ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第六章 布教に行きたい

#97 夜宵ちゃん闇落ちする(二回目)

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 女子三人に抱きつかれた状態の俺に、夜宵がおずおずと声をかける。

「ねえ、ヒナ。これって私もヒナに抱きつかないといけない流れかな?」
「やらなくていい! お願いだからキミだけは常識人でいてくれ。というかキミ実は同調圧力に弱いな?」

 そりゃ本音を言えば好きな女の子に抱きつかれたいが、今の状況に夜宵が加わったら収拾がつかなくなる。
 俺の右腕にしがみついたままの水零が楽し気に言葉を吐き出す。

「次は太陽くんの番よ。さあ自己紹介!」
「俺、自己紹介必要か? 全員と顔見知りなんだが」
「もっちろん。名前と、あと好きな女の子のタイプとか、好みの女子とか、理想の彼女とか聞きたいなー」

 それを言わせたいだけかよ。
 俺の膝の上に乗る光流がこちらを見上げながら言う。

「お兄様の好みは、ちっちゃくて可愛いしっかり者の妹ですよね?」
「いやいや、先輩のタイプは元気いっぱいな後輩に決まってるっしょ」
「えー、太陽くんが好きなのはグラマラスで色気のある同級生よね?」

 光流に便乗して琥珀と水零も、俺の回答に圧力をかけてくる。
 俺は彼女達への反撃も込めて言葉を吐き出す。

「俺の好みのタイプは清楚な女の子だな。もうね、簡単に男子に抱きついたりしなしし、なんならパジャマ姿を見られることすら恥ずかしがっちゃうような奥ゆかしい子だね」

 そう言い切ると、俺を包囲していた三人の動きが止まる。
 そして静かになったところで琥珀が口を開いた。

「先輩、それは夢を見すぎっすよ。今時、そんな女子いないっすから」
「いやいや、いるから」

 例えば俺の好きな女の子とか。

「たとえ外面はお淑やかな美少女でも、女子だって人間っすからね。裏ではパンツとか食べてるんすよ」
「食べてるわけないだろ。お前の思う一般的な人間はパンツ食べてるのかよ!」
「あっ。私、光流ちゃんのおパンツなら食べたいかも」

 夜宵が涎を垂らしながらなんか言ってるが、あれは公式が勝手に言ってるだけである。
 俺が好きな女の子は清純派美少女の夜宵であって、汚い夜宵は解釈違いなんだ。

「さってっと、焦ってる太陽くんも堪能できたし、そろそろ解放してあげましょう」

 そう言って俺の右腕をホールドしていた水零が離れる。
 水零が光流と琥珀に視線を向けると、琥珀も同様に俺の左腕を解放し、光流は立ち上がって俺の膝からどく。
 そうして三人の視線が交錯する。
 水零はニコリと笑って光流達に手を振った。

「光流ちゃんも琥珀ちゃんも可愛くていい子ね。仲良くやっていけそうで安心したわ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします水零さん」
「宜しくっす水零先輩」

 ええ、あの流れで仲良くできるの?
 皮肉なのか本心なのかわからんし。女子ってわからん。

「ふっ、先輩はわかってないっすね。今のは河原で殴り合った末お互いに倒れて、『へっ、お前根性あるじゃねえか』『アンタもな』ってお互いを認め合ってるところですよ」
「わからねーよ。今のが殴り合いなら、サンドバッグにされたのはむしろ俺なんですが」

 そんな俺達には構わず水零が夜宵に言葉を向ける。

「最後は夜宵の番よ。自己紹介をどうぞ」
「ええ、私の自己紹介いる? ここにいるみんなと知り合いだよ?」

 夜宵の困惑は尤もだ。
 それに光流も同意する。

「そうですね。夜宵さんのことはよく知ってます。お兄様のクラスメイトで、半年間学校に行ってなくて、最近登校するようになって、学校の勉強に追いつくために頑張っていることとか」
「えっ?」

 光流の何気ない呟き、しかしそれを聞いた夜宵は顔を青くして俺を見た。

「そんなことまで話したの?」
「あっ、悪い。話しちゃ駄目だったか」

 ほぼ毎日のように夜宵に勉強を教えている理由を光流に説明するために、夜宵の事情を遠慮なく話していた。
 しかしよく考えれば夜宵としてはあまり人に知られたくない話だろう。
 彼女は暗い表情でぶつぶつと呟きだす。

「終わった。私が引きこもり不登校の駄目人間だって、光流ちゃんに思われた。もう生きていけない。死のう」

 また闇落ちしちゃった!
 いや、すまん夜宵。今回は全面的に俺が悪い。
 夜宵は虚ろな表情で水零へと近寄る。

「もう死ぬ。首釣って死ぬ。ねえ水零、縄持ってない?」
「縄?」

 問われた水零はスカートのポケットを漁ってみるも、縄なんて持ってる筈もなく。

「ハンカチならあるわよ。巻く?」

 水零が白いハンカチを差し出すと、夜宵はコクリと頷いた。

「ちょっと待ってね。巻いてあげる」

 そうして水零は夜宵の首元にハンカチを巻く。
 水零のセンスの良さ故か、スカーフの様に巻かれたハンカチは、夜宵を一段とお洒落に飾り立てていた。

「きゃー、夜宵。可愛い! 似合ってるわ!」
「ホントですね。夜宵さん、とても可愛いですよ」
「いいっすね。夜宵先輩! めっちゃ可愛いっす!」
「えっ、えっ、えっ?」

 突然三人の可愛いコールが始まる。
 夜宵は顔を赤らめて戸惑いながら、可愛いと連呼されて満更でもない様子だった。

「ヒナ! 私、生きる気力が湧いてきたよ」
「そうか、良かったな」

 女子のノリ、わっかんねええええええええええ。

「ほら、太陽くんも。夜宵に生きる気力を与えるのよ」
「えっ、あっ、はい」

 水零に促され、俺は夜宵の方へ向き直る。
 大丈夫。いつも心の中で思ってることを素直に口に出すだけだ。

「夜宵。お前、めっちゃ可愛いな!」

 先ほどの水零達の可愛いコールに便乗した、つもりだったのだが夜宵の反応は違った。
 ぼん、っと顔を真っ赤に染め、すぐに俺から離れて水零の背中に隠れる。

「ヒ、ヒナがセクハラする!」
「えー、太陽くん最低ね」
「お兄様、見損ないました」
「女の敵っすね先輩」
「理不尽だ!」

 世の中の不条理の全てがここに詰まっていた。
 夜宵は恐る恐るといった様子で水零の背中から出てきて、俺の前に立つ。
 そして恥ずかしそうに視線を落としながら、なんとか言葉を絞りだした。

「ご、ごめんねヒナ。今のはちょっとビックリしちゃっただけで。その、ね。別に嫌だったわけじゃないから」
「お、おう。そうか」

 もじもじしながら照れてる夜宵、やっぱ可愛いな。

「夜宵! 最高に可愛いぞ!」
「えっ!」

 俺の言葉に、再び夜宵は驚いた顔を見せる。
 そして脱兎の如く逃げ出し、水零の背中に隠れた。

「ヒ、ヒナがセクハラする!」
「えー、太陽くん最低ね」
「お兄様、見損ないました」
「女の敵っすね先輩」
「無限ループって怖くね?」
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