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第六章 布教に行きたい

#92 メンバー集め開始2

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 電車に揺られながら俺は考える。
 今日はいつもの夜宵との勉強会。俺は彼女にコスモとクロリスのコラボ配信の件を話し、俺のチームメイトとして参加するよう頼むつもりだ。
 夜宵だけでなく彼女の両親もしっかり説得しないとな。
 夜宵の勉強の進捗は予想以上にいい。
 当初は夏休み全てを犠牲にして、ようやく新学期には追いつけるかどうかという見立てだったが、今では割と遊ぶ余裕も出てきたように思う。
 その点は彼女に勉強を教えている俺の立場から説明すれば説得力もあるだろう。
 もう一つ考えなければいけないのは残りのメンバーについてだ。
 光流と琥珀はあっさり引き受けてくれた。これでもし夜宵を説得できたとしても、メンバーはまだ一人足りない。
 ネット上で仲のいい魔法人形マドールプレイヤーに頼むのも一つの手だが、悩ましいのはその適性だ。

 トレジャーハントバトルは自軍のゴールデンマドールを守りながら敵のゴールデンマドールを倒すゲームだ。
 サッカーやバスケに近いイメージだと思っていい。
 これをチームでやるには防御役ディフェンス攻撃役オフェンスといった役割分担を決める必要がある。
 正直、オフェンスはそれほど難しくはない。
 普段のシングルスやダブルスで強いプレイヤーであれば、その経験値をオフェンスで発揮できるだろう。
 夜宵なんてかなりオフェンス向きだと思う。
 一方でディフェンスはこのルール独自の専門職だ。
 ゴールデンマドールはプレイヤーが操作することはできず、移動や回避といった行動も行えない。
 そんな動かない宝物を守るというのは、シングルスやダブルスでは味わえないシチュエーションだ。
 こればっかりはトレジャーハントバトルの経験を積んだ人間がやるべきポジションかもしれない。
 シングルスやダブルスで強いプレイヤーを捕まえて、トレバトでディフェンスをやってくれとは頼みにくい。
 俺がやるべきか?
 正直俺もディフェンス経験はないんだが。
 初心者でも構わないから、今からこのルールの練習を頑張ってくれるような人が欲しいな。
 トレジャーハントバトルは殆ど研究する人間がいない未開の土地。
 ルールが変われば活躍できるマドールも変わる。
 シングルスやダブルスで全く注目されなかったマドールが、このルールなら活躍できるなんてこともあるかもしれない。
 とにかくプレイ人口が少ないとそういう研究だって進まないんだよな。
 本当に惜しいルールだ。このゲームを布教したいという土倉の気持ちもわかる。
 みんながみんなこのゲームで本気で勝ちを目指して研究したらどんな対戦環境になるのか、興味は尽きない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 そんなことを考えているうちに夜宵の家に到着した。
 呼び鈴を鳴らし、外から声をかける。
 普段は夜宵のお母さんが出ることが多かったが、この日は違った。

「やっほー、いらっしゃい太陽くん!」

 玄関で俺を出迎えてくれたのは、見知ったツインテールの少女だった。

「水零、お前も遊びに来てたのか」
「そうそう、ねえ聞いてよ太陽くん。夜宵ってば酷いのよ」

 彼女が楽しそうに夜宵の愚痴を零していると、そこに当の本人が現れる。

「人聞きが悪いなあ。私は正直な意見を言っただけだよ」
「えーっと、話が見えないんだが。何があったの?」

 そうして俺は夜宵の家に上げてもらい、これまでの経緯を聞くことになる。
 どうも水零が魔法人形マドールのオン対戦を始めたいと夜宵に相談を持ち掛けたらしい。
 しかし彼女が使いたいと言ってきたマドールは、夜宵の目から見て対戦向けではなく。そいつを使うのは無理と答えるしかなかったらしい。
 そしてそのマドールが。

水晶の魔法使いクリスタル・メイジか」

 これは確かに夜宵が匙を投げるわけだ。
 テーブル越しにジュースを飲みながら、夜宵が難しい表情を作る。

「そう、水晶の魔法使いクリスタル・メイジは攻撃スキルを一つも持たない防御専門のマドールだよ。この子でシングルスを戦うなんてまず無理でしょ」

 夜宵が言っていることはもっともだ。
 攻撃スキルを持たないマドールでシングルスを戦えるわけがない。
 多彩な防御スキルこそ持っているが、今の対戦環境では誰も使わないマドール。
 使えない、弱い、そう評価されるのも仕方ない。俺も存在すら忘れていたマドールだ。
 でも改めて見ると、こいつの持っている防御スキルやカウンタースキルはかなり独特の性能を持っていて面白い。
 防御専門のマドールか。
 シングルスやダブルスでは戦えなくても、違うルールなら活躍できる可能性がある一体。
 守りの要。
 今の俺が求めているチーム作りの最後の一枠にぴったりハマる。そんな予感があった。
 俺は水零と夜宵の顔を交互に見渡す。

「どしたの太陽くん?」
「ヒナ?」

 キョトンとした顔をする二人に俺は言葉をかける。

「水零、夜宵、お前達をスカウトする。俺のチームに入ってくれ」
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