ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第六章 布教に行きたい

#121 最後のアイテム

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『ヒナ、お前の狙いは最初からわかってたぜ』

 コスモはそう言って、得意気に笑う。

『大河忍者をフィールドの西側へ逃したのは、俺達をそちらへ誘導するための囮。
 大河忍者が倒れたとき、停止交代ダウンリリーフで誰もいない東側にプロミネンス・ドラコを呼び出し、切札特性ジョーカースキルを発動させるつもりだったんだろうが、お前の考えなんて全てお見通しだ!
 俺はお前が現れる場所に先回りして、グランドランス・ユニコーンを向かわせておいたのさ!』

 くっ、さっきプロミネンス・ドラコを復帰させたとき、こいつが驚いた顔を見せたのはピンチを演出してリスナーを楽しませる為のパフォーマンスだったのか。
 グランドランス・ユニコーンは地中を移動するため、どこに現れるかは予測不可能。
 そいつを使って密かに俺を止める算段を立てていたとは。
 黄金のプレートアーマーを纏ったV、ランスが声を張り上げる。

『グランドランス・ユニコーン、左腕特性レフトスキル発動! 砂塵の檻グランドストーム!』 

  鎧騎士が左腕を伸ばすと、地面から砂嵐が巻き起こる。
 そして砂嵐は赤き竜を呑み込む。

砂塵の檻グランドストームに閉じ込められたマドールは、天候や時間を条件とする特性スキルを発動できない。残念だったな太陽竜よ』

 砂の壁に閉じ込められたプロミネンス・ドラコは外界から隔絶されてしまった。
 この中では昼も夜もない、月夜の煌めきキャンプファイアを使ったとしても夜の恩恵は受けられない。
 プロミネンス・ドラコのパワーゲージは百パーセントのまま。俺は切札特性ジョーカースキルの使用をキャンセルするしかない。
 その時、砂の壁を突き破り、槍を構えた鎧騎士が飛び込んできた。

砂塵の檻グランドストームはそう長くは持たぬ。その前にお前には夜のフィールドから出ていってもらわねばな。われはこのアイテムを発動する!』

 ランスの言葉と共に槍騎兵は右手に赤く輝くカードを掲げ、それをプロミネンス・ドラコへと投げつける。

『アイテム、レッドカードだ!』

 くっ、レッドカード。奴らも拾っていたのか。
 砂嵐の中で身動きの取れないプロミネンス・ドラコの翼に赤いカードが叩きつけられる。
 すると次の瞬間、その体は嵐の外まで吹き飛ばされた。
 そのままプロミネンス・ドラコは西方向へ大きく移動させられる。
 レッドカードの効果は対象のマドールを強制移動させるもの。
 琥珀が使ったときは魔鬼火死まきびしを踏ませるのが目的だったから、そこまで遠距離には飛ばさなかったが、ランスは容赦なく最大距離まで移動させてきたか。
 そうしてプロミネンス・ドラコは地面に叩きつけられる。
 さっきまで居たのは東側三十パーセントの夜のフィールドだが、今はフィールドの
中央付近、昼のフィールドだ。
 ここでは月夜の煌めきキャンプファイアも力を発揮しない。
 くそっ、こちらの攻め手はことごとく奴らに防がれてしまっている。
 一体どうすればいい?
 そう悩んでいたとき、クロリスの呟きが俺の思考を遮った。

『それにしても、アイテム合戦になってきましたね』

 そこで彼女は何かに気付いたように視線を細める。
 配信画面を見ると、ブラックアリスのそばの森の中に宝箱アイテムボックスが落ちていた。

『噂をすれば影というやつですね。折角なので私もアイテムを使わせてもらいましょう』

 彼女はブラックアリスを操作し、森へと向かう。
 宝箱へ近づき、ブラックアリスがそれに触れようとすると、突然蓋が開いた。

『おや、これは?』

 クロリスが眉を顰める。
 宝箱の中には何も入っていなかった。

『えっ、何? クロリスちゃんが触るより先に蓋が開いて、中身が空っぽって? 一体何が起こったの?』
『鈍いですねコスモは』

 困惑するコスモとは対象的に、クロリスは冷静に言葉を紡ぐ。
 どうやら彼女は何が起こったのか察したようだった。

『横取りされたんですよ。透明人間にね』

 言うとクロリスはコントローラーを操作する。

『やれ、ハープストリング!』

 ブラックアリスが左手に構えたハープから弦が伸び、それらは近くの地面を抉っていく。

『そこですか』

 彼女が何かに気づき、弦は虚空へと巻き付いた。
 一見して何もない空間に弦がグルグル巻きになっている。

『捕まえましたよ、透明人間さん。いえ、ウサギさんと言うべきでしょうか』

 クロリスは酷薄に笑う。
 一方で部屋にいる光流は困り顔を浮かべた。

「捕まっちゃいました」

 透明人間こと透明となったラビット・バレットが、奴らに捕らえられてしまった。
 そこでクロリスは得意げに説明する。

切札特性ジョーカースキル時空跳躍タイムトラベルによって姿を消して無敵状態となったラビット・バレットは攻撃によるダメージを受けません。しかしダメージはなくとも拘束は有効なようですね。
 それに、そろそろ十分経過しますし』

 その言葉とともに、今まで透明だったウサギガンマンの姿がゆっくりと輪郭を取り戻していく。
 やがてハープの弦に巻き付かれたラビット・バレットの姿が露わになる。
 そこで光流は俺に視線を向けた。

「お兄様。さっきの宝箱で手に入れたこのアイテム、必ずお兄様に届けます」
「わかったひよこ。俺もそっちへ向かう」

 テーブルに投影された立体映像にはさっき光流が取得したアイテムが表示されている。
 敵チームからは見えないだろうが、このアイテムをプロミネンス・ドラコが受け取ればまだ逆転の可能性はある。
 何としてでも光流と合流しなければ。俺はプロミネンス・ドラコを動かし、ラビット・バレットの元を目指す。
 一方の光流は真剣な瞳でガンショット・コントローラーをテーブルに向けた。

「まだ捕まるわけにはいきません! 天罰の光パニッシュ・レーザー!」

 ラビット・バレットが光線銃を放ち、自身を拘束する弦を撃ち抜く。
 ウサギガンマンの体に巻かれた弦とハープが断ち切られ、拘束から抜け出した。
 よし、いいぞ光流!
 ラビット・バレットはその勢いのまま反撃の光線銃をブラックアリスに向けて乱射!
 それらは黒衣の魔女の体を撃ち抜いた。

「これで、ブラックアリスは五秒間停止フェイリアに――」
『無駄ですよ』

 しかし光流の希望を断ち切るようにクロリスは微笑む。

『一体のマドールが同時に保持できる状態異常は一つまでです。ブラックアリスは石化状態なので、停止フェイリア状態になりません』
「くうっ」

 悔しげに口元を歪めると、光流はガンショット・コントローラーを操作し、ラビット・バレットはその場から逃げ出す。
 ブラックアリスは地面を蹴り、ウサギガンマンの背中を追った。

『おっと、追いかけっこなら俺も混ぜてくれよ』

 そこでコスモの声が割り込み、コズミック・ドラグオンが羽ばたきとともにブラックアリスに並ぶ。
 ちっ、追手が増えたか。
 頼む光流。なんとか逃げ切ってくれ。
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