしは彼の顔を注視した。
「はい。私、その方の動向に今とても興味があって」
「シルケ様、ノヴァに興味がおありなんですか? それはまた……どうして?」
「? おかしいですか?」
「いえ、そういうわけでは。ただ、その……僕がお仕えしている方の周りで、被害に遭われたという方が何名かいらっしゃいまして。それでちょっと」
「まあ、そうなんですか? 申し訳ありません、そうとは知らず無神経なことを」
「ああ、いえ、お気になさらないで下さい。知らなかったのですから仕方がありません」
カインは微苦笑を返し、顔の前で軽く両手を振ってみせた。
「実は僕、ラズフェルト侯爵にお仕えしていまして、その関係で被害の件を聞き及んだんです」
ラズフェルト侯爵? 侯爵となれば結構身分の高い方よね。わたしも名前を聞いたことがあるような気はするし、シルフィール様はご存じの方なんじゃ?
「まあ、侯爵様にお仕えしていらっしゃるんですか? すごいですね。どうりで立派な馬車に乗っていらっしゃると思いました」
シルフィール様にそう言われたカインは気持ち襟を正し、控え目に胸を張った。
「はは、幸運にも縁あって召し上げていただけました。あの、差支えなければ教えていただきたいのですが、その……シルケ様はどちらの御令嬢なのでしょうか?」
マズい! 「シルケ様」の詳細な設定なんて、打ち合わせてないわ!
あせったけど下手な口を挟むことも出来ず、祈るような気持ちでシルフィール様を見守っていると、模範的な回答が滑り出てきた。
「そんな大層なものではありませんわ。爵位も持たぬしがない一市民です」
「そうなのですか? 優雅な気品をお持ちなので、僕はてっきり、名のある家の御令嬢なのかと―――」
「ふふ、お上手ですね。お世辞でも嬉しいです」
「お世辞ではありませんよ」
「しがない一市民でがっかりされましたか?」
「まさか! むしろ、安心しました。僕なんかが声をかけてもいい方なのか、内心ではかなり葛藤がありましたから」
「まあ。それにしてはずいぶん積極的に声をかけて下さった気がするのですけれど」
「はは、そこはまあ。ためらう気持ちよりも、貴女と言葉を交わしたい気持ちの方が大きくて―――」
カインはそう言って熱っぽくシルフィール様を見つめた。
「あの、シルケ様、不躾ですが、今日はお時間ありますか? 先日もお伝えしましたが、ご迷惑でなければ……僕、もっと貴女とお話をしてみたくて」
カイン、謙虚そうな見た目によらずグイグイ来るわね。これはマズい!
「―――あの、失礼ですがカインさん、用事の途中だったのでは?」
二人の間に割って入ると、カインはハッとした様子でわたしを見、それから待たせている馬車を振り返って、がっくりとうなだれた。
「そ、そうでした……旦那様から言いつかった届け物の最中だったんでした。すみません、窓から外を眺めていたら思いがけずシルケ様のお姿をお見かけして、もう無我夢中で―――」
えええ、ガッツリ仕事中じゃない。どんだけ周りが見えなくなっているの。
そして意外に押しが強いなぁ。これでもかとシルフィール様への気持ちをアピールしてくるわね。
「まあ、そうだったのですか。わざわざ足を止めさせてしまって、申し訳ありませんでした」
シルフィール様、軽やかにスル―。天然、強し。
「いえいえ、そんな! 僕が勝手にしたことですから、シルケ様には何の責任もありません! あ、あの……あのっ……次はいつ、お会い出来ますか?」
カイン、必死だなぁ。気持ちは分からなくもないけれど……。
「申し訳ありません、家では兄が厳しくて。次の外出許可がいつ下りるのか確約が出来ないんです」
「そうですか、お兄様が……」
勇気を出して尋ねたであろう質問をかわされてしまったカインは分かりやすく肩を落としたけど、短い沈黙の後、不屈の闘志を瞳に燃やして顔を上げた。
「あの、今日はこの届け物が終わりましたら僕は身体が空くんですが、シルケ様のご予定は? もしお時間があるようでしたら、一緒に馬車に乗っていかれませんか? 届け物の後でご自宅までお送りしますよ」
ちょっ……ないない、ないでしょ! 厳しいお兄様のいる家に街で偶然二回会っただけの男性から馬車で送り届けてもらったりしたら、「シルケ様」が困った立場になるでしょうが!
これ以上ややこしいことになる前に退散願いたい。わたしがきっぱりと断りの文句を伝えようとしたその時、一拍早く、カインが切り札を持ち出した。
「道中、例のノヴァの話などいかがですか? 街の噂では聞けない話がたくさんあると思いますよ」
―――これはマズい! 間に合って……!
「申し訳ありませんが―――」
あせりながら口を開いたわたしの声を、喜色に満ちたシルフィール様の声が打ち消した。
「まあ、宜しいのですか!? ぜひ、お聞かせ願いたいです!」
あああああ~~……! シルフィール様、分かりやすく餌に食いつき過ぎです……!
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