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第六章 布教に行きたい
#83 コスモとクロリス1
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静寂が月詠家のリビングを支配する。
聞こえるのはノートにペンを走らせる僅かな音のみ。
いつも通りの夜宵との勉強会。今日の彼女は調子が良さそうで、殆ど質問もないまま夏休みの宿題を順調にこなしていった。
チラッと夜宵の顔を窺う。
真剣な表情でノートにペンを走らせている。
そんな彼女もやっぱり可愛い。
以前のお泊りの告白未遂から、多少気まずさを感じる時もあるが、俺が夜宵に抱いている恋心は変わらない。
いや、変わらないどころか日に日に膨らんでいっているのかもしれない。
ともあれ今は勉強中。
彼女の集中を邪魔するわけにはいかないな。
そう思って俺も自分の宿題に向き合っていると、テーブルに置いていたスマホが振動した。
「あっ、悪い」
静かな集中空間を乱してしまったことを詫びつつスマホを手に取り、内容を確認する。
俺がチャンネル登録しているゲーム実況者が生放送を始めたという通知が来ていた。
うわあ、見てえ。
いやいや、今は勉強勉強。
そう思っていると、夜宵が息を深く吐きながらペンを机に置いた。
「ねえヒナ、そろそろ休憩にしない?」
「ん、そうだな」
まあ夜宵がそう言うなら彼女のペースに合わせよう。
「じゃあどうする? またこの前みたいにアニメでも観るか?」
俺の問いかけに夜宵は、うーんそうだねー、と少し考えたところで言葉を返してきた。
「今日はヒナが決めていいよ。何かしたいことある?」
したいことと言われて、真っ先に思い浮かんだのは先ほどスマホに来た通知の件だった。
いや、でもなあ。
「特にないよ。夜宵が好きなアニメでも観ようぜ」
そう言って取り繕うも、夜宵は訝し気に眉を顰めた。
「ヒナ、なんだか私に遠慮してる?」
「えっ? いやいやそんなことないぞ」
ドキリとした。
こういう時、夜宵は鋭い。
正直に言えば、俺はさっき通知のあった生放送を見たい。
しかし今は夜宵と一緒だ。
彼女を巻き込むのは憚られた。
「もしかして魔法人形に関係すること?」
夜宵のその指摘は俺の胸に深々と刺さる。
図星だった。
彼女は言葉を続ける。
「確かに私は学校の勉強に追いつくために魔法人形を封印してるけど、そのことでヒナが変に気を使う必要はないと思うよ」
不安そうな顔で彼女は俺を見つめる。
自分が魔法人形を禁じていることが、俺の負担になってないか心配してるのだろう。
仕方なく俺は白状する。
「あー。実はな、俺の好きなゲーム実況者が魔法人形の配信を始めたところなんだよ。だからちょっと覗いてみたいなって」
そう説明すると、夜宵は興味を惹かれた様子で言葉を返す。
「ゲーム実況者かあ。私普段そういう動画とか見ないからなー。ヒナがどんな実況者好きなのか興味あるかも」
そうか。
夜宵は自分を律し、魔法人形をプレイすることを我慢している。
だから他人がプレイしているところを見るのも抵抗があるのではと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。
ならば俺も憂いなく彼を紹介できる。
「コスモって名前のバーチャル投稿者なんだ。主に魔法人形の対戦動画を投稿したり、生配信したりしている」
そう言って俺はスマホを操作し、生放送の画面を表示する。
「バーチャル、っていうとアレでしょ。人形劇みたいなやつ」
まあその例えは的を射てるかもな。
ゲーム実況者には大きく分けて三種類の人間がいる。
素顔を出してる人間、隠したままの人間、そしてコスモはそのどちらにも当てはまらない第三のタイプ。
CGで作られたイラストを自らのアバターとして使い、画面に表示している。
そのアバターは実況者本人の体の動きや表情の変化を読み取り、まさに実況者の分身として画面の中で動くのだ。
そういう実況者や動画投稿者のことを総じてバーチャル投稿者、あるいは略してVなんて呼ばれている。
企業が運営しているものもあるだろうが、コスモはあくまで個人Vだ。
画面に映っているコスモのアバターは、青い宇宙に星々が光り輝いているイラストが描かれたパーカーに身を包んでいる。
フードの下から覗く真っ白な髪と赤い瞳が印象的なキャラクターデザインとなっている男性Vだ。
「おー、なんか少年漫画的な画風だね」
と夜宵が感想を吐き出す。
コスモはその手に長方形のゲーム機、Standを持ち操作している。
ゲーム機はイラストだが、その動きは画面の向こうの実況者本人を忠実に再現しているのだろう。
現在は魔法人形のオンライン対戦、フリーバトルで対戦相手を探しているところのようだ。
『さあ、対戦相手が見つかったな。相手のチームを見ていこうか』
彼の気取った声がスマホから響く。
今やってるのはチーム戦、トレジャーハントバトルと呼ばれるルールだった。
相手チームの魔法人形は三体。
まず氷の鎧を身に纏ったペンギン騎士、アイシクル・ナイト。
『凍てつく大地より生まれし、絶対零度の騎士!』
次にガントレットで武装した白熊の拳闘士、ナックル・ベアーマン。
『その剛腕はあらゆる敵を打ち砕く、暴虐の獣!』
最後は迷彩服に身を包み、右手にナイフを、左手にライフル銃を装備した二足歩行の猫型マドール、アーミーミーミー。
『可愛い顔の裏に静かな殺意を忍ばせた暗殺の使者! 以上、三体ですね』
普通の実況者なら相手のマドールの機体名を読み上げる場面だが。
「なんか、名前を言わずに通り名っぽいのだけで紹介しちゃったね」
そう言って夜宵が苦笑する。
出会ったマドールに厨二病テイストの通り名をつけていくのが彼のいつものスタイルだ。
ゲーム実況者にもいろんなタイプがいる。
真面目に魔法人形の紹介をしたり、自分の戦術を解説したり、強者として自分の実力をウリにしている実況者もいれば、持ち前のトーク力で視聴者を楽しませるタイプもいるだろう。
俺がコスモを好きな理由の一つはこの厨二テイストに染まり切った台詞回しの数々である。
コスモの操るマドールは青い体に赤い翼を生やしたドラゴン型の機体だ。
その竜が翼を羽ばたかせ、敵陣へと切り込む。
彼が進む先には王冠を頭に載せた黄金に輝くマドールが立っていた。
それはプレイヤーが操作するマドールではない、相手のチームが守るべき黄金魔法人形。
トレジャーハントバトルは自軍の黄金魔法人形を守りながら、敵の黄金魔法人形を倒すことを目的としたチーム戦なのだ。
コスモの操るドラゴンは両肩に装備したキャノン砲を黄金魔法人形へと向ける。
『The Shows Over! 俺の描く勝利のシナリオは完成した』
ドラゴンの両肩の砲門に光が満ちる。
『宇宙より来たりし我が相棒、銀河竜皇コズミック・ドラグオンよ! 美しき戦場に終幕の鎮魂歌を捧げよ!』
そしてそのキャノン砲から光線が放たれ、敵の黄金魔法人形を貫く、と思われた瞬間、横から飛んできた銃弾を受けドラゴンの体が揺らぐ。
どうやら敵チームのアーミーミーミーの銃撃により妨害されたようだった。
キャノン砲からは眩い光線が吐き出されたものの、狙いがズレて黄金魔法人形を掠めていった。
コスモは残念そうに片手で目を覆うと、いつも通りのイケメンボイスを吐き出す。
『Oh my bad。俺の脚本にリテイクを出すとは、今回の審査員は中々に手厳しい』
「ホント言い回しが独特だねこの人」
夜宵が苦笑しながらそう評する。
「だろ。こういうところがこの人の魅力なんだよ」
『ならばその審査員さえも唸らせる最高のフィナーレで締めくくろう』
コズミック・ドラグオンは銃弾が届かないほどの高さへと舞い上がり、再び両肩の砲門で黄金魔法人形に狙いを定める。
『夜空に瞬く星々の輝きよ、悠久の時を超え、我が敵へ降り注げ! スターブライトカノン!』
技名とともにその砲門から流れ星のごとく輝く光の奔流が吐き出され、黄金魔法人形へ襲い掛かる。
光に貫かれ、黄金魔法人形の装甲ゲージがゼロを指し示した。
『Hold up! これにて決着だ!』
相手の黄金魔法人形を倒したことでコスモのチームの勝利が決定した。
それを見て夜宵が言葉を吐き出した。
「トレジャーハントバトルかー。確か将棋みたいなルールだったよね」
「将棋って、また独特な例えだな」
まあいい例えかもしれない。
トレジャーハントバトルは五人チームで行う魔法人形のチーム戦。
そして魔法人形というゲームにおいて殆どプレイ人口のいないマイナールールだ。
チームを組むために五人集めないといけないというハードルの高さ故にシングルスやダブルスに比べると、やる人は少ない。
さらに運営もそれは承知の上なのか、シングルスやダブルスで行われているようなオンラインのランキング戦はトレジャーハントバトルには存在せず、成績のつかないフリーバトルがあるのみだ。
シングルスランキングで世界のトップを争うほどやりこんでる夜宵でも、トレジャーハントバトルに関してはルールもよく知らないレベルの無関心ぶりである。
夜宵に限らず多くの魔法人形プレイヤーにとって、トレジャーハントバトルはそんな認識だろう。
俺は彼女に軽く説明する。
「トレジャーハントバトルは五人組のチーム戦だな。実際にフィールドで戦うのは三人で、控えの二人と交代を駆使しながらチームプレイで勝利を目指すゲームだよ」
「そうそう、それで交代に関するルールが結構ややこしいんだったよね。まさにそれこそ将棋って感じ」
将棋は相手の駒を取って自分のものにできる。
トレジャーハントバトルには敵をヘッドハンティングするルールこそないが、控えメンバーをフィールドの好きな場所に配置できるあたりは似てるのかもしれない。
夜宵は俺のスマホから視線を離すと、何気なく呟いた。
「それにしても、魔法人形やってるVって他にもいるのかな?」
「そりゃ沢山いるぞ。何なら紹介しようか?」
「ホント? 可愛い女の子とかいる?」
なるほど、男性Vには喰いつきがいまいちだったが、夜宵のニーズは可愛い女性Vらしい。
「だったらこの子とかどうだ? クロリスって言うんだけど」
俺はツイッターを操作し、その女性Vのアカウントを表示する。
「おお、可愛いじゃん!」
ツイッターのヘッダーに描かれたそのバーチャルアバターの姿を見て夜宵は歓喜する。
金色に輝く長い髪を黒いリボンとティアラで飾ったツーサイドアップの女の子。
大人びた体つきにミニスカノースリーブの黒いドレスを纏ったその姿は妖艶なお姉さんといった風貌だった。
透き通るような青い瞳をウィンクさせ、口許に人差し指を当てた小悪魔的な仕草がよく似合っている。
「すごいね! 可愛い! それとおっぱい大きい! セクシー!」
夜宵ちゃん、そういうこと大声で言わない。
「ヤバイ! エロイ! おっぱいに顔を埋めたい! 赤ちゃんになっておっぱい飲みたいバブー!」
「夜宵ちゃん、ちょっと落ち着いて。まず一億年くらい黙ろうか」
テンション爆上げ中で幼児化の兆しが見え始めた彼女を俺は宥める。
「はい、失礼しました。少々興奮しました。黙ります」
そう言って彼女は、少しの間沈黙する。
そしてすぐに俺に問いかけた。
「そろそろ一億年経った?」
「まだ一秒くらいだな」
「それは時差だよ。私の時計ではもう一億年経ってるから喋っていいよね」
「なら仕方ないな」
そうして少し気持ちを落ち着けたところで彼女は語り出す。
「最近さ、私は思うんだ。勉強って難しいし、頭痛くなるし、生きるのがしんどくなってくるなーって。だから色んなしがらみから解放されて赤ちゃんになりたいの」
「えっ、待って、このタイミングで予想外に重いカミングアウトされるの困る」
俺の静止に構わず、夜宵は遠い目をする。
「赤ちゃんはいいよね。一日中食っちゃ寝てしてられるんだよ。ヒナ、どうして私は赤ちゃんとして生まれてこなかったのかな?」
「いや、キミも生まれたばかりの頃は赤ちゃんだったんじゃないの?」
「そんな記憶はないよ。はい論破」
「会話が難しすぎて反論できない。現実の辛さに俺も赤ちゃんになりたくなってきたわ」
そこで夜宵は再びテンションを上げて興奮気味に吐き出す。
「というわけでおっぱいだよ! この子は素晴らしいおっぱいを持ってるよ!」
「そういえばキミって貧乳派じゃなかったっけ。光流と昔それで盛り上がってたじゃん」
俺がそう指摘すると、夜宵は驚愕に目を見開いた。
「何言ってるのヒナ? 貧乳派とか巨乳派とかそんな二極化でおっぱいを語ることなんてできないよ。
おっぱいには色んな大きさ、色んな形がある。でもね、それらはみんな違ってみんないいんだよ」
「ねえ夜宵ちゃん、この話まだ続くの?」
夜宵の地雷を踏んでしまったのか、おっぱい学の講義が始まってしまった。
「私達はおっぱいを好きという気持ちからは永遠に逃れられないんだよ。哺乳類である限りね」
「あーうん、わかったわかった。ところで夜宵ちゃんのおっぱいは何カップなの?」
「えっ、ディー、ってちょちょちょちょっとタンマ! 今のなし! 誘導尋問は卑怯だよ!」
そんなに綺麗に引っかかってくれるとは思わなかったよ。
突然のセクハラに顔を赤らめて発言を取り消すも、彼女の極秘情報はすでに俺の脳裏に刻まれてしまった。
「そうか、Dか。夜宵ちゃん、今俺は動揺しているよ」
「しなくていい、しなくていいの! ヒナ、おっぱいを好きな気持ちは否定しないけど、セクハラは人として駄目だと思うよ!」
両手で胸をガードし、涙目で訴える彼女を見ると罪悪感が湧いてくる。
うん、そうだねセクハラはこのくらいにしとこう。
夜宵ちゃんがおっぱいについて熱弁してたのは俺へのセクハラにならないんですか? って聞きたいところだが、この世は男に人権がないようにできているのだ。
聞こえるのはノートにペンを走らせる僅かな音のみ。
いつも通りの夜宵との勉強会。今日の彼女は調子が良さそうで、殆ど質問もないまま夏休みの宿題を順調にこなしていった。
チラッと夜宵の顔を窺う。
真剣な表情でノートにペンを走らせている。
そんな彼女もやっぱり可愛い。
以前のお泊りの告白未遂から、多少気まずさを感じる時もあるが、俺が夜宵に抱いている恋心は変わらない。
いや、変わらないどころか日に日に膨らんでいっているのかもしれない。
ともあれ今は勉強中。
彼女の集中を邪魔するわけにはいかないな。
そう思って俺も自分の宿題に向き合っていると、テーブルに置いていたスマホが振動した。
「あっ、悪い」
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俺がチャンネル登録しているゲーム実況者が生放送を始めたという通知が来ていた。
うわあ、見てえ。
いやいや、今は勉強勉強。
そう思っていると、夜宵が息を深く吐きながらペンを机に置いた。
「ねえヒナ、そろそろ休憩にしない?」
「ん、そうだな」
まあ夜宵がそう言うなら彼女のペースに合わせよう。
「じゃあどうする? またこの前みたいにアニメでも観るか?」
俺の問いかけに夜宵は、うーんそうだねー、と少し考えたところで言葉を返してきた。
「今日はヒナが決めていいよ。何かしたいことある?」
したいことと言われて、真っ先に思い浮かんだのは先ほどスマホに来た通知の件だった。
いや、でもなあ。
「特にないよ。夜宵が好きなアニメでも観ようぜ」
そう言って取り繕うも、夜宵は訝し気に眉を顰めた。
「ヒナ、なんだか私に遠慮してる?」
「えっ? いやいやそんなことないぞ」
ドキリとした。
こういう時、夜宵は鋭い。
正直に言えば、俺はさっき通知のあった生放送を見たい。
しかし今は夜宵と一緒だ。
彼女を巻き込むのは憚られた。
「もしかして魔法人形に関係すること?」
夜宵のその指摘は俺の胸に深々と刺さる。
図星だった。
彼女は言葉を続ける。
「確かに私は学校の勉強に追いつくために魔法人形を封印してるけど、そのことでヒナが変に気を使う必要はないと思うよ」
不安そうな顔で彼女は俺を見つめる。
自分が魔法人形を禁じていることが、俺の負担になってないか心配してるのだろう。
仕方なく俺は白状する。
「あー。実はな、俺の好きなゲーム実況者が魔法人形の配信を始めたところなんだよ。だからちょっと覗いてみたいなって」
そう説明すると、夜宵は興味を惹かれた様子で言葉を返す。
「ゲーム実況者かあ。私普段そういう動画とか見ないからなー。ヒナがどんな実況者好きなのか興味あるかも」
そうか。
夜宵は自分を律し、魔法人形をプレイすることを我慢している。
だから他人がプレイしているところを見るのも抵抗があるのではと思ったが、どうやら杞憂だったらしい。
ならば俺も憂いなく彼を紹介できる。
「コスモって名前のバーチャル投稿者なんだ。主に魔法人形の対戦動画を投稿したり、生配信したりしている」
そう言って俺はスマホを操作し、生放送の画面を表示する。
「バーチャル、っていうとアレでしょ。人形劇みたいなやつ」
まあその例えは的を射てるかもな。
ゲーム実況者には大きく分けて三種類の人間がいる。
素顔を出してる人間、隠したままの人間、そしてコスモはそのどちらにも当てはまらない第三のタイプ。
CGで作られたイラストを自らのアバターとして使い、画面に表示している。
そのアバターは実況者本人の体の動きや表情の変化を読み取り、まさに実況者の分身として画面の中で動くのだ。
そういう実況者や動画投稿者のことを総じてバーチャル投稿者、あるいは略してVなんて呼ばれている。
企業が運営しているものもあるだろうが、コスモはあくまで個人Vだ。
画面に映っているコスモのアバターは、青い宇宙に星々が光り輝いているイラストが描かれたパーカーに身を包んでいる。
フードの下から覗く真っ白な髪と赤い瞳が印象的なキャラクターデザインとなっている男性Vだ。
「おー、なんか少年漫画的な画風だね」
と夜宵が感想を吐き出す。
コスモはその手に長方形のゲーム機、Standを持ち操作している。
ゲーム機はイラストだが、その動きは画面の向こうの実況者本人を忠実に再現しているのだろう。
現在は魔法人形のオンライン対戦、フリーバトルで対戦相手を探しているところのようだ。
『さあ、対戦相手が見つかったな。相手のチームを見ていこうか』
彼の気取った声がスマホから響く。
今やってるのはチーム戦、トレジャーハントバトルと呼ばれるルールだった。
相手チームの魔法人形は三体。
まず氷の鎧を身に纏ったペンギン騎士、アイシクル・ナイト。
『凍てつく大地より生まれし、絶対零度の騎士!』
次にガントレットで武装した白熊の拳闘士、ナックル・ベアーマン。
『その剛腕はあらゆる敵を打ち砕く、暴虐の獣!』
最後は迷彩服に身を包み、右手にナイフを、左手にライフル銃を装備した二足歩行の猫型マドール、アーミーミーミー。
『可愛い顔の裏に静かな殺意を忍ばせた暗殺の使者! 以上、三体ですね』
普通の実況者なら相手のマドールの機体名を読み上げる場面だが。
「なんか、名前を言わずに通り名っぽいのだけで紹介しちゃったね」
そう言って夜宵が苦笑する。
出会ったマドールに厨二病テイストの通り名をつけていくのが彼のいつものスタイルだ。
ゲーム実況者にもいろんなタイプがいる。
真面目に魔法人形の紹介をしたり、自分の戦術を解説したり、強者として自分の実力をウリにしている実況者もいれば、持ち前のトーク力で視聴者を楽しませるタイプもいるだろう。
俺がコスモを好きな理由の一つはこの厨二テイストに染まり切った台詞回しの数々である。
コスモの操るマドールは青い体に赤い翼を生やしたドラゴン型の機体だ。
その竜が翼を羽ばたかせ、敵陣へと切り込む。
彼が進む先には王冠を頭に載せた黄金に輝くマドールが立っていた。
それはプレイヤーが操作するマドールではない、相手のチームが守るべき黄金魔法人形。
トレジャーハントバトルは自軍の黄金魔法人形を守りながら、敵の黄金魔法人形を倒すことを目的としたチーム戦なのだ。
コスモの操るドラゴンは両肩に装備したキャノン砲を黄金魔法人形へと向ける。
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ドラゴンの両肩の砲門に光が満ちる。
『宇宙より来たりし我が相棒、銀河竜皇コズミック・ドラグオンよ! 美しき戦場に終幕の鎮魂歌を捧げよ!』
そしてそのキャノン砲から光線が放たれ、敵の黄金魔法人形を貫く、と思われた瞬間、横から飛んできた銃弾を受けドラゴンの体が揺らぐ。
どうやら敵チームのアーミーミーミーの銃撃により妨害されたようだった。
キャノン砲からは眩い光線が吐き出されたものの、狙いがズレて黄金魔法人形を掠めていった。
コスモは残念そうに片手で目を覆うと、いつも通りのイケメンボイスを吐き出す。
『Oh my bad。俺の脚本にリテイクを出すとは、今回の審査員は中々に手厳しい』
「ホント言い回しが独特だねこの人」
夜宵が苦笑しながらそう評する。
「だろ。こういうところがこの人の魅力なんだよ」
『ならばその審査員さえも唸らせる最高のフィナーレで締めくくろう』
コズミック・ドラグオンは銃弾が届かないほどの高さへと舞い上がり、再び両肩の砲門で黄金魔法人形に狙いを定める。
『夜空に瞬く星々の輝きよ、悠久の時を超え、我が敵へ降り注げ! スターブライトカノン!』
技名とともにその砲門から流れ星のごとく輝く光の奔流が吐き出され、黄金魔法人形へ襲い掛かる。
光に貫かれ、黄金魔法人形の装甲ゲージがゼロを指し示した。
『Hold up! これにて決着だ!』
相手の黄金魔法人形を倒したことでコスモのチームの勝利が決定した。
それを見て夜宵が言葉を吐き出した。
「トレジャーハントバトルかー。確か将棋みたいなルールだったよね」
「将棋って、また独特な例えだな」
まあいい例えかもしれない。
トレジャーハントバトルは五人チームで行う魔法人形のチーム戦。
そして魔法人形というゲームにおいて殆どプレイ人口のいないマイナールールだ。
チームを組むために五人集めないといけないというハードルの高さ故にシングルスやダブルスに比べると、やる人は少ない。
さらに運営もそれは承知の上なのか、シングルスやダブルスで行われているようなオンラインのランキング戦はトレジャーハントバトルには存在せず、成績のつかないフリーバトルがあるのみだ。
シングルスランキングで世界のトップを争うほどやりこんでる夜宵でも、トレジャーハントバトルに関してはルールもよく知らないレベルの無関心ぶりである。
夜宵に限らず多くの魔法人形プレイヤーにとって、トレジャーハントバトルはそんな認識だろう。
俺は彼女に軽く説明する。
「トレジャーハントバトルは五人組のチーム戦だな。実際にフィールドで戦うのは三人で、控えの二人と交代を駆使しながらチームプレイで勝利を目指すゲームだよ」
「そうそう、それで交代に関するルールが結構ややこしいんだったよね。まさにそれこそ将棋って感じ」
将棋は相手の駒を取って自分のものにできる。
トレジャーハントバトルには敵をヘッドハンティングするルールこそないが、控えメンバーをフィールドの好きな場所に配置できるあたりは似てるのかもしれない。
夜宵は俺のスマホから視線を離すと、何気なく呟いた。
「それにしても、魔法人形やってるVって他にもいるのかな?」
「そりゃ沢山いるぞ。何なら紹介しようか?」
「ホント? 可愛い女の子とかいる?」
なるほど、男性Vには喰いつきがいまいちだったが、夜宵のニーズは可愛い女性Vらしい。
「だったらこの子とかどうだ? クロリスって言うんだけど」
俺はツイッターを操作し、その女性Vのアカウントを表示する。
「おお、可愛いじゃん!」
ツイッターのヘッダーに描かれたそのバーチャルアバターの姿を見て夜宵は歓喜する。
金色に輝く長い髪を黒いリボンとティアラで飾ったツーサイドアップの女の子。
大人びた体つきにミニスカノースリーブの黒いドレスを纏ったその姿は妖艶なお姉さんといった風貌だった。
透き通るような青い瞳をウィンクさせ、口許に人差し指を当てた小悪魔的な仕草がよく似合っている。
「すごいね! 可愛い! それとおっぱい大きい! セクシー!」
夜宵ちゃん、そういうこと大声で言わない。
「ヤバイ! エロイ! おっぱいに顔を埋めたい! 赤ちゃんになっておっぱい飲みたいバブー!」
「夜宵ちゃん、ちょっと落ち着いて。まず一億年くらい黙ろうか」
テンション爆上げ中で幼児化の兆しが見え始めた彼女を俺は宥める。
「はい、失礼しました。少々興奮しました。黙ります」
そう言って彼女は、少しの間沈黙する。
そしてすぐに俺に問いかけた。
「そろそろ一億年経った?」
「まだ一秒くらいだな」
「それは時差だよ。私の時計ではもう一億年経ってるから喋っていいよね」
「なら仕方ないな」
そうして少し気持ちを落ち着けたところで彼女は語り出す。
「最近さ、私は思うんだ。勉強って難しいし、頭痛くなるし、生きるのがしんどくなってくるなーって。だから色んなしがらみから解放されて赤ちゃんになりたいの」
「えっ、待って、このタイミングで予想外に重いカミングアウトされるの困る」
俺の静止に構わず、夜宵は遠い目をする。
「赤ちゃんはいいよね。一日中食っちゃ寝てしてられるんだよ。ヒナ、どうして私は赤ちゃんとして生まれてこなかったのかな?」
「いや、キミも生まれたばかりの頃は赤ちゃんだったんじゃないの?」
「そんな記憶はないよ。はい論破」
「会話が難しすぎて反論できない。現実の辛さに俺も赤ちゃんになりたくなってきたわ」
そこで夜宵は再びテンションを上げて興奮気味に吐き出す。
「というわけでおっぱいだよ! この子は素晴らしいおっぱいを持ってるよ!」
「そういえばキミって貧乳派じゃなかったっけ。光流と昔それで盛り上がってたじゃん」
俺がそう指摘すると、夜宵は驚愕に目を見開いた。
「何言ってるのヒナ? 貧乳派とか巨乳派とかそんな二極化でおっぱいを語ることなんてできないよ。
おっぱいには色んな大きさ、色んな形がある。でもね、それらはみんな違ってみんないいんだよ」
「ねえ夜宵ちゃん、この話まだ続くの?」
夜宵の地雷を踏んでしまったのか、おっぱい学の講義が始まってしまった。
「私達はおっぱいを好きという気持ちからは永遠に逃れられないんだよ。哺乳類である限りね」
「あーうん、わかったわかった。ところで夜宵ちゃんのおっぱいは何カップなの?」
「えっ、ディー、ってちょちょちょちょっとタンマ! 今のなし! 誘導尋問は卑怯だよ!」
そんなに綺麗に引っかかってくれるとは思わなかったよ。
突然のセクハラに顔を赤らめて発言を取り消すも、彼女の極秘情報はすでに俺の脳裏に刻まれてしまった。
「そうか、Dか。夜宵ちゃん、今俺は動揺しているよ」
「しなくていい、しなくていいの! ヒナ、おっぱいを好きな気持ちは否定しないけど、セクハラは人として駄目だと思うよ!」
両手で胸をガードし、涙目で訴える彼女を見ると罪悪感が湧いてくる。
うん、そうだねセクハラはこのくらいにしとこう。
夜宵ちゃんがおっぱいについて熱弁してたのは俺へのセクハラにならないんですか? って聞きたいところだが、この世は男に人権がないようにできているのだ。
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※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
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青春
――結婚しています!
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高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
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ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
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