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第五章 お泊りに行きたい
#75 うちの妹は甘えん坊で可愛い3
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燦々と降り注ぐ夏の日差しがベランダを照らす。
こんな日は洗濯物がよく乾きそうだ。
そんな感想を抱いてしまうのは思考が主婦に染まりすぎだろうか?
火神光流はそう思って自嘲した。
高校生活最初の夏休み。
日向家の両親は仕事に出かけ、兄の太陽は外泊中。
家で一人暇を持て余していた光流は、今日は何をしようかととりとめのない思考を巡らしていた。
「そう言えば、お兄様の部屋って綺麗にしてるんですかね?」
実を言うと光流は家事が好きだ。
今みたいに時間を持て余したとき、ついつい掃除や洗濯や料理のことを考えてしまうくらいに。
普段であれば太陽の部屋は自分で掃除しているだろうし、そこまでは光流も手を出さない。
だが今は彼が家を空けている。
「お兄様が帰ってきた時、お部屋が綺麗になってたら褒めてもらえるかもしれません」
そう呟くと、彼女は兄の部屋に足を向ける。
廊下を進み、階段を上り、目的の部屋の前に辿り着く。
そして扉を開けて、無人の部屋に踏み込んだ。
光流は室内を見渡す。
埃が溜まっていたり、物が散らかっていたりといった様子もない。
掃除は行き届いているし、綺麗に整頓された部屋だった。
「むむ、お兄様は世話の焼き甲斐がないですね」
そう言って彼女は眉をしかめた。
目的を失った光流は改めて考える。
今は家に自分一人、家族は全員出かけている。そう思うと彼女の中に悪戯心が沸き上がってくるのだった。
光流はクローゼットを開く、中には太陽のワイシャツや制服がハンガーにかかっていた。
「お兄様のワイシャツ……」
ワイシャツを手に取り、袖を通す。
小柄な光流には袖も裾もぶかぶかだった。
「おお、やっぱり男の人の服って大きいですね。彼シャツってこんな感じでしょうか」
兄の服を勝手に着ているという背徳感にドキドキしながら、姿見に自分を映してみる。
今の光流は短めのスカートを履いていたが、ワイシャツの裾の方が長く、下に着ている服は見えない。
シャツの裾からはそのまま素足が覗き、なんだか裸ワイシャツみたいに見えるなあ、と感想を抱いた。
テンションが上がったところで、光流の視線は壁際にあるベッドに向く。
「お兄様のベッド……」
ゆっくりとベッドの方へ歩み寄り、近くまで来ると床を蹴って飛び込んだ。
「ダーイブ、です」
そしてベッドの上で転がり掛け布団に絡まる。
すんすん、と光流は鼻から空気を吸い、布団についた匂いを嗅ぐ。
「うーん、お兄様の匂いだー」
大好きな兄の残り香を感じて、光流は上機嫌になるのだった。
しかしすぐに心の隙間に、寂しい気持ちが入り込んでくる。
「お兄様の、馬鹿」
拗ねた様に呟き、光流は枕に顔を埋める。
「昔は私が引っ越したら寂しくて泣いちゃうって言ってたのに、私のことをほったらかしにするんですから」
小さい頃はあんなに構ってくれた太陽が、最近では休日も光流以外の用事で出かけることが多くなった。
その大半は夜宵絡みだと光流は知っている。
留年の危機に瀕している夜宵に勉強を教える太陽は立派だと思うし、尊敬できる。
でも、それで自分と過ごす時間が減ることについて彼は何も思わないのだろうか?
そう思うと光流の胸の奥にモヤモヤした気持ちが生まれるのだった。
この気持ちは、なんだろう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お泊りセットの入った鞄を担ぎ、俺は駅のホームで電車を待つ。
ほんの三日間の外泊だったが、家に帰るのが随分と久しぶりな気がする。
何気なくスマホを弄り、ツイッターを開くとタイムラインに可愛らしい小型犬の動画が流れてきた。
どうやら飼い主がペットカメラで留守中の愛犬の様子を撮影したものらしい。
家で一匹、留守番をすることになった愛犬は動画の中であちこちの匂いを嗅ぎながら部屋を移動していた。
うーん、可愛い。犬種は詳しくないが恐らくコーギーというやつだろう。
コーギーはやがて寝室に辿り着くと、ベッドに飛び乗り布団に包まった。
くーんくーん、と寂し気に鳴きながら布団についた飼い主の残り香を嗅いでいるようだった。
そんなに飼い主に懐いているのが可愛いと思う反面、留守番させるのが可哀想だとも感じる。
ウチもペット飼いたいと思うけど、やっぱり平日の昼間とか家に誰もいなくなる時間が不安だよなあ。
そんな風に考えながら電車に乗る。
やっぱりこんなに懐いてくれる愛犬、いや家族がいるなら寂しい思いなんかさせたくないよ。
そういえば、今頃光流はどうしてるだろう?
俺が外泊することに大分不満げにしてたし、何か手土産の一つも持って帰ろうか。
光流が喜びそうなものは何だろう、と考えを巡らせ、そういえばあいつは入浴剤が好きだったなと思いだす。
そうこうしているうちに電車はウチの最寄り駅に到着する。
どれ、帰りにドラッグストアにでも寄って光流の喜びそうな入浴剤を買って帰るとしよう。
こんな日は洗濯物がよく乾きそうだ。
そんな感想を抱いてしまうのは思考が主婦に染まりすぎだろうか?
火神光流はそう思って自嘲した。
高校生活最初の夏休み。
日向家の両親は仕事に出かけ、兄の太陽は外泊中。
家で一人暇を持て余していた光流は、今日は何をしようかととりとめのない思考を巡らしていた。
「そう言えば、お兄様の部屋って綺麗にしてるんですかね?」
実を言うと光流は家事が好きだ。
今みたいに時間を持て余したとき、ついつい掃除や洗濯や料理のことを考えてしまうくらいに。
普段であれば太陽の部屋は自分で掃除しているだろうし、そこまでは光流も手を出さない。
だが今は彼が家を空けている。
「お兄様が帰ってきた時、お部屋が綺麗になってたら褒めてもらえるかもしれません」
そう呟くと、彼女は兄の部屋に足を向ける。
廊下を進み、階段を上り、目的の部屋の前に辿り着く。
そして扉を開けて、無人の部屋に踏み込んだ。
光流は室内を見渡す。
埃が溜まっていたり、物が散らかっていたりといった様子もない。
掃除は行き届いているし、綺麗に整頓された部屋だった。
「むむ、お兄様は世話の焼き甲斐がないですね」
そう言って彼女は眉をしかめた。
目的を失った光流は改めて考える。
今は家に自分一人、家族は全員出かけている。そう思うと彼女の中に悪戯心が沸き上がってくるのだった。
光流はクローゼットを開く、中には太陽のワイシャツや制服がハンガーにかかっていた。
「お兄様のワイシャツ……」
ワイシャツを手に取り、袖を通す。
小柄な光流には袖も裾もぶかぶかだった。
「おお、やっぱり男の人の服って大きいですね。彼シャツってこんな感じでしょうか」
兄の服を勝手に着ているという背徳感にドキドキしながら、姿見に自分を映してみる。
今の光流は短めのスカートを履いていたが、ワイシャツの裾の方が長く、下に着ている服は見えない。
シャツの裾からはそのまま素足が覗き、なんだか裸ワイシャツみたいに見えるなあ、と感想を抱いた。
テンションが上がったところで、光流の視線は壁際にあるベッドに向く。
「お兄様のベッド……」
ゆっくりとベッドの方へ歩み寄り、近くまで来ると床を蹴って飛び込んだ。
「ダーイブ、です」
そしてベッドの上で転がり掛け布団に絡まる。
すんすん、と光流は鼻から空気を吸い、布団についた匂いを嗅ぐ。
「うーん、お兄様の匂いだー」
大好きな兄の残り香を感じて、光流は上機嫌になるのだった。
しかしすぐに心の隙間に、寂しい気持ちが入り込んでくる。
「お兄様の、馬鹿」
拗ねた様に呟き、光流は枕に顔を埋める。
「昔は私が引っ越したら寂しくて泣いちゃうって言ってたのに、私のことをほったらかしにするんですから」
小さい頃はあんなに構ってくれた太陽が、最近では休日も光流以外の用事で出かけることが多くなった。
その大半は夜宵絡みだと光流は知っている。
留年の危機に瀕している夜宵に勉強を教える太陽は立派だと思うし、尊敬できる。
でも、それで自分と過ごす時間が減ることについて彼は何も思わないのだろうか?
そう思うと光流の胸の奥にモヤモヤした気持ちが生まれるのだった。
この気持ちは、なんだろう?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お泊りセットの入った鞄を担ぎ、俺は駅のホームで電車を待つ。
ほんの三日間の外泊だったが、家に帰るのが随分と久しぶりな気がする。
何気なくスマホを弄り、ツイッターを開くとタイムラインに可愛らしい小型犬の動画が流れてきた。
どうやら飼い主がペットカメラで留守中の愛犬の様子を撮影したものらしい。
家で一匹、留守番をすることになった愛犬は動画の中であちこちの匂いを嗅ぎながら部屋を移動していた。
うーん、可愛い。犬種は詳しくないが恐らくコーギーというやつだろう。
コーギーはやがて寝室に辿り着くと、ベッドに飛び乗り布団に包まった。
くーんくーん、と寂し気に鳴きながら布団についた飼い主の残り香を嗅いでいるようだった。
そんなに飼い主に懐いているのが可愛いと思う反面、留守番させるのが可哀想だとも感じる。
ウチもペット飼いたいと思うけど、やっぱり平日の昼間とか家に誰もいなくなる時間が不安だよなあ。
そんな風に考えながら電車に乗る。
やっぱりこんなに懐いてくれる愛犬、いや家族がいるなら寂しい思いなんかさせたくないよ。
そういえば、今頃光流はどうしてるだろう?
俺が外泊することに大分不満げにしてたし、何か手土産の一つも持って帰ろうか。
光流が喜びそうなものは何だろう、と考えを巡らせ、そういえばあいつは入浴剤が好きだったなと思いだす。
そうこうしているうちに電車はウチの最寄り駅に到着する。
どれ、帰りにドラッグストアにでも寄って光流の喜びそうな入浴剤を買って帰るとしよう。
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