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第五章 お泊りに行きたい

#66 勝負水着の破壊力

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 やがて待つこと数分、今度は試着室のカーテンが閉じたまま、中からか細い声が聞こえてくる。

「ね、ねえヒナ。ちょっと来てもらっていいかな?」
「えーっと、それはどういう意味だ? 俺も試着室に入っていいってことか?」
「うん、それで入ったらすぐにカーテン閉めて欲しい」

 流石にこの注文にはヒナもドキドキを抑えられない。
 あの狭い試着室の中で二人きりになるのが、どういうことかわかってるのか夜宵?
 いやいや、とヒナは自分の煩悩を沈める。
 自分を呼んだということは、きっと着替えている時になんらかのトラブルがあったのだ。
 彼女が助けを求めているんだから、自分だって照れてる場合じゃないだろう。

「よし、入るぞ夜宵」

 意を決してヒナはカーテンを開け、素早く中に入る。
 そして中にいた夜宵の姿を見て息を呑んだ。
 首元で布地を交差させた黒のクロスホルタービキニは夜宵のバストの存在感と谷間をこの上なく強調しており、溢れんばかりの色気を放ったいた。
 ヒナが目のやり場に困り視線を落とすと、布地の少ない黒のパンツが視界に入る。
 腰回りは細い紐で結ばれているのみで、面積の狭いローレグのパンツは鼠径部のラインを隠しきれていない。

――めちゃくちゃエロい!

 それが彼の率直な感想だった。

「おう。水着、着れたんだな」

 ひょっとしたら何か手伝いが必要かもしれないと身構えていただけに、着替えを完了しているのは予想外だった。
 夜宵は恥ずかしそうに頬を赤らめながらそれに答える。

「うん、上手く着れたか自信ないけど。ちょっと動いたらブラとかズレそうで」

――夜宵ちゃん! そういうことを言わない! 思ってても口に出さないで! 男の子ドキドキしちゃうから!

 ヒナは心の中でそう叫んだ。
 でも、と夜宵は言葉を続ける。

「こ、こんな格好で外に出れないって!」

 恥ずかしがり屋の夜宵らしい正直な感想だった。

「そ、そうだな。俺も夜宵のこんなエロい格好を他の男に見せるわけにはいかない」
「え、エロい!?」

 かああっ、と夜宵の頬が一際赤くなり顔を俯かせる。
 しまった、気分を害してしまったか? とヒナは後悔し、即座にフォローの言葉を吐き出す。

「いや、夜宵めちゃくちゃ綺麗だよ。大人っぽいっていうか。そういう格好もすごく似合うって」

 それを聞いて夜宵は恥ずかしそうに縮こまりながら、ポツリと呟く。

「うん、そうなんだ。ありがとう」

 とはいえこんな肌色面積九十パーセント越えの女の子と狭い試着室内で向かい合うのは心臓に悪すぎる。
 夜宵のきわどい水着姿を目に焼き付けておきたい、でもジロジロ見てたら嫌われるかもしれない、そんな葛藤がヒナの中で渦巻く。

「えっと、その水着が恥ずかしすぎて試着室から出れないのはわかった。けど、俺には見られていいのか?」

 ヒナをわざわざ試着室に呼んだ彼女の真意を問う。
 夜宵は俯いたまま、蚊の鳴くような声で答えた。

「もちろんヒナに見られるのも死ぬほど恥ずかしいけど、試着するって言ったんだからせめてヒナには見せないと有限不実行になると言いますか」

 羞恥心よりも義理を優先させて、恥ずかしい水着姿を見せてくれたらしい。

――いやいや、優先順位間違えてません? 夜宵ってこういうとこホント無防備っていうか危なっかしいよ。

 そんな風に思いながらもヒナは夜宵の水着姿に釘付けだった。
 この格好の夜宵を海やプールで衆目に晒すのはヒナにとっても好ましくない。
 しかし何か理由をつけて、もっと夜宵のセクシービキニ姿を見ていたい。
 そんな願望が芽生え、何とかヒナは彼女にこの水着を着続けてもらえる理由を探す。

「ところでお嬢ちゃん、この水着おいくら? 俺が買ってあげよう」
「えっ、なっ、何言ってるのヒナ?」

 反射的に欲望が口から洩れてしまい、夜宵に引かれた。

「買わなくていいし、こんな格好で海なんか行けないよ」
「うん、それはわかる。俺もこんなエッチな格好の夜宵を人前には出したくない。だから二人っきりの時に着てくれないか?」
「えっ? 二人っきりの時って?」

 夜宵が露骨に困惑した顔を見せる。
 一方のヒナは特に計画性もなく、思いつくままに言葉を吐き出す。

「家で二人で勉強してるときとか、かな?」
「家で勉強してる時に私水着になるの? 嫌だよ! おかしいよそれは」

 嫌がられてしまったがそれも当然だ。
 ヒナはそれでも思考を巡らす。
 水着になっても不自然じゃない場所。そして二人っきりになれる状況。
 この二つの条件を満たせば、夜宵はもう一度このビキニを着てくれるはず!
 そして彼の脳裏に天啓が舞い降りた。

「そうだ。お風呂だ! 水着を着て一緒にお風呂入ろうぜ!」
「え?」

 夜宵が固まる。
 しまった、とヒナは後悔した。
 流石にがっつきすぎて幻滅されたかもしれない。
 しかし夜宵の胸の内は違った。

――ヒナ、このエッチな水着そんなに気に入ったんだ。
――だったら、ヒナをドキドキさせる作戦に使えるかもしれない。

 夜宵からすればヒナは自分のことを女の子だと意識してドキドキすることなんて滅多にない、そう思っていた。
 だから数少ない彼をドキドキさせられるチャンスは逃すわけにはいかない。

「わかった。お風呂だね、二人っきりの時ならいいよ」

 と、恥じらいながらも夜宵は承諾するのだった。
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