孤高の女王

はゆ

文字の大きさ
上 下
3 / 6

夏休み

しおりを挟む
 今日から夏休み。
 したいことも、予定も無い長期休暇は苦痛。スマホで適当な動画を見て、時間を潰すだけの日々がひたすら続く――想像するだけで億劫おっくう

(刺激が欲しいわ……誰でも良いから、私を連れ出してくれないかしら)
 自己中心的な願望。羽菜ハナは入学以来、同級生との接点を持っていない。全員を見下していた期間と、苛々して寄せ付けなかった期間しかない。

 見てもいないのに、動画を垂れ流しているスマホが突然鳴り響く。発信者名の表示は〝ひなまつり〟。
(この表示は何? 今は三月じゃないわよ……)
「はい」
 詐欺電話かもしれないから、余計な情報を伝えないよう応答だけした。怪しいと思ったのだから出なければ良いのに、気になって出てしまった。

『明日、海こうや。知り合いに誘われてん』
 特徴的な声と、関西弁。動画サイトのオススメに出てきて以来、よく聞いている声。
(同級生の<ひなさん>だわ。掛ける相手を間違えたのね……)
 成り行きで、連絡先を交換したような気はする。けれど、うろ覚え。五月以降、誰とも会話していないから、入学してすぐに交換したのだと思う。
 でも、会話する仲では無いし、誘われるような接点も無い。
「掛ける相手、間違えてるわよ」
『間違えてへんよ。勇気出して掛けた』
 同級生と一緒に出掛けることは、羽菜ハナにとって非日常で、刺激的な出来事。どこかへ連れ出してくれることを望んでいる羽菜ハナに、断る理由は無い。
「……何時に、どこへ行けばいいかしら」
『朝九時。那古野なごや駅の金時計きんどけい前で待ち合わせ』
「じゃあ、また明日」
 通話が切れる。

  * * * 

 同級生と出掛けるのは初めて。
 母親に報告し、許可を得なければならない。
「明日、海へ行こうと誘われました」
「誰と行くの?」
「同級生の<ひなさん>です」
「<ひなさん>との仲、良好なのね」
「接点は多くありませんが、先程、電話が掛かってきました」
「これから一緒に過ごすことになるから、仲を深めておきなさい」

 母親が交友関係を否定しないのは初めて。
 説得する必要があると思っていたから、拍子抜けした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

目撃者

原口源太郎
ライト文芸
大学生の澄玲は同じサークルの聖人に誘われて山の中の風景を見に行った。そこで二人は殺人の現場を目撃してしまう。殺人犯に追われる二人。警察では澄玲と聖人が殺人の犯人ではないかと疑われる。

病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった昔話

ライト文芸
弁護士の三国英凜は、一本の電話をきっかけに古びた週刊誌の記事に目を通す。その記事には、群青という不良チームのこと、そしてそのリーダーであった桜井昴夜が人を殺したことについて書かれていた。仕事へ向かいながら、英凜はその過去に思いを馳せる。 2006年当時、英凜は、ある障害を疑われ“療養”のために祖母の家に暮らしていた。そんな英凜は、ひょんなことから問題児2人組・桜井昴夜と雲雀侑生と仲良くなってしまい、不良の抗争に巻き込まれ、トラブルに首を突っ込まされ──”群青(ブルー・フロック)”の仲間入りをした。病気呼ばわりされて田舎に引っ越したら不良達と仲良くなった、今はもうない群青の昔話。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...