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覚醒編
エピローグ
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ガゼの村で最後の朝食を取った後、出立の為族長オラファの家を訪れたあたし達は彼に王都へ同行する使者を紹介され、その意外な人物に驚きの声を上げた。
「ええっ、イルファ!?」
「えへへー、というワケでもうしばらくヨロシク~」
生成り色の短衣の上から軽量の革製の鎧を身に着けた彼女は旅支度を整え、背には竜の牙から造られたという立派な槍を装備していた。
「ビックリした! どうして言ってくれなかったのよー」
「んー、あたしにほぼ決まっている雰囲気ではあったんだけどぉ、昨日のコトがあったし、本決まりになるまでは言わないでおこうと思って。正式に仰せつかったの今朝だしね~」
昨日のコトっていうのはあれだな、昔の異性関係をオラファに聞かれてしまったくだりだな。
「イルファは我が娘であり、私の代行者という立場にふさわしいことと、御覧の通りの跳ねっ返りで勇猛ぶりは村の男達に引けを取らぬこと、竜使いとしての能力が比類ないこと、そしてお主らとの縁―――全てを鑑みて、彼女をガゼの代表者として送ることを決めた」
「イルファを我らに同行していただけますことを心より感謝致します。彼女の身柄は我々が責任をもって預かります」
「うむ。娘を宜しく頼む」
パトロクロスとオラファのやり取りを耳にしながら、あたしは同行する使者がイルファだった嬉しいビックリに胸を躍らせていた。
これでお別れだと思って寂しい気持ちになっていたから、もうしばらくイルファと一緒にいられることになって嬉しい!
もしかしてあれかな、シヴァの眠る島まで一緒に行けるってことかな!?
同席していた前族長ホレットや占術師フェリアとも別れの挨拶を交わし、出立する時―――。
「じゃあ父さん、ホレットのじいちゃん、フェリア、行ってくる!」
「しっかりと務めを果たしてこい」
「……必ずまたここへ帰ってくるのだぞ」
「行ってらっしゃいイルファ、貴女の前途に光あらんことを」
「うん、みんなも元気でねー!」
見送る彼らに大きく手を挙げて、イルファは晴れ晴れとした顔であたし達と共に新しい旅路へと立った。
「……紅焔の動乱から十年後に、まさかこんな形でイルファ……あの幼かったオラファの娘を王都へ送り出すことになるとはな……十年前には考えもせなんだ」
あたし達が去った後、静寂の訪れた室内でホレットが感慨深げな、どこか寂寥感を滲ませる口調で言った。
「オラファ……お主、後悔はしていないか?」
そう尋ねるホレットに、オラファはいかめしい面持ちで頷いた。
「自分自身に問いかける思いはあるが、後悔はしていない。時代が動いている証なのだろう……我々も、変わる時だ」
「水晶球は概ね吉兆を示しています……イルファはきっと、この地へ新しい風を運んできてくれるでしょう」
イルファが旅立っていったドアを見やりながら、穏やかな表情でそう紡ぐフェリアの言葉に現族長と前族長は微苦笑を呈した。
「概ね……か」
「はい。未来は常に移ろうものですから……それを味わうのが人生を歩む者の醍醐味ではないか、と」
「……違いない」
新しい未来を担っていく者達の門出に、彼らは憂いの先の希望を託した。
朝方まで続いていた宴の余韻が残る村の広場はまだひっそりとしていて、あたし達以外の人の姿はなかった。
「紹介するねー。この子がラゼル、子供の頃から一緒に育ったあたしの姉弟! で、こっちがヘイゼ、こっちはゴラム! みんなオトコノコだよ~」
あらかじめ広場に連れてきていた三頭の翼竜をイルファがあたし達に紹介する。
うわぁ~三頭もいると迫力! ラゼルは昨日あたしとガーネットを温泉へ連れて行ってくれた子だ。
「三頭までなら余裕で扱えるから」
首からかけた銀の鎖の先についた笛を見せて、軽い調子で言うイルファ。
おおおー、スゴい、カッコいいー!
クリックルをガゼの村に預けたあたし達は、イルファが操る三頭の翼竜でガゼの村を出立することになった。イルファによるとガゼの村からドヴァーフの王都までは、翼竜の翼で半日かからないとのことだった。
ラゼルにイルファ、ヘイゼにあたしとアキレウス、ゴラムにパトロクロスとガーネットが乗って、いざ出発!
翼竜達の翼が気流を生み地上から浮き立って上昇を始めると、わくわくするようなドキドキするような胸の辺りがふわっとなる独特の感覚があって、鞍の握り棒に捕まる手に自然と力がこもった。
わあぁ、どんどん地面が遠くなっていく!
ある程度のところで上昇が止まると、翼竜達の翼は先程とは動きを変え、風を切りまた風をはらんで、次第にスピードを上げていく。
「爽快だなー」
ヘイゼの手綱を握ったアキレウスが笑う。彼は手綱を持っているだけで、翼竜達はイルファが操っているんだけどね。
うん、ホント風が気持ちいい!
遮るものが何もない空は穏やかに晴れ渡っていて、眼下の景色がみるみる後ろに流れていく。お世話になったガゼの村も、あっという間に見えなくなっていった。
短い滞在だったけど、色々とあったな。
ガゼの村を探しに王都を発った時は、まさかこんなに順調に彼らの協力を取り付けることが出来るなんて、思ってもいなかった。
まず村を探すところから始めないといけなかったし、ドヴァーフの上層部は紅焔の動乱の件をかなり懸念していたからね。
全てはアキレウスのお父さんと前族長のホレットのおかげだ。彼らが繋いでくれた絆のおかげで、あたし達はこの先へ―――シヴァの眠る島へと進むことが出来る。
あたし達の旅の最終目的地へ―――そしていよいよ成し遂げるんだ―――大賢者シヴァを復活させる、その使命を!
「ええっ、イルファ!?」
「えへへー、というワケでもうしばらくヨロシク~」
生成り色の短衣の上から軽量の革製の鎧を身に着けた彼女は旅支度を整え、背には竜の牙から造られたという立派な槍を装備していた。
「ビックリした! どうして言ってくれなかったのよー」
「んー、あたしにほぼ決まっている雰囲気ではあったんだけどぉ、昨日のコトがあったし、本決まりになるまでは言わないでおこうと思って。正式に仰せつかったの今朝だしね~」
昨日のコトっていうのはあれだな、昔の異性関係をオラファに聞かれてしまったくだりだな。
「イルファは我が娘であり、私の代行者という立場にふさわしいことと、御覧の通りの跳ねっ返りで勇猛ぶりは村の男達に引けを取らぬこと、竜使いとしての能力が比類ないこと、そしてお主らとの縁―――全てを鑑みて、彼女をガゼの代表者として送ることを決めた」
「イルファを我らに同行していただけますことを心より感謝致します。彼女の身柄は我々が責任をもって預かります」
「うむ。娘を宜しく頼む」
パトロクロスとオラファのやり取りを耳にしながら、あたしは同行する使者がイルファだった嬉しいビックリに胸を躍らせていた。
これでお別れだと思って寂しい気持ちになっていたから、もうしばらくイルファと一緒にいられることになって嬉しい!
もしかしてあれかな、シヴァの眠る島まで一緒に行けるってことかな!?
同席していた前族長ホレットや占術師フェリアとも別れの挨拶を交わし、出立する時―――。
「じゃあ父さん、ホレットのじいちゃん、フェリア、行ってくる!」
「しっかりと務めを果たしてこい」
「……必ずまたここへ帰ってくるのだぞ」
「行ってらっしゃいイルファ、貴女の前途に光あらんことを」
「うん、みんなも元気でねー!」
見送る彼らに大きく手を挙げて、イルファは晴れ晴れとした顔であたし達と共に新しい旅路へと立った。
「……紅焔の動乱から十年後に、まさかこんな形でイルファ……あの幼かったオラファの娘を王都へ送り出すことになるとはな……十年前には考えもせなんだ」
あたし達が去った後、静寂の訪れた室内でホレットが感慨深げな、どこか寂寥感を滲ませる口調で言った。
「オラファ……お主、後悔はしていないか?」
そう尋ねるホレットに、オラファはいかめしい面持ちで頷いた。
「自分自身に問いかける思いはあるが、後悔はしていない。時代が動いている証なのだろう……我々も、変わる時だ」
「水晶球は概ね吉兆を示しています……イルファはきっと、この地へ新しい風を運んできてくれるでしょう」
イルファが旅立っていったドアを見やりながら、穏やかな表情でそう紡ぐフェリアの言葉に現族長と前族長は微苦笑を呈した。
「概ね……か」
「はい。未来は常に移ろうものですから……それを味わうのが人生を歩む者の醍醐味ではないか、と」
「……違いない」
新しい未来を担っていく者達の門出に、彼らは憂いの先の希望を託した。
朝方まで続いていた宴の余韻が残る村の広場はまだひっそりとしていて、あたし達以外の人の姿はなかった。
「紹介するねー。この子がラゼル、子供の頃から一緒に育ったあたしの姉弟! で、こっちがヘイゼ、こっちはゴラム! みんなオトコノコだよ~」
あらかじめ広場に連れてきていた三頭の翼竜をイルファがあたし達に紹介する。
うわぁ~三頭もいると迫力! ラゼルは昨日あたしとガーネットを温泉へ連れて行ってくれた子だ。
「三頭までなら余裕で扱えるから」
首からかけた銀の鎖の先についた笛を見せて、軽い調子で言うイルファ。
おおおー、スゴい、カッコいいー!
クリックルをガゼの村に預けたあたし達は、イルファが操る三頭の翼竜でガゼの村を出立することになった。イルファによるとガゼの村からドヴァーフの王都までは、翼竜の翼で半日かからないとのことだった。
ラゼルにイルファ、ヘイゼにあたしとアキレウス、ゴラムにパトロクロスとガーネットが乗って、いざ出発!
翼竜達の翼が気流を生み地上から浮き立って上昇を始めると、わくわくするようなドキドキするような胸の辺りがふわっとなる独特の感覚があって、鞍の握り棒に捕まる手に自然と力がこもった。
わあぁ、どんどん地面が遠くなっていく!
ある程度のところで上昇が止まると、翼竜達の翼は先程とは動きを変え、風を切りまた風をはらんで、次第にスピードを上げていく。
「爽快だなー」
ヘイゼの手綱を握ったアキレウスが笑う。彼は手綱を持っているだけで、翼竜達はイルファが操っているんだけどね。
うん、ホント風が気持ちいい!
遮るものが何もない空は穏やかに晴れ渡っていて、眼下の景色がみるみる後ろに流れていく。お世話になったガゼの村も、あっという間に見えなくなっていった。
短い滞在だったけど、色々とあったな。
ガゼの村を探しに王都を発った時は、まさかこんなに順調に彼らの協力を取り付けることが出来るなんて、思ってもいなかった。
まず村を探すところから始めないといけなかったし、ドヴァーフの上層部は紅焔の動乱の件をかなり懸念していたからね。
全てはアキレウスのお父さんと前族長のホレットのおかげだ。彼らが繋いでくれた絆のおかげで、あたし達はこの先へ―――シヴァの眠る島へと進むことが出来る。
あたし達の旅の最終目的地へ―――そしていよいよ成し遂げるんだ―――大賢者シヴァを復活させる、その使命を!
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