22 / 128
本編
十九歳③
しおりを挟む
期せずして眠れぬ夜を過ごすことになってしまった私は翌日、レムリアが仕事を終える頃合いを見計らって、保護宮の彼女の元を訪ねていた。
「ユーファ! こんな時間に珍しいね、どうしたの?」
人懐っこいトルマリン色の瞳をまん丸に見開いて迎え入れてくれた彼女に、私は力ない笑みを返す。
「んー、ちょっと元気を分けてもらいたくて」
色々考えすぎて疲れたのと、フラムアークに昨日早く寝ると言った手前、寝不足を悟られるわけにもいかず、妙な心配をかけないように気を張ったこと、それにスレンツェのことも変に意識してしまい、彼に対していつも通り振る舞おうとしゃかりきになってしまったこと、様々なことが重なって、精神的にひどく消耗してしまったのだ。
自分の気持ちも何だかぐしゃぐしゃになっていて、誰かに話を聞いてもらいたかった。そんな思いから、助けを求めるようにここへとやって来たのだ。
「仕事がらみで何かあったの? また貴族の令嬢達から嫌がらせを受けてるとか? よしよし、お姉さんに話してごらん? 楽になるよー」
「仕事がらみと言えば仕事がらみだけど、そういうんじゃないの。私自身の心構えの問題というか……色々あって、ちょっと落ち込んでしまって」
「任せて! 今ならあたし、ちょーたくさん元気を分けてあげられる自信がある! どんとこーい!」
両手を大きく広げて、レムリアは頼もしく私を受け入れてくれる姿勢を示した。そんな彼女の明るさに引きずられて、私の表情も自然とほころぶ。
「ありがとう。レムリアは何かいいことがあったの?」
「うふふ。実はそうなんだよ~! ちょうどユーファに会って話したいな~って思っていたところだったから、訪ねてきてくれて嬉しいビックリだった!」
「ええ、何? 何があったの? 気になるじゃない」
「いやいや、あたしのは後でいいから―! まずはユーファだよ。さ、話してみ?」
そう促されて、私は少しためらいながら口を開いた。
「……ここだけの話にしてほしいんだけど」
「うんうん、もちろんだよ! 分かってる!」
レムリアがこう見えて口が固い娘なのは分かっている。けれど一応そう前置きをしてから、私はとつとつと話し始めた。
「……私、どうやら子離れ出来ていなかったみたいなの。ダメ親だったみたいなの……」
「はい?」
「実は―――……」
私の話を聞き終えたレムリアは、細い眉を寄せて少し難しい顔になった。
「ねえユーファ、それって母性からくるものだったのかな? 女としての情動だったりはしない?」
「え?」
「ユーファはフラムアーク様が小さい頃から見ているわけだし、半分育ての親みたいな心境だっていうのも分かるから、微妙と言えば微妙なんだけどさ……。何か今、話を聞いていて、フラムアーク様とアデリーネ様がどうこうっていうよりは、彼が『可愛い』っていう言葉を彼女に使ったことに対してショックを受けているように感じられたから」
「……? よく分からないわ……それって、どこか違うの?」
「うーん、難しい理屈としては説明出来ないけどー、あたしが直感的に感じた印象としては!」
レムリアはそう言い置いて、彼女なりの解釈を説明した。
「可愛いっていう言葉って、言われたら単純に女としては嬉しい言葉じゃない? 『人』としてじゃなく、『女』として嬉しいっていうか。あたしはそうなんだけど。
それをさ、子どもの頃からとはいえ、一人の男にずっと言われ続けたら、無意識に意識するっていうか、特別な言葉になるんじゃないかな? って思って。それを自分以外の女に使っているのを初めて聞いちゃったのが、ショックの大元なんじゃないのかなーと。聞いてて、そんな気がしたんだけど」
つまり……刷り込みによるショックみたいなものってこと?
「……。だとしたら、何だか私、痛い人みたいじゃない?」
「痛くないよー! ユーファは痛くなんかない!」
レムリアは首を左右に振って、全力で否定した。
「フラムアーク様、いい男になったし! そんな人に『可愛い』って言われ続けたら、大抵の女は意識しちゃうよ! あたしがユーファだったら、彼のこと絶対に意識しちゃうもの! やむを得ないって!
……たださ、彼が人間の、年相応の相手に想いを寄せているようなら、こっちとしてはやっぱり、静かに引いて見守ってあげるのが正解なんだろうなぁって思うけど……。スゴくお似合いだって、宮廷中で噂になっているもんね、二人」
「……。そうね……」
私は下目がちに頷いた。
傍から見て、絵になる二人だもの。本当にお似合いだと、私も思う。
フラムアークに対してやましい想いを持っていたつもりはないけれど、ぽっかりと穴が開いてしまったようなこの気持ちには、そういう部分もあったのかな。心のどこかで彼に「可愛い」と言ってもらえるのを喜んでいる、女としての自分がいたのかな。
「それよりも、スレンツェ! ユーファ、スレンツェよ!!」
私の様子を心配そうに見ていたレムリアは、暗い空気を払うように一転、目を輝かせてそう言うと、勢い込んで私の手を握り締めてきた。
「彼、絶っっ対にユーファに気があるよ! じゃなかったら、そんなこと言わないって!! ねっ、ユーファはどうなの!?」
「わ……私?」
「そう! ユーファ自身の気持ち! 種族の違いうんぬん難しいことは抜きにして、ユーファはスレンツェのこと、どう思っているの!?」
私? 私は―――……。
これまでの様々な出来事を振り返りながら、今までどこか意識的に考えないようにしていた、男性としてのスレンツェのことを初めて考えてみる。
職場の同僚を異性として意識すると色々仕事がやりにくくなるし、そもそも同族間での婚姻しか認められていない兎耳族には人間を恋愛対象とすること自体が不毛で、そんなことは考える余地もない、無意味なことだと思っていた。
けれど、そんなふうに自分に言い聞かせながらも、ふとした瞬間チラつくその可能性を心の奥底で感じていたことは否めない。ただ、こうして改めてそれを考えてみるなんて、臆病な私には一人では怖くてとても出来なかったことだった。
レムリアの助けを得て、初めて―――勇気を出して、自分の心と向き合ってみる。
「―――わあ、ユーファが女の子の顔になった」
固唾を飲んで見守っていたレムリアに、ほぅ、と感嘆の息を漏らされて、スレンツェのことを考えていた私は恥ずかしてくたまらなくなった。
全身、真っ赤になっている自覚がある。くてんと兎耳が横になって、思わず自分の顔を両手で覆い隠した。
「初めて見たぁ。もぉ、ユーファったら可愛いなぁ~! あたしがスレンツェだったら、今この場で押し倒してる!」
ぎゅうっと抱きつきながらそう言われて、私はただでさえ赤くなっている顔を更に赤くした。
「か、からかわないでよ」
「うふふ。宮廷ロマンス来た―――ッ! それで、いつから? いつからユーファは彼のことを意識していたワケ?」
兎耳をぴるぴるしながら顔を覗き込まれて、私は唸るように声を絞り出した。
「……よく、分かんない。多分、色んな事が少しずつ、少しずつ積み重なって―――」
きっかけは、彼が初めて弱みを見せてくれたあの時だろうか。それまで頑なに閉じていた扉を、私に向けて開けてくれた、あの瞬間からだろうか―――……。
「ちなみにあたしは彼のことを良く知らないんだけどぉ―――ユーファは彼のどんなところが好きなの? 教えてよ」
「どんなところ!?」
頭の中に色んな情報が一気に思い浮かんで、自覚したばかりの感情に理性が付いて行かない。
「ま、待って待って。自分の気持ちに気付いたばかりで、頭の整理が追いつかない」
顔面がゆだりそうな私を見て、レムリアはニヤーッと口角を上げた。
「ふふ~、自覚したての恋心に悶える乙女、見てて楽しいわぁ。同士よ! これから一緒に、禁断の恋を楽しもうねぇ~!」
「禁断の恋って」
大袈裟な言い回しに赤面を返すと、レムリアは心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「ユーファに好きな人が出来たことはもちろん嬉しいけど、それがまた、自分と同じ状況っていうのが何よりも心強くて嬉しいな! 何でも相談してね! あたしも色々相談するし」
「ありがとう……」
「にしても、同族間でしか婚姻を認めてくれない縛り、どうにかしてほしいよねぇ。両想いになってもイチャイチャ出来ないし、キスする場所を探すのもひと苦労だよ」
……あら?
そんなレムリアの物言いに私はひとつ瞬きして、まじまじと彼女を見やった。
「レムリア。もしかして……?」
「うふふー。実はね、例の彼と両想いになれたの! これをユーファに報告したくって」
ええっ!
「そうなの!? スゴいじゃない! おめでとう!」
心の底から驚きながら、長かった彼女の片想いが報われたのを知って、私は胸が熱くなった。
「本当におめでとう……想いが伝わって、良かったわね」
「ふふ、ありがとう。きっとユーファもすぐなんじゃない?」
「私はそんな……まだ自分の気持ちに気が付いただけで、実際にスレンツェが私をどう思っているかは分からないし」
立場的にも、おいそれと行動には移せない。皇帝の庇護下にある兎耳族が人間と不貞を働いたとなれば、主であるフラムアークの立場を失墜させかねないし、そんなことはスレンツェも望まないだろう。私だけの感情で彼らに迷惑をかけるわけには、いかない。
「二人が両片想いっていうのは間違いないと思うんだけどな~」
「……どうかしら」
そう濁して、私はレムリアをせっついた。
「それよりも聞かせてよ、あなた達の詳しい経緯を。いつ付き合うことになったの?」
「待って待って。飲み物用意してからね!」
そう言って席を立ったレムリアの背中を見やりながら、私は初めて自覚したスレンツェへの恋心が持つ危うさを、そっと胸に刻み込んだ。
きっと、この想いは秘めていなければならないものだ。例えレムリアの言うように両想いであったとしても、この国の法律が変わらない限り、口にすることは許されない気持ちなのだ―――……。
「ユーファ! こんな時間に珍しいね、どうしたの?」
人懐っこいトルマリン色の瞳をまん丸に見開いて迎え入れてくれた彼女に、私は力ない笑みを返す。
「んー、ちょっと元気を分けてもらいたくて」
色々考えすぎて疲れたのと、フラムアークに昨日早く寝ると言った手前、寝不足を悟られるわけにもいかず、妙な心配をかけないように気を張ったこと、それにスレンツェのことも変に意識してしまい、彼に対していつも通り振る舞おうとしゃかりきになってしまったこと、様々なことが重なって、精神的にひどく消耗してしまったのだ。
自分の気持ちも何だかぐしゃぐしゃになっていて、誰かに話を聞いてもらいたかった。そんな思いから、助けを求めるようにここへとやって来たのだ。
「仕事がらみで何かあったの? また貴族の令嬢達から嫌がらせを受けてるとか? よしよし、お姉さんに話してごらん? 楽になるよー」
「仕事がらみと言えば仕事がらみだけど、そういうんじゃないの。私自身の心構えの問題というか……色々あって、ちょっと落ち込んでしまって」
「任せて! 今ならあたし、ちょーたくさん元気を分けてあげられる自信がある! どんとこーい!」
両手を大きく広げて、レムリアは頼もしく私を受け入れてくれる姿勢を示した。そんな彼女の明るさに引きずられて、私の表情も自然とほころぶ。
「ありがとう。レムリアは何かいいことがあったの?」
「うふふ。実はそうなんだよ~! ちょうどユーファに会って話したいな~って思っていたところだったから、訪ねてきてくれて嬉しいビックリだった!」
「ええ、何? 何があったの? 気になるじゃない」
「いやいや、あたしのは後でいいから―! まずはユーファだよ。さ、話してみ?」
そう促されて、私は少しためらいながら口を開いた。
「……ここだけの話にしてほしいんだけど」
「うんうん、もちろんだよ! 分かってる!」
レムリアがこう見えて口が固い娘なのは分かっている。けれど一応そう前置きをしてから、私はとつとつと話し始めた。
「……私、どうやら子離れ出来ていなかったみたいなの。ダメ親だったみたいなの……」
「はい?」
「実は―――……」
私の話を聞き終えたレムリアは、細い眉を寄せて少し難しい顔になった。
「ねえユーファ、それって母性からくるものだったのかな? 女としての情動だったりはしない?」
「え?」
「ユーファはフラムアーク様が小さい頃から見ているわけだし、半分育ての親みたいな心境だっていうのも分かるから、微妙と言えば微妙なんだけどさ……。何か今、話を聞いていて、フラムアーク様とアデリーネ様がどうこうっていうよりは、彼が『可愛い』っていう言葉を彼女に使ったことに対してショックを受けているように感じられたから」
「……? よく分からないわ……それって、どこか違うの?」
「うーん、難しい理屈としては説明出来ないけどー、あたしが直感的に感じた印象としては!」
レムリアはそう言い置いて、彼女なりの解釈を説明した。
「可愛いっていう言葉って、言われたら単純に女としては嬉しい言葉じゃない? 『人』としてじゃなく、『女』として嬉しいっていうか。あたしはそうなんだけど。
それをさ、子どもの頃からとはいえ、一人の男にずっと言われ続けたら、無意識に意識するっていうか、特別な言葉になるんじゃないかな? って思って。それを自分以外の女に使っているのを初めて聞いちゃったのが、ショックの大元なんじゃないのかなーと。聞いてて、そんな気がしたんだけど」
つまり……刷り込みによるショックみたいなものってこと?
「……。だとしたら、何だか私、痛い人みたいじゃない?」
「痛くないよー! ユーファは痛くなんかない!」
レムリアは首を左右に振って、全力で否定した。
「フラムアーク様、いい男になったし! そんな人に『可愛い』って言われ続けたら、大抵の女は意識しちゃうよ! あたしがユーファだったら、彼のこと絶対に意識しちゃうもの! やむを得ないって!
……たださ、彼が人間の、年相応の相手に想いを寄せているようなら、こっちとしてはやっぱり、静かに引いて見守ってあげるのが正解なんだろうなぁって思うけど……。スゴくお似合いだって、宮廷中で噂になっているもんね、二人」
「……。そうね……」
私は下目がちに頷いた。
傍から見て、絵になる二人だもの。本当にお似合いだと、私も思う。
フラムアークに対してやましい想いを持っていたつもりはないけれど、ぽっかりと穴が開いてしまったようなこの気持ちには、そういう部分もあったのかな。心のどこかで彼に「可愛い」と言ってもらえるのを喜んでいる、女としての自分がいたのかな。
「それよりも、スレンツェ! ユーファ、スレンツェよ!!」
私の様子を心配そうに見ていたレムリアは、暗い空気を払うように一転、目を輝かせてそう言うと、勢い込んで私の手を握り締めてきた。
「彼、絶っっ対にユーファに気があるよ! じゃなかったら、そんなこと言わないって!! ねっ、ユーファはどうなの!?」
「わ……私?」
「そう! ユーファ自身の気持ち! 種族の違いうんぬん難しいことは抜きにして、ユーファはスレンツェのこと、どう思っているの!?」
私? 私は―――……。
これまでの様々な出来事を振り返りながら、今までどこか意識的に考えないようにしていた、男性としてのスレンツェのことを初めて考えてみる。
職場の同僚を異性として意識すると色々仕事がやりにくくなるし、そもそも同族間での婚姻しか認められていない兎耳族には人間を恋愛対象とすること自体が不毛で、そんなことは考える余地もない、無意味なことだと思っていた。
けれど、そんなふうに自分に言い聞かせながらも、ふとした瞬間チラつくその可能性を心の奥底で感じていたことは否めない。ただ、こうして改めてそれを考えてみるなんて、臆病な私には一人では怖くてとても出来なかったことだった。
レムリアの助けを得て、初めて―――勇気を出して、自分の心と向き合ってみる。
「―――わあ、ユーファが女の子の顔になった」
固唾を飲んで見守っていたレムリアに、ほぅ、と感嘆の息を漏らされて、スレンツェのことを考えていた私は恥ずかしてくたまらなくなった。
全身、真っ赤になっている自覚がある。くてんと兎耳が横になって、思わず自分の顔を両手で覆い隠した。
「初めて見たぁ。もぉ、ユーファったら可愛いなぁ~! あたしがスレンツェだったら、今この場で押し倒してる!」
ぎゅうっと抱きつきながらそう言われて、私はただでさえ赤くなっている顔を更に赤くした。
「か、からかわないでよ」
「うふふ。宮廷ロマンス来た―――ッ! それで、いつから? いつからユーファは彼のことを意識していたワケ?」
兎耳をぴるぴるしながら顔を覗き込まれて、私は唸るように声を絞り出した。
「……よく、分かんない。多分、色んな事が少しずつ、少しずつ積み重なって―――」
きっかけは、彼が初めて弱みを見せてくれたあの時だろうか。それまで頑なに閉じていた扉を、私に向けて開けてくれた、あの瞬間からだろうか―――……。
「ちなみにあたしは彼のことを良く知らないんだけどぉ―――ユーファは彼のどんなところが好きなの? 教えてよ」
「どんなところ!?」
頭の中に色んな情報が一気に思い浮かんで、自覚したばかりの感情に理性が付いて行かない。
「ま、待って待って。自分の気持ちに気付いたばかりで、頭の整理が追いつかない」
顔面がゆだりそうな私を見て、レムリアはニヤーッと口角を上げた。
「ふふ~、自覚したての恋心に悶える乙女、見てて楽しいわぁ。同士よ! これから一緒に、禁断の恋を楽しもうねぇ~!」
「禁断の恋って」
大袈裟な言い回しに赤面を返すと、レムリアは心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「ユーファに好きな人が出来たことはもちろん嬉しいけど、それがまた、自分と同じ状況っていうのが何よりも心強くて嬉しいな! 何でも相談してね! あたしも色々相談するし」
「ありがとう……」
「にしても、同族間でしか婚姻を認めてくれない縛り、どうにかしてほしいよねぇ。両想いになってもイチャイチャ出来ないし、キスする場所を探すのもひと苦労だよ」
……あら?
そんなレムリアの物言いに私はひとつ瞬きして、まじまじと彼女を見やった。
「レムリア。もしかして……?」
「うふふー。実はね、例の彼と両想いになれたの! これをユーファに報告したくって」
ええっ!
「そうなの!? スゴいじゃない! おめでとう!」
心の底から驚きながら、長かった彼女の片想いが報われたのを知って、私は胸が熱くなった。
「本当におめでとう……想いが伝わって、良かったわね」
「ふふ、ありがとう。きっとユーファもすぐなんじゃない?」
「私はそんな……まだ自分の気持ちに気が付いただけで、実際にスレンツェが私をどう思っているかは分からないし」
立場的にも、おいそれと行動には移せない。皇帝の庇護下にある兎耳族が人間と不貞を働いたとなれば、主であるフラムアークの立場を失墜させかねないし、そんなことはスレンツェも望まないだろう。私だけの感情で彼らに迷惑をかけるわけには、いかない。
「二人が両片想いっていうのは間違いないと思うんだけどな~」
「……どうかしら」
そう濁して、私はレムリアをせっついた。
「それよりも聞かせてよ、あなた達の詳しい経緯を。いつ付き合うことになったの?」
「待って待って。飲み物用意してからね!」
そう言って席を立ったレムリアの背中を見やりながら、私は初めて自覚したスレンツェへの恋心が持つ危うさを、そっと胸に刻み込んだ。
きっと、この想いは秘めていなければならないものだ。例えレムリアの言うように両想いであったとしても、この国の法律が変わらない限り、口にすることは許されない気持ちなのだ―――……。
2
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。

[完結]思い出せませんので
シマ
恋愛
「早急にサインして返却する事」
父親から届いた手紙には婚約解消の書類と共に、その一言だけが書かれていた。
同じ学園で学び一年後には卒業早々、入籍し式を挙げるはずだったのに。急になぜ?訳が分からない。
直接会って訳を聞かねば
注)女性が怪我してます。苦手な方は回避でお願いします。
男性視点
四話完結済み。毎日、一話更新

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる