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本編
二十二歳⑲
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その姿を目にした時、これは自分の願望が形になって現れた幻なのかと思った。
この世とあの世の境の窮地に、彗星のように現れたその男は、私が想像していた以上に強くたくましく成長しており、恐らく相当な実力者であるはずのグリファスを圧倒する力でねじ伏せ、撃退した。
「ユーファ!」
片膝をつき、自らの外衣を外して私の肩に羽織らせてくれたその男のインペリアルトパーズの瞳が、今にも溢れ出しそうな感情を宿して揺れている。
「よく、生きて……!」
噛みしめるようにそう言って私を包み込んだ彼の言葉に、万感の思いを感じ取った。
早鐘を打つ彼の鼓動。確かな温もりを伝えてくるその身体が滾る感情にぶれて、小刻みに震えている。
心安らぐ彼の匂いと大きくて広い、硬い胸の質感に急速に安心感が込み上げてきて、涙腺が決壊した。
「……っ! フラム、アーク……! フラムアーク様っ!」
私はしゃくりを上げながら彼にしがみつき、その胸に縋りつくようにして、声を上げて泣いた。
「怖、かっ……! 怖かった……! もっ、う、会えないんじゃないかと……!」
胸の底にずっと抱えていた不安。その可能性が、何よりも恐ろしかった。
嗚咽で言葉を詰まらせながら、私はフラムアークに縋りつく手に力を込めた。
今こうして彼の腕の中にいられることが夢のようで、涙が止まらない。
もう会えないかもしれないと思っていたフラムアークに会うことが出来て、こうして彼に助けてもらえて、溢れ出す激情に頭も言葉もついてこなくて、私は涙でぐしゃぐしゃになった顔で彼を仰ぎながら、感情が迸るままに想いを伝えた。
「貴方に、このまま会えなくなるかと思ってっ……それ、がっ……一番、怖かった……!」
「……!」
フラムアークのインペリアルトパーズの瞳が狂おしい光を帯び、その双眸に、これまで頑なに隠してきた熱情の火が灯った。
「ユーファ……!」
泣きじゃくる私の名を呼び、どこかためらいがちに伸ばされた彼の指先が、大切そうに、愛おしそうに私の頬に触れ、切なげにひそめられた彼の端整な顔が、ゆっくりと近付いてくる。私は高鳴る胸の鼓動を意識しながら、その光景を既視感をもって見つめていた。
目の前の彼のこと以外、何も考えられなかった。
ほんの一瞬、唇が触れ合い、すぐに一度離れて、確かめるように至近距離で見つめ合った後、堰を切ったように互いの唇が重なり合った。
あの夜に感じたフラムアークの質感が、唇から伝わる熱が、置き去りにされていた感情と絡み合ってめくるめき、私の胸を大きく打ち震わせる。私達は無心に互いを求め合い、何度も何度も、どちらからともなく唇を重ね合って、その想いを確かめ合った。
フラムアーク……フラムアーク……!
こうして貴方と触れ合って、初めて分かる。
自分がどれだけ、この瞬間を待ちわびていたのか。どれだけ貴方とこうありたいと望んでいたのか。
この瞬間を、永遠に感じていたい。
けれど極限まで体力を削られた肉体は、それを許してくれなかった。
夢のようなひと時の中、急速に意識が遠のいていくのを感じた私は、必死にそれに抗いながら、薄れゆく意識の中で、フラムアークにどうしても伝えなければならないことを伝えた。
「私を、崖から突き落としたのは……レムリアです。彼女はおそらく、グリファスと繋がって……左腕に、彼女が作ったものと、よく似たブレスレットが―――……」
「! レムリアが―――!?」
さしものフラムアークも想定していなかったのだろう、愕然とする彼に頷いたところで私の意識は白んでいき、そのまま彼の胸にもたれるようにして力尽きてしまった。
「ユーファ!」
私を案じるフラムアークの声に混じって、エレオラらしき人物が駆けつけてくる気配と、緊迫した彼らのやり取りを耳にしながら、私の意識は深い闇の底へと吸い込まれていき、力強い腕にふわりと横抱きにされる感覚を最後に、完全に閉ざされてしまった―――。
この世とあの世の境の窮地に、彗星のように現れたその男は、私が想像していた以上に強くたくましく成長しており、恐らく相当な実力者であるはずのグリファスを圧倒する力でねじ伏せ、撃退した。
「ユーファ!」
片膝をつき、自らの外衣を外して私の肩に羽織らせてくれたその男のインペリアルトパーズの瞳が、今にも溢れ出しそうな感情を宿して揺れている。
「よく、生きて……!」
噛みしめるようにそう言って私を包み込んだ彼の言葉に、万感の思いを感じ取った。
早鐘を打つ彼の鼓動。確かな温もりを伝えてくるその身体が滾る感情にぶれて、小刻みに震えている。
心安らぐ彼の匂いと大きくて広い、硬い胸の質感に急速に安心感が込み上げてきて、涙腺が決壊した。
「……っ! フラム、アーク……! フラムアーク様っ!」
私はしゃくりを上げながら彼にしがみつき、その胸に縋りつくようにして、声を上げて泣いた。
「怖、かっ……! 怖かった……! もっ、う、会えないんじゃないかと……!」
胸の底にずっと抱えていた不安。その可能性が、何よりも恐ろしかった。
嗚咽で言葉を詰まらせながら、私はフラムアークに縋りつく手に力を込めた。
今こうして彼の腕の中にいられることが夢のようで、涙が止まらない。
もう会えないかもしれないと思っていたフラムアークに会うことが出来て、こうして彼に助けてもらえて、溢れ出す激情に頭も言葉もついてこなくて、私は涙でぐしゃぐしゃになった顔で彼を仰ぎながら、感情が迸るままに想いを伝えた。
「貴方に、このまま会えなくなるかと思ってっ……それ、がっ……一番、怖かった……!」
「……!」
フラムアークのインペリアルトパーズの瞳が狂おしい光を帯び、その双眸に、これまで頑なに隠してきた熱情の火が灯った。
「ユーファ……!」
泣きじゃくる私の名を呼び、どこかためらいがちに伸ばされた彼の指先が、大切そうに、愛おしそうに私の頬に触れ、切なげにひそめられた彼の端整な顔が、ゆっくりと近付いてくる。私は高鳴る胸の鼓動を意識しながら、その光景を既視感をもって見つめていた。
目の前の彼のこと以外、何も考えられなかった。
ほんの一瞬、唇が触れ合い、すぐに一度離れて、確かめるように至近距離で見つめ合った後、堰を切ったように互いの唇が重なり合った。
あの夜に感じたフラムアークの質感が、唇から伝わる熱が、置き去りにされていた感情と絡み合ってめくるめき、私の胸を大きく打ち震わせる。私達は無心に互いを求め合い、何度も何度も、どちらからともなく唇を重ね合って、その想いを確かめ合った。
フラムアーク……フラムアーク……!
こうして貴方と触れ合って、初めて分かる。
自分がどれだけ、この瞬間を待ちわびていたのか。どれだけ貴方とこうありたいと望んでいたのか。
この瞬間を、永遠に感じていたい。
けれど極限まで体力を削られた肉体は、それを許してくれなかった。
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「私を、崖から突き落としたのは……レムリアです。彼女はおそらく、グリファスと繋がって……左腕に、彼女が作ったものと、よく似たブレスレットが―――……」
「! レムリアが―――!?」
さしものフラムアークも想定していなかったのだろう、愕然とする彼に頷いたところで私の意識は白んでいき、そのまま彼の胸にもたれるようにして力尽きてしまった。
「ユーファ!」
私を案じるフラムアークの声に混じって、エレオラらしき人物が駆けつけてくる気配と、緊迫した彼らのやり取りを耳にしながら、私の意識は深い闇の底へと吸い込まれていき、力強い腕にふわりと横抱きにされる感覚を最後に、完全に閉ざされてしまった―――。
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