ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第五章 お泊りに行きたい

#81 うちの幼馴染は素直じゃなくて可愛い1

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 夏休みのある日、俺は朝飯を済ませるとリビングのソファでノンビリしていた。
 平日なので両親は仕事に出かけており、今日は光流も友達と遊びに行くそうだ。
 珍しく夜宵との約束もなく、俺は時間を持て余していた。

 まあいい。
 たまには一人の時間を満喫するのもいいものだ。
 とりあえず今日は一日、魔法人形マドールをやるか。
 オンラインのランキング戦で順位を上げまくろう。
 そう意気込んでいると、玄関からピンポーンというインターホンの音が響いた。
 一体誰だろうと立ち上がると、続いてピンポンピンポンピンポンと連打される。
 こんなことをする奴は一人しかいないな。
 俺は玄関へと出向き、廊下の壁についたモニターから外を確認する。
 モニターに映る玄関先には元気いっぱいに瞳を輝かせ、長い栗色の髪をうなじの辺りで束ねて尻尾髪にした少女が立っていた。
 予想通りの来客に、俺はインターホン越しに言葉を送る。

「合言葉を言え」

 実際には合言葉なんて決めてないが、無茶ぶりをぶつけてみる。
 さて、どんな答えが返ってくるか?

「もふもふワンワンワンダーランド!」

 インターホンからは知能指数でいうと三くらいの合言葉が返ってきた。

「お前、人生最後の言葉がそれでいいのか?」
「構わない! 私は今から犬になるっす!」
「その台詞、キミのお母さんが聞いたらどう思うでしょう?」
「ワンワンバウウキャンキャン」

 はええ、一ミリの躊躇いもなく人間であることを捨ててしまった。
 俺は玄関を開けながら、扉の外にいる来客を出迎える。

「頼むから人間に戻ってくれ、そしたら家に上げてやるから」
「おっじゃましまーす! せんぱーい!」

 速攻で人としての理性を取り戻し、向日葵ひまわりのような笑顔で挨拶してくれる可愛い後輩。
 彼女の名は白金しろかね琥珀こはく
 うちの近所に住んでいて、小さい頃から何度も遊んでいる一つ年下の幼馴染だ。
 彼女を家に招き入れる。

「とりあえずリビングで待ってなさい。麦茶でも出すから」
「ちわっす。ゴチになりまっす」

 琥珀に先にリビングへ行くよう促し、俺は台所に寄り麦茶をコップに注ぎお盆に載せて持っていく。
 リビングに足を踏み入れると、大人しくソファで待っていた彼女の前にコップを置いた。

「先輩、今日は光流はいないんすか?」
「ああ、友達と遊びに行くってさ。お前は約束してなかったのか?」

 まあ琥珀がアポなしでうちに殴りこんでくるのは珍しいことじゃないが、光流と遊びに来たのに彼女が不在だったのは、ちょっと可哀想だな。

「いえ、私も光流と約束したんすよ。今日あそぼーって、テレパシーで」
「ごめんな。うちの妹、テレパシーの受信機能がついてなくさ」
「じゃあ先輩が伝えておいてくださいよ!」
「まるで俺になら受信機能があるみたいに言わないで! お前の頭の中とか知らんわ!」

 俺が文句をつけると琥珀は、えー、と不満げに口を尖らせる。

「幼馴染の絆はどうしたんすか? 先輩と私は何年の付き合いだと思ってんすか!」
「何年だろうね。五億年くらい?」
「長寿のギネス記録更新しちゃいましたね」
「俺達すっげえな」

 などとアホな会話ができるのも、気心の知れた幼馴染ゆえだろう。
 琥珀がリビングを見渡し、テレビの前においてあるゲーム機に視線を止める。

「光流がいないならしゃーないっすね。今日は先輩との勝負に決着をつけるっす」
「ほー、やるか対戦?」

 とにかくこの子は勝負事が大好きで、ことあるごとに俺に戦いを挑んでくる。

魔法人形マドールで勝負っすよ先輩。負けた方は勝った方が欲しいものを奢るってのはどうです?」
「へー、お前が欲しいものってなによ?」

 俺がそう問い返すと、琥珀は間髪入れず答えた。

「新築の一戸建てと二人の子供と可愛いペットと幸せな家庭っすかね」
「高校生に買えないレベルのものと、お金じゃ買えないもの禁止な」
「じゃあいいっすよ。コンビニに売ってるものにしましょう」

 一気に現実的になったな。
 琥珀はショルダーバッグから長方形のゲーム機、Standスタンドを取り出して不敵に笑う。

「さあ、この勝負受けるっすか? せんぱーい?
 まあ世界最強のトラップ使いである私と、ミジンコレベルの先輩じゃ結果は見えてるっすからね。ブルって逃げ出すのも無理はないっす」

 めっちゃ煽るやんこいつ。
 しかし今の台詞は聞き捨てならない。

「お前! 俺のことを馬鹿にするのは構わないがな、ミジンコを悪く言うな! アイツは凄い奴なんだよ! ミジンコが本気になれば日本列島を海に沈められるからな」
「はっ、その程度でイキられても困るっすね。日本とかちっさい島国じゃないっすか。世界地図で見たら二センチくらいっすよ。そんなの誰でも沈められるっす」

 日本に住んでるのに日本の過小評価っぷりが半端ねえ。

「うるせえ! 北海道ぶつけんぞ!」
「ならば私は四国でガードするっす!」

 話は逸れるが、北海道はとても厨二心をくすぐる形状をしていると思う。
 俺は北海道の渡島半島のあたりを銃のグリップに見立てて右手で握る。
 そして先端部を琥珀へと向けた。

「伸びろ北海道!」

 俺がそう叫ぶと、知床半島と根室半島が鋭く伸びて彼女へ襲い掛かる。(イメージです)

「させないっす。四国バリア!」

 琥珀の正面に四国が浮かび上がり、北海道の攻撃を受け止めた。(イメージです)

「だが北海道の鋭利な牙はお前のガードを粉々に打ち砕くぜ!」

 俺の言葉とともに、知床半島と根室半島は四国を突き破り、四つに切り裂く。
 しかしそれを見て琥珀は不敵な笑みを浮かべた。

「ふふ、砕けて結構。四国の仕事は砕けることっすから」
「なに? しまった!」

 四つに分離した四国は宙に浮かび、俺へと襲い掛かってくる。(イメージです)

「さあ行くっす! 徳島、愛媛、高知、オーストラリア! 先輩を攻撃するっす!」
「なんか一個違うの混じってる!」
「ふふん。実は香川とオーストラリアをトレードしておいたっす」
「明らかに釣り合ってないだろ! そのトレード、オーストラリアくんは納得してるの!?」
「実はおまけにコアラのマ〇チをつけておいたっす。オーストラリアくんはコアラに目がないっすからね」
「なんだと! 食べ物で釣るとは卑怯な!」

 あー、なんか琥珀とこうやってアホな掛け合いするのも久しぶりだわ。
 そんなこんなで俺達はゲームで勝負することになった。
 そして一時間後、コンビニへと買い出しに行くのだった。
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