上 下
28 / 54

28

しおりを挟む
 喜多川くんとのお出掛けをしょっぱなから満喫しつつ、ご機嫌で電車に乗り込んだ後は、二人で並んで座席に掛けながら、これから向かうおじいちゃんちのことやそれにまつわるエピソード、それにノラオのことなんかで盛り上がった。

『―――おーいヒマリ、お前、今日の目標忘れてねぇ? オレのことなんか話してねぇで、レントのこと色々聞くべきなんじゃねぇの?』

 溜め息混じりにノラオからそう突っ込まれたあたしはハッと我に返った。

 ヤバ、楽し過ぎてすっかり忘れていた! 普通にトークを楽しんでしまっていた~!

 っていうか楽しくてあたしが一方的に喋っちゃってた。あー、何か分かったかも。これだからいつも喜多川くん情報が入ってこないんだな~、反省。

「ごめん、何かあたしばっか喋っちゃって。あたし放っとくとずっと喋ってるからさー、口挟むヒマないよね。喜多川くんも何か話したいことあったらどんどん来て!」
「いや、オレは話し上手じゃないし……岩本さんの話を聞いているの楽しいから」

 あたしの話、楽しいって言ってくれてる!

 嬉しい! 好きー!

 でも、喜多川くんの話も色々聞きたい~!

「えー? 話し下手なイメージないけど。あたし、喜多川くんの話を聞くの好きだよ。楽しいし」

 何気ない返しにキュンキュンしながらそう言うと、喜多川くんは照れくさそうに視線を逸らした。

「それは、岩本さんが聞き上手で話し上手だから。どんなトークでも繋げて広げてくれるし……」
「あっは、褒め過ぎ! 紬に言わせるとあっちこち飛び過ぎらしいよー。すぐ脱線するって」
「そうなの? オレ的には心地好いよ。岩本さんが楽しそうに喋ってくれるから、こっちも気負わずに自然体でいられるし……。会話が途切れて、間が持たなくて、気まずくなったらどうしよう……って構えずにいられるから」

 そうなんだー? そんなふうに言われると俄然調子に乗っちゃいますけど!

「じゃあ、あたしから喜多川くんに色々聞いてみてもいい? この間ふと、あたしって自分のこと喋ってばっかりで、喜多川くんのことほとんど何も知らないなーって気付いちゃったところなんだよね」
「え? ああ……言われてみたら、そうかもしれないね。オレ、自分のことってほとんど話してないかも」
「うん。だからさ、この機会に喜多川くんのこともっと知りたいなーと思って。もちろん話したくないことや答えにくいことは言わなくていいからさ。あたしもほら、喜多川くんに話せてないことあるし、そこはお互い様ってことで」

 図書館での一件を持ち出して気負わずに軽い感じで話せるように持っていくと、喜多川くんも納得したように頷いてくれて、あたしは知りたかった喜多川くん情報を色々ゲットすることが出来たのだった。やったー!

 リサーチによると喜多川くんは12月15日生まれの射手座で血液型はA型、趣味は読書や映画鑑賞で、ゲームをするのも好きなんだそう。好きな異性のタイプはちょっと聞きづらかったから、好きな女性芸能人を聞いてみたら、有名な清楚系の若い俳優さんを挙げていた。

 あたしとは正反対なタイプの俳優さんだけど、あたしだって好きな男性芸能人は喜多川くんとはまるでタイプが違う俳優さんだし、これはあくまで理想像というか、好みの系統のひとつと考えておこう、うん。

 清楚系というところで、見た目がそうな阿久里さんのことが思い浮かんで、かなり気になったしモヤッとしたけど、そこは聞けなかった。

 阿久里さんとはどういう関係なのとか、先週二人でどこへ何しに出掛けていたのとか、そのお出掛けは楽しかったのかなぁとか……スゴく、スゴーく気にはなったんだけど、さすがにね。

 でも、それ以上に気になっていた情報を聞くことが出来たから、良し!

 ―――喜多川くんに今、彼女はいない!

 っっっ、あ―――! 良かったあぁぁぁぁ!

 それが確認出来た時は、その場でガッツポーズして飛び跳ねたくなるくらい嬉しくって、もう、表情に出さないようにするのが大変だった。

 もしこれに頷かれちゃったらどうしようって、かなりドキドキしながらした質問だったけど、本っっ当~に本っっ当に彼女がいなくて良かった!

『どんだけ嬉しいんだよ……』

 ノラオに引かれちゃうくらい心の中で喜びを爆発させちゃったけど、本当にそのくらい嬉しかったんだから仕方がない。

 喜多川くんがフリーだったことを心から喜びながら、あたしは彼に色んな質問をする過程でちょいちょい自分の情報もねじ込んで(例えば「喜多川くんはA型なんだ~あたしはО型!」といった具合)ちゃっかり彼にも自分のあれこれを知らしめた。

 これで喜多川くんにも色々あたしのことを知ってもらえたと思うし、勝手にまた距離が縮まったような気がして嬉しくなってしまう。

『完全に独りよがりの自己満足ってヤツだなー』

 うるさい。ちょっと黙ってなさい、ノラオ。

 あたしは読書はあんまりしないけど、映画を見るのは好きだしゲームも嫌いじゃないから、映画デートとかおうちでまったりゲームデートなんかもいいなぁ。それで、そこからまた色々楽しいことを共有して広げていけたら、スゴくスゴくいいなぁと思う。

 ラーメンが好きだって言っていたから学校帰りに一緒にラーメン屋さんに寄ったり、休みの日に待ち合わせて二人で美味しいラーメン食べに行ったりもしてみたい。

 あー、夢がふくらむ……!

 そんな希望と楽しい妄想に満ちた電車での移動時間はあっという間で、降りた駅からバスに乗り換えて最寄りのバス停で降車したあたし達は、閑静な住宅街の一角にあるおじいちゃんの家へとたどり着いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

処理中です...