奴隷が女神を乗っ取った件

はゆ

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光操作士トロワ

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 トロワを探すため、キャトルの部屋を出る。
 だが、探すまでもなかった。扉を開けてすぐ
、キャトルの部屋の壁に耳を付け、盗み聞きしているトロワを視界に捉えた。

 見えないフリをして、揶揄からかってやろう――。
 トロワは壁に耳を付けたまま、目だけで俺を追う。俺はトロワの後ろを通過し、立ち止まる。
「キャトルに、悪口を言われているかもしれないな……盗み聞きしよう」
 きびすを返し、トロワが立っている位置に向かう。そしてトロワの眼前、わずか先に壁ドンする。
 トロワの目的は盗み聞き。だから、今トロワが耳を当てている位置が、絶好の盗聴ポイントであることは自明。
「この辺りが良さそうだ」
 両手で挟み込んだトロワの頭が、小動物しょうどうぶつのように、ぷるぷると震える。トロワは俺に気付かれないようにしようと、固まっているけれど手遅れ。

 トロワの頬に、耳をぐいぐいと押し当てる。しかし、無反応を貫くトロワ。
「壁に耳を当てられない。何故だ? プニプニするような……不可視化能力を持つスライムだろうか。興味深い。引き千切ちぎってみよう」
 押し当てている耳を離す。トロワの頬を指でつまみ、思い切りねじる。
「嫌! やめて! 聞いていただけ。何もしていない。だから許して」
「聞いていたのなら、どうすれば許して貰えるか、わかるだろう?」
「私も、奴隷にして。何でもする。可能なら、配属はキャトルと同じがいい」
 不可視化能力ゲット。
「契約、成立だ。不可視化する方法を教えろ」
「見えなくしたい物に触れて、消えろって思うだけ」
「解除方法は?」
「もう一度触るだけ。私自身わたしじしんを見えなくした時は、声を出した時にも解除されるみたい……」
 『みたい』とは?
「自分ではわからないのか?」
「見えなくしても、私にはずっと見えているから、どういう状態になっているかわからない」
「なるほど。誰に従っているんだ?」
「今はあなた……」
 確かにそうだ。質問の仕方を誤った。
「今までは?」
「サンク……洗脳されていた。でも昨日、あなたが洗脳を解いてくれた」
「ここではサンクが一番偉かったのか?」
「うん。洗脳されると逆らえない」
「洗脳が解けた後も、キャトルを監視している理由は?」
「今も、洗脳されている間も監視なんてしてない! サンクには、女に騙されたトラウマがあって、女を毛嫌いしていた。私は、お喋りしたくて、色んな所を歩いていただけ。でもサンクは、私が行く所をどんどん女人禁制にしていくから、行ける場所が無くなった……それで、ずっと姿を消して行動するようになった。キャトルに何度か話し掛けたのは、お喋りしたかったから。だけど嫌われてるみたいで、どうすれば仲良くなれるかさぐってた……」

 サンクに悪意は無さそう――。
「その話、キャトルにしてみろ」
 キャトルの部屋の扉をノックし、扉を開ける。キャトルは先程と同じ位置に、同じ姿勢でうずくまっている。出掛ける支度をした様子は無い。
「出掛けたくないのか?」
 キャトルは不貞腐ふてくされている様子。強い口調で言い返す。
「支度しても、出してくれないでしょ……ここに来てから一度も外に出た事無い。裏切られるとわかっていて、期待なんてしたくない!」

 キャトルとトロワは、名ばかりの〝様〟という敬称を付けて呼ばれる立場ではあった。しかし、二人とも欲求を満たすための自由を奪われ、実質的には奴隷だった――だから、奴隷になる事に対して、何の反発もせず受け入れた。二人にとっては、主人が変わるだけ。今までと何も変わらないのだから、どうでも良かったのだろうと想像がつく。

 トロワの手を引き、キャトルの前まで歩く。
「トロワの話を聞いてくれないか?」
「奴隷だもん。拒否権無い……」
 キャトルは頬を膨らませ、更に不貞腐ふてくされる。

 トロワが、先程俺に言った内容をキャトルに話す。監視なんてされていなかったと知ったキャトルから、不安や恐怖をいだいているときの本能的な動作である、体がちぢこまる仕草が消えた。
 少なくとも、今は二人とも笑っている。二人にとって、俺は主人。居るだけで息が詰まる存在。それならば――水を差さないよう、そっと部屋を出る。
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