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魔力袋
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オークションは、競りに参加しないとしても、登録料と入場料を支払わなければ、会場に入ることが出来ない。
俺は決断を迫られる。予算に余裕は無い。魔力袋を確実に落札するため、可能な限り出費を抑えなければならない。
オークション会場に入るのは俺一人。肉壁には、オークション終了まで公園で待つよう指示した。
中盤。待ちに待った魔力袋の入札が開始。
魔力袋は目玉商品ではない。頭から布を被せられていて、顔を確認出来ない。
俺にとって、この状況は天の恵み。
魔力袋の瞳や髪の色は、高位の魔女の特徴と一致する。もしも魔力袋を育成し、戦力にする目的で入札するライバルが現れれば、予算に余裕が無い俺は、競り負ける――最悪の事態を免れられた。とはいえ、接戦を強いられた。
結果、俺は間一髪で競り勝つことが出来た。もしも肉壁が会場に入る分の料金を支払っていたら、競り負けていた――ほんの些細な選択の誤りも許されない程、肉迫していた。
高位の魔女の特徴を有する、魔力袋の容姿について。
瞳の色は、最上級の魔眼色である黄金。
ここは魔法国家だから、今まで何事も無く生活出来ていたのだろう。でも、それは運が良かっただけ。場所が違っていれば、忌避され生命を狙われていた。
魔力袋に、事前に購入しておいたパープルのカラコンを装着し、魔眼を隠匿する。
青みを帯びた艶がある黒、濡烏の髪色のロングヘアは魔女の象徴。人目を引きやすく、悪目立ちする――敢えて魔女であると主張するメリットは無い。魔女は、忌み嫌われる存在。
美容師に、戦士の適正色と髪型への変更を依頼する。
服装は、薄手の寝巻き――この姿から職業を推察されることは無い。本人が気に入って着ているのだから、変えなくても支障は無い。
これで準備は整った。
公園で待たせている肉壁と合流し、ダンジョンへ向かう。
* * *
魔力袋とパーティを組んだ肉壁に対し、魔法攻撃を主とするモンスターが物理攻撃しかしていない。魔力が枯渇したときと同様、悪足掻きしているように見える。
俺の仮説通り、モンスターは魔法の発現が阻害され、仕方なく物理攻撃を繰り返している状況のようだ。つまり、魔力袋がパーティに居る前提の上では、物理耐性だけを上げれば良いということになる。
魔力袋は戦闘に参加する必要は無く、後方にただ居るだけで良い。だから装備は不要。前衛で肉壁が全ての物理攻撃を受け止め続けていれば、他のパーティメンバーがダメージを受けることは無い。魔法耐性確保に費やす費用を、人数分削減出来るとなると、経済的なメリットがかなり大きい。
検証が済み、肉壁に回復薬をかけていると、魔力袋に瓶を取り上げられた。
「何故そんなことをするんですか!?」
むしろ俺が聞きたいのだが――。
「……なるほど。肉壁の物理耐性を効率的に上げるため、負荷を上げるよう提言してきたのか。確かに、安易に回復させることで、耐性獲得が遅れる可能性がある。逆に、痛みを継続させることで、耐性獲得が早まる可能性もある……効率を重視するのなら、限界まで負荷を掛け、耐えさせる方が良い……そういうことだね」
魔力袋は、パーティ加入直後にもかかわらず、更に耐性獲得効率を良くするための諫言をしてきた。存在するだけでも価値がある上に、頭が働き、行動力もあるようだ。
このダンジョンへは、魔力袋の特性確認のために立ち寄っただけ。結果が出たから、長居は無用。
肉壁に問いかける。
「君を効率的に成長させるには、より強いモンスターが生息しているところへ行くべきだ。肉壁は一人で、どのエリアまで行ける? ついでに魔力袋を寄生させてレベルを上げたい」
「砂漠あたりまでなら、なんとか耐えられる」
普段なら妥当なところ。でも、魔法攻撃されない前提があるから、余裕がある。
「モンスターの湧きが悪いから、効率が悪い。もう少し頑張れるよね?」
「氷結の森……の入口付近までなら」
その辺りのモンスターは魔法攻撃が強力。けれど、物理攻撃の負荷は砂漠よりも低い。
「負荷が高いほど成長しやすいんだけど。森の中はキツイ?」
「多分無理」
「死ぬ?」
肉壁は伏目になり、深く頷く。
「と思う……」
物理攻撃が砂漠のモンスターよりも強力だから、負荷は高くなる。けれど、魔法攻撃が無いから死にはしないだろう。このメンバーなら、適正な狩場。
「限界まで負荷を掛けるほど成長が早い。頑張れるよね?」
「……頑張ってみる」
夜間限定モンスターは、魔法攻撃を多用するだけで、物理攻撃は昼間のモンスターと同等。報酬は増えるけれど、難易度に変化は無い。
「決定だ。今から向かうと、到着は夕方頃か……夜が更けた後の方が、強力なモンスターが出現する。どこで時間を潰そうかな」
ぎゅるるるぅ!
魔力袋の腹が、大きな音を鳴らす。
「もっと負荷を高めろという進言か。確かに、夜が更けるほどにモンスターは強くなる。俺を立てるため、生理的な音を使って伝えるとは、素晴らしい気遣いだな。腹が減っては何とやらと言うし、一旦町に戻って、夕食をとってから向かうとしようか」
俺は決断を迫られる。予算に余裕は無い。魔力袋を確実に落札するため、可能な限り出費を抑えなければならない。
オークション会場に入るのは俺一人。肉壁には、オークション終了まで公園で待つよう指示した。
中盤。待ちに待った魔力袋の入札が開始。
魔力袋は目玉商品ではない。頭から布を被せられていて、顔を確認出来ない。
俺にとって、この状況は天の恵み。
魔力袋の瞳や髪の色は、高位の魔女の特徴と一致する。もしも魔力袋を育成し、戦力にする目的で入札するライバルが現れれば、予算に余裕が無い俺は、競り負ける――最悪の事態を免れられた。とはいえ、接戦を強いられた。
結果、俺は間一髪で競り勝つことが出来た。もしも肉壁が会場に入る分の料金を支払っていたら、競り負けていた――ほんの些細な選択の誤りも許されない程、肉迫していた。
高位の魔女の特徴を有する、魔力袋の容姿について。
瞳の色は、最上級の魔眼色である黄金。
ここは魔法国家だから、今まで何事も無く生活出来ていたのだろう。でも、それは運が良かっただけ。場所が違っていれば、忌避され生命を狙われていた。
魔力袋に、事前に購入しておいたパープルのカラコンを装着し、魔眼を隠匿する。
青みを帯びた艶がある黒、濡烏の髪色のロングヘアは魔女の象徴。人目を引きやすく、悪目立ちする――敢えて魔女であると主張するメリットは無い。魔女は、忌み嫌われる存在。
美容師に、戦士の適正色と髪型への変更を依頼する。
服装は、薄手の寝巻き――この姿から職業を推察されることは無い。本人が気に入って着ているのだから、変えなくても支障は無い。
これで準備は整った。
公園で待たせている肉壁と合流し、ダンジョンへ向かう。
* * *
魔力袋とパーティを組んだ肉壁に対し、魔法攻撃を主とするモンスターが物理攻撃しかしていない。魔力が枯渇したときと同様、悪足掻きしているように見える。
俺の仮説通り、モンスターは魔法の発現が阻害され、仕方なく物理攻撃を繰り返している状況のようだ。つまり、魔力袋がパーティに居る前提の上では、物理耐性だけを上げれば良いということになる。
魔力袋は戦闘に参加する必要は無く、後方にただ居るだけで良い。だから装備は不要。前衛で肉壁が全ての物理攻撃を受け止め続けていれば、他のパーティメンバーがダメージを受けることは無い。魔法耐性確保に費やす費用を、人数分削減出来るとなると、経済的なメリットがかなり大きい。
検証が済み、肉壁に回復薬をかけていると、魔力袋に瓶を取り上げられた。
「何故そんなことをするんですか!?」
むしろ俺が聞きたいのだが――。
「……なるほど。肉壁の物理耐性を効率的に上げるため、負荷を上げるよう提言してきたのか。確かに、安易に回復させることで、耐性獲得が遅れる可能性がある。逆に、痛みを継続させることで、耐性獲得が早まる可能性もある……効率を重視するのなら、限界まで負荷を掛け、耐えさせる方が良い……そういうことだね」
魔力袋は、パーティ加入直後にもかかわらず、更に耐性獲得効率を良くするための諫言をしてきた。存在するだけでも価値がある上に、頭が働き、行動力もあるようだ。
このダンジョンへは、魔力袋の特性確認のために立ち寄っただけ。結果が出たから、長居は無用。
肉壁に問いかける。
「君を効率的に成長させるには、より強いモンスターが生息しているところへ行くべきだ。肉壁は一人で、どのエリアまで行ける? ついでに魔力袋を寄生させてレベルを上げたい」
「砂漠あたりまでなら、なんとか耐えられる」
普段なら妥当なところ。でも、魔法攻撃されない前提があるから、余裕がある。
「モンスターの湧きが悪いから、効率が悪い。もう少し頑張れるよね?」
「氷結の森……の入口付近までなら」
その辺りのモンスターは魔法攻撃が強力。けれど、物理攻撃の負荷は砂漠よりも低い。
「負荷が高いほど成長しやすいんだけど。森の中はキツイ?」
「多分無理」
「死ぬ?」
肉壁は伏目になり、深く頷く。
「と思う……」
物理攻撃が砂漠のモンスターよりも強力だから、負荷は高くなる。けれど、魔法攻撃が無いから死にはしないだろう。このメンバーなら、適正な狩場。
「限界まで負荷を掛けるほど成長が早い。頑張れるよね?」
「……頑張ってみる」
夜間限定モンスターは、魔法攻撃を多用するだけで、物理攻撃は昼間のモンスターと同等。報酬は増えるけれど、難易度に変化は無い。
「決定だ。今から向かうと、到着は夕方頃か……夜が更けた後の方が、強力なモンスターが出現する。どこで時間を潰そうかな」
ぎゅるるるぅ!
魔力袋の腹が、大きな音を鳴らす。
「もっと負荷を高めろという進言か。確かに、夜が更けるほどにモンスターは強くなる。俺を立てるため、生理的な音を使って伝えるとは、素晴らしい気遣いだな。腹が減っては何とやらと言うし、一旦町に戻って、夕食をとってから向かうとしようか」
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