59 / 125
第五章 お泊りに行きたい
#59 お泊まり初日の夜
しおりを挟む
夕食を終えた後、おばさんは夜勤へと出掛けていった。
今日の分の勉強ノルマは既に終わっているので、これからは自由時間だ。
「夜宵、ゲームして遊ぼうぜ」
そう言って俺はお泊まりセットに入れておいたゲームソフトと専用のコントローラーをリビングに持ってくる。
普段夜宵の家に行く時は夜宵の持ってるゲームで遊んでばかりだが、今回は折角の機会なので俺の持ってるものからオススメのゲームを持ち込んだ。
未知のゲームへの期待から夜宵が目を輝かせる。
「いいねえ、ヒナは何のゲーム持ってきたの?」
「これこれ」
改めて俺はソフトと直径三十センチくらいあるリング状のコントローラーを示す。
「リングファイトアドベンチャーだ。聞いたことあるだろ?」
「へー、なんか運動するゲームってことしか知らないや」
興味深そうに彼女はリング型コントローラー、通称リングコンを手に取る。
そしてそれを眺めながらしみじみと言葉を吐き出した。
「今までピストル型コントローラーとか、手裏剣型のコントローラーなんか見てきたけど、世の中には変な形のコントローラーが沢山あるんだねえ」
俺は夜宵のゲーム機、Standにソフトを差し込み、テレビに繋いでテレビモードの準備をする。
Standとは携帯ゲーム機として使うこともでき、テレビに繋いでテレビゲームをすることもできる最新の家庭用ゲーム機だ。
中でも夜宵の持ってるStandは、魔法人形というゲームのキャラクター達が描かれた特別製である。
以前俺と一緒にペアを組んで参加した魔法人形の対戦会で優勝賞品として手に入れたものだ。
今の夜宵はTシャツとショートパンツという動きやすい格好に着替えており、準備万端だ。
テレビ画面にゲーム映像が映し出され、いよいよ物語が始まる。
世界中の人に筋トレを強要する悪の筋肉魔王が現れ世界が危機に陥ったとき、主人公は相棒であるリングの精霊とともに魔王に立ち向かうというストーリーだ。
敵との戦闘が始まり。画面にコマンドが表示される。
プレイヤーはここで技コマンドを選択し、攻撃を行うのだ。
「さあ、夜宵。やりたい技を選択してみろ」
「えっと、じゃあこれで」
少し迷った後、夜宵が選択したのはスクワットだった。
テレビからリングの精霊のガイド音声が聞こえてくる。
『スクワット! 膝をゆっくり曲げて、腰を落として! お尻は後ろにつき出すように』
「えっ、えっ、えっ?」
困惑しながらも夜宵は画面に表示された見本通りの動きを真似る。
『その状態をキープ』
「う、ううぅ、無理、無理だよお」
中腰の状態をキープするという要求に耐え切れず、夜宵は背中から床に倒れ荒い息を吐き出した。
「スクワット二十五回とか、絶対無理だよお」
「キミの場合、一回もできなかったけどね」
やばい。引きこもりの夜宵にはちょうどいい運動になるかと思っていたけど、彼女の体力の無さは想像以上だった。
床に仰向けに倒れて息を吐く夜宵を見る。
呼吸する度に彼女の胸の膨らみが上下する光景は正直とてもエロかった。
目のやり場に困りながら、俺はフォローの言葉を吐き出す。
「まあ筋トレは無理なく自分のペースでやるものだよ。夜宵でもできそうな技コマンドが他にあるって」
「そ、そうだね」
夜宵は上半身を起こし、リングコンを操作する。
スクワットをキャンセルし、他の技コマンドを確認。
椅子のポーズ、リング上げ下げ等々、それぞれの技には脂肪燃焼や体幹強化などの効能が書かれている。
「あっ、これならできそう」
コマンド一覧を確認する中で夜宵は一つの選択肢に目を留める。
リングプッシュ。リングコントローラーを押し込むという腕の運動である。
なるほど、上半身を使うだけなので、これなら比較的楽かもしれない。
ついでに効能も確認する。バストアップと書いてあった。
なるほど。
夜宵がカーソルをリングプッシュに合わせた状態で、少しの間沈黙する。
そして俺に顔を向け、頬を赤らめながら言葉を放った。
「あ、あのね、誤解しないように。私はあくまでリングプッシュが楽そうだって思ったから選ぶだけでね。バストアップに釣られたわけじゃないから」
俺が敢えて黙ってたのに、どうしてこういう話題を口に出しちゃうかなこの子は。
お互い気まずくなるだけだと思うんですが。
「いや、別に釣られてもいいんじゃないか。女の子だしな」
とりあえず当たり障りない答えを返してみる。
しかし夜宵は不服そうに赤面したままだ。
「いや、その、ね。ホントに違うから」
どうしようこれ。なんて答えるのが正解なんだ。
胸のサイズを気にしていると思われたくないという意思は何となく伝わってくるが。
「そ、そうだな。夜宵の胸は今でも十分大きいもんな」
「えっ、えっ! うえええええええ!」
メチャクチャ動揺された。
顔を真っ赤にして泡を食った様子で、夜宵は控えめに主張する。
「あ、あのね、ヒナ。今のはちょっとセクハラ、ってやつじゃないかな?」
これセクハラなの? そもそも最初に胸の話題に突っ込んだのキミじゃん。
俺だってどう答えれば角が立たないか、メチャクチャ悩んだんだよ。
実際、夜宵の胸は同世代の女子と比べても平均以上のサイズはあるように見える。
あくまで目算であって、正確なサイズとかカップとか俺が知るわけもないんだけど。
「夜宵、違うぞ。これはセクハラではない。セクハラっていうのはな、性的な嫌がらせのことを指すんだ。今のは純粋な誉め言葉だからセクハラにはならないんだ」
とりあえず適当な理屈で反論してみる。
「えっ、うーん、そうなのかな? そうなの?」
俺の言葉を受け、夜宵はすぐに自信を無くし始めた。
なんか言い包められそうだぞこれ。
「そうそう、俺のはいやらしい意図なんて一切ない純粋な誉め言葉なんだって。夜宵ちゃん可愛い! スタイルいい! おっぱい大きい! 色っぽい! セクシー!」
とりあえずヤケクソで夜宵を説得にかかる。
「えっ、えっ、ヒナ! やっぱりこれってセクハラじゃないかな?」
「違うぞ。誉め言葉だ。キミは友達少ないから知らないかもしれないが、これくらいの会話は普通だぞ」
絶対に普通じゃないし、百パーセクハラなのだが、友達も少なく世間知らずの夜宵は、自分の常識に徐々自信が持てなくなっていった。
「えっ、えーっと、そうなのかな。でも凄く恥ずかしいよ」
リングコントローラーを胸元に寄せ、俺の視線をガードしようとする。
やばい、恥ずかしがって真っ赤になってる夜宵、すげえ可愛い。
っていうか、こんなんで言い包められちゃうなんて、本当にチョロすぎないか?
マジで将来が心配になるし、俺が一生守らないと。
改めて思う。
やっぱり夜宵って最高に可愛いわ。
その後、彼女は苦戦しながらもなんとか第一ステージの章ボスを倒した。
「はあ、はあ、やった。疲れた」
「お疲れ様、よく頑張ったな」
第一ステージはチュートリアル的な内容ではあるが、スクワットの一回すらできない夜宵にすればよく頑張ったと思う。
彼女は呼吸を整えながら、弱音を吐き出す。
「もう一歩も動けないし、明日から私、一生筋肉痛だよ」
「筋肉痛は不治の病じゃないからね」
そんなやりとりをしているとゲーム画面にメッセージが表示された。
『初めての冒険はどうでしたか? 体のどの部分を痩せたい、どこに筋肉をつけたいなど、目標を持って筋トレをすると効果的ですよ』
「目標かあ」
メッセージを読んで夜宵はポツリと呟く。
「夜宵はなんかあるか? 目標」
そう訊ねると夜宵は、うーんと唸る。
「ムキムキになってボディビルの宇宙大会で優勝したいよね」
「壮大な夢だなあ」
スクワット一回すらできない彼女には遥か遠い目標だろう。
汗を滴らせて爽やかな笑みを浮かべ、夜宵は宣言する。
「ヒナ、私頑張るよ。ムキムキになってそのうち、指一本でヒナのこと木っ端微塵にできるくらいのパワーをつけるから」
どうやら物騒な目標を立ててしまったようだ。
「まあ頑張ってくれ。気に入ったならこのゲーム貸すぞ?」
「ううん、自分で買う。ヒナより先にムキムキになるから」
苦しい筋トレを乗り越え、もうやりたくないと言うかと思ったが、謎の向上心が芽生えたようだ。
「頑張る。バストアップ」
誰にも聞こえないように小声で呟いたのであろうその言葉はバッチリと俺の耳に入っていた。
夜宵は十分大きいと思うけどね。
「汗かいたし、お風呂入ってくる」
「おう、いってらっしゃい」
フラフラと立ち上がった彼女は部屋の出口へ向かおうとしたところで、こちらへ振り向いた。
「あっ、やっぱりヒナが先に入る? お客様だし」
「いいよ。体冷やさない内に入りなよ。レディファーストってやつ」
うん、と頷きながらも夜宵は頬を朱に染めて、こちらを見つめながら言った。
「覗くのは、駄目だよ」
夜宵ちゃん、キミねえ。
俺はなるべく紳士的に振る舞おうとしてるのに、どうしてそういうこと言うの?
意識しちゃうじゃないか。
「夜宵、俺がコソコソと覗きなんてするような男だと思うか?」
「あっ、うんそうだよね。ヒナはそんなことしないもんね」
「そうそう、俺はコソコソなんてしない。堂々と乱入してやるから」
「乱入も駄目だって!」
恥ずかしそうに上目遣いでこちらを睨んでくる。
まったく恐くないし、むしろ可愛い。
「いいから、レディーのリフレッシュタイムを邪魔するほど俺は無粋じゃないよ。早く入ってきなさい」
夜宵の頭をポンポンと撫でながら俺はそう告げる。
「わ、わかったよ。わかりました。お風呂行ってきます」
彼女は不満げに口を尖らせながら、部屋を出ていった。
さてと、ゲームでもして待つか。
俺は紳士、俺は紳士、俺はジェントルマン。
これから先、なにがあっても心を乱したりしません。
丁度テレビにリングファイトアドベンチャーの画面が映っていたので、俺もやることにする。
ゲームを進めていると、風呂場の方から物音が聞こえた。
ドアを開閉する音、今から夜宵は風呂に入るようだ。
しばらくするとシャワーの流れる音が聞こえてくる。
う、うおおおお!
意識するな俺! 紳士であれ!
今、夜宵は壁を何枚か隔てたむこうで無防備な姿でとか、俺も一緒に入りたいとか考えるな!
煩悩退散!
そう念じながらテレビ画面を見る。
悪の筋肉魔王との戦闘に入るところだった。
うおおおおお! お前を倒す!
俺はテレビの近くにあったヘッドホンを装着し、シャワーの音をシャットアウトする。
やってやる! バンザイスクワット百回だああああああ!
今日の分の勉強ノルマは既に終わっているので、これからは自由時間だ。
「夜宵、ゲームして遊ぼうぜ」
そう言って俺はお泊まりセットに入れておいたゲームソフトと専用のコントローラーをリビングに持ってくる。
普段夜宵の家に行く時は夜宵の持ってるゲームで遊んでばかりだが、今回は折角の機会なので俺の持ってるものからオススメのゲームを持ち込んだ。
未知のゲームへの期待から夜宵が目を輝かせる。
「いいねえ、ヒナは何のゲーム持ってきたの?」
「これこれ」
改めて俺はソフトと直径三十センチくらいあるリング状のコントローラーを示す。
「リングファイトアドベンチャーだ。聞いたことあるだろ?」
「へー、なんか運動するゲームってことしか知らないや」
興味深そうに彼女はリング型コントローラー、通称リングコンを手に取る。
そしてそれを眺めながらしみじみと言葉を吐き出した。
「今までピストル型コントローラーとか、手裏剣型のコントローラーなんか見てきたけど、世の中には変な形のコントローラーが沢山あるんだねえ」
俺は夜宵のゲーム機、Standにソフトを差し込み、テレビに繋いでテレビモードの準備をする。
Standとは携帯ゲーム機として使うこともでき、テレビに繋いでテレビゲームをすることもできる最新の家庭用ゲーム機だ。
中でも夜宵の持ってるStandは、魔法人形というゲームのキャラクター達が描かれた特別製である。
以前俺と一緒にペアを組んで参加した魔法人形の対戦会で優勝賞品として手に入れたものだ。
今の夜宵はTシャツとショートパンツという動きやすい格好に着替えており、準備万端だ。
テレビ画面にゲーム映像が映し出され、いよいよ物語が始まる。
世界中の人に筋トレを強要する悪の筋肉魔王が現れ世界が危機に陥ったとき、主人公は相棒であるリングの精霊とともに魔王に立ち向かうというストーリーだ。
敵との戦闘が始まり。画面にコマンドが表示される。
プレイヤーはここで技コマンドを選択し、攻撃を行うのだ。
「さあ、夜宵。やりたい技を選択してみろ」
「えっと、じゃあこれで」
少し迷った後、夜宵が選択したのはスクワットだった。
テレビからリングの精霊のガイド音声が聞こえてくる。
『スクワット! 膝をゆっくり曲げて、腰を落として! お尻は後ろにつき出すように』
「えっ、えっ、えっ?」
困惑しながらも夜宵は画面に表示された見本通りの動きを真似る。
『その状態をキープ』
「う、ううぅ、無理、無理だよお」
中腰の状態をキープするという要求に耐え切れず、夜宵は背中から床に倒れ荒い息を吐き出した。
「スクワット二十五回とか、絶対無理だよお」
「キミの場合、一回もできなかったけどね」
やばい。引きこもりの夜宵にはちょうどいい運動になるかと思っていたけど、彼女の体力の無さは想像以上だった。
床に仰向けに倒れて息を吐く夜宵を見る。
呼吸する度に彼女の胸の膨らみが上下する光景は正直とてもエロかった。
目のやり場に困りながら、俺はフォローの言葉を吐き出す。
「まあ筋トレは無理なく自分のペースでやるものだよ。夜宵でもできそうな技コマンドが他にあるって」
「そ、そうだね」
夜宵は上半身を起こし、リングコンを操作する。
スクワットをキャンセルし、他の技コマンドを確認。
椅子のポーズ、リング上げ下げ等々、それぞれの技には脂肪燃焼や体幹強化などの効能が書かれている。
「あっ、これならできそう」
コマンド一覧を確認する中で夜宵は一つの選択肢に目を留める。
リングプッシュ。リングコントローラーを押し込むという腕の運動である。
なるほど、上半身を使うだけなので、これなら比較的楽かもしれない。
ついでに効能も確認する。バストアップと書いてあった。
なるほど。
夜宵がカーソルをリングプッシュに合わせた状態で、少しの間沈黙する。
そして俺に顔を向け、頬を赤らめながら言葉を放った。
「あ、あのね、誤解しないように。私はあくまでリングプッシュが楽そうだって思ったから選ぶだけでね。バストアップに釣られたわけじゃないから」
俺が敢えて黙ってたのに、どうしてこういう話題を口に出しちゃうかなこの子は。
お互い気まずくなるだけだと思うんですが。
「いや、別に釣られてもいいんじゃないか。女の子だしな」
とりあえず当たり障りない答えを返してみる。
しかし夜宵は不服そうに赤面したままだ。
「いや、その、ね。ホントに違うから」
どうしようこれ。なんて答えるのが正解なんだ。
胸のサイズを気にしていると思われたくないという意思は何となく伝わってくるが。
「そ、そうだな。夜宵の胸は今でも十分大きいもんな」
「えっ、えっ! うえええええええ!」
メチャクチャ動揺された。
顔を真っ赤にして泡を食った様子で、夜宵は控えめに主張する。
「あ、あのね、ヒナ。今のはちょっとセクハラ、ってやつじゃないかな?」
これセクハラなの? そもそも最初に胸の話題に突っ込んだのキミじゃん。
俺だってどう答えれば角が立たないか、メチャクチャ悩んだんだよ。
実際、夜宵の胸は同世代の女子と比べても平均以上のサイズはあるように見える。
あくまで目算であって、正確なサイズとかカップとか俺が知るわけもないんだけど。
「夜宵、違うぞ。これはセクハラではない。セクハラっていうのはな、性的な嫌がらせのことを指すんだ。今のは純粋な誉め言葉だからセクハラにはならないんだ」
とりあえず適当な理屈で反論してみる。
「えっ、うーん、そうなのかな? そうなの?」
俺の言葉を受け、夜宵はすぐに自信を無くし始めた。
なんか言い包められそうだぞこれ。
「そうそう、俺のはいやらしい意図なんて一切ない純粋な誉め言葉なんだって。夜宵ちゃん可愛い! スタイルいい! おっぱい大きい! 色っぽい! セクシー!」
とりあえずヤケクソで夜宵を説得にかかる。
「えっ、えっ、ヒナ! やっぱりこれってセクハラじゃないかな?」
「違うぞ。誉め言葉だ。キミは友達少ないから知らないかもしれないが、これくらいの会話は普通だぞ」
絶対に普通じゃないし、百パーセクハラなのだが、友達も少なく世間知らずの夜宵は、自分の常識に徐々自信が持てなくなっていった。
「えっ、えーっと、そうなのかな。でも凄く恥ずかしいよ」
リングコントローラーを胸元に寄せ、俺の視線をガードしようとする。
やばい、恥ずかしがって真っ赤になってる夜宵、すげえ可愛い。
っていうか、こんなんで言い包められちゃうなんて、本当にチョロすぎないか?
マジで将来が心配になるし、俺が一生守らないと。
改めて思う。
やっぱり夜宵って最高に可愛いわ。
その後、彼女は苦戦しながらもなんとか第一ステージの章ボスを倒した。
「はあ、はあ、やった。疲れた」
「お疲れ様、よく頑張ったな」
第一ステージはチュートリアル的な内容ではあるが、スクワットの一回すらできない夜宵にすればよく頑張ったと思う。
彼女は呼吸を整えながら、弱音を吐き出す。
「もう一歩も動けないし、明日から私、一生筋肉痛だよ」
「筋肉痛は不治の病じゃないからね」
そんなやりとりをしているとゲーム画面にメッセージが表示された。
『初めての冒険はどうでしたか? 体のどの部分を痩せたい、どこに筋肉をつけたいなど、目標を持って筋トレをすると効果的ですよ』
「目標かあ」
メッセージを読んで夜宵はポツリと呟く。
「夜宵はなんかあるか? 目標」
そう訊ねると夜宵は、うーんと唸る。
「ムキムキになってボディビルの宇宙大会で優勝したいよね」
「壮大な夢だなあ」
スクワット一回すらできない彼女には遥か遠い目標だろう。
汗を滴らせて爽やかな笑みを浮かべ、夜宵は宣言する。
「ヒナ、私頑張るよ。ムキムキになってそのうち、指一本でヒナのこと木っ端微塵にできるくらいのパワーをつけるから」
どうやら物騒な目標を立ててしまったようだ。
「まあ頑張ってくれ。気に入ったならこのゲーム貸すぞ?」
「ううん、自分で買う。ヒナより先にムキムキになるから」
苦しい筋トレを乗り越え、もうやりたくないと言うかと思ったが、謎の向上心が芽生えたようだ。
「頑張る。バストアップ」
誰にも聞こえないように小声で呟いたのであろうその言葉はバッチリと俺の耳に入っていた。
夜宵は十分大きいと思うけどね。
「汗かいたし、お風呂入ってくる」
「おう、いってらっしゃい」
フラフラと立ち上がった彼女は部屋の出口へ向かおうとしたところで、こちらへ振り向いた。
「あっ、やっぱりヒナが先に入る? お客様だし」
「いいよ。体冷やさない内に入りなよ。レディファーストってやつ」
うん、と頷きながらも夜宵は頬を朱に染めて、こちらを見つめながら言った。
「覗くのは、駄目だよ」
夜宵ちゃん、キミねえ。
俺はなるべく紳士的に振る舞おうとしてるのに、どうしてそういうこと言うの?
意識しちゃうじゃないか。
「夜宵、俺がコソコソと覗きなんてするような男だと思うか?」
「あっ、うんそうだよね。ヒナはそんなことしないもんね」
「そうそう、俺はコソコソなんてしない。堂々と乱入してやるから」
「乱入も駄目だって!」
恥ずかしそうに上目遣いでこちらを睨んでくる。
まったく恐くないし、むしろ可愛い。
「いいから、レディーのリフレッシュタイムを邪魔するほど俺は無粋じゃないよ。早く入ってきなさい」
夜宵の頭をポンポンと撫でながら俺はそう告げる。
「わ、わかったよ。わかりました。お風呂行ってきます」
彼女は不満げに口を尖らせながら、部屋を出ていった。
さてと、ゲームでもして待つか。
俺は紳士、俺は紳士、俺はジェントルマン。
これから先、なにがあっても心を乱したりしません。
丁度テレビにリングファイトアドベンチャーの画面が映っていたので、俺もやることにする。
ゲームを進めていると、風呂場の方から物音が聞こえた。
ドアを開閉する音、今から夜宵は風呂に入るようだ。
しばらくするとシャワーの流れる音が聞こえてくる。
う、うおおおお!
意識するな俺! 紳士であれ!
今、夜宵は壁を何枚か隔てたむこうで無防備な姿でとか、俺も一緒に入りたいとか考えるな!
煩悩退散!
そう念じながらテレビ画面を見る。
悪の筋肉魔王との戦闘に入るところだった。
うおおおおお! お前を倒す!
俺はテレビの近くにあったヘッドホンを装着し、シャワーの音をシャットアウトする。
やってやる! バンザイスクワット百回だああああああ!
0
お気に入りに追加
201
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた
久野真一
青春
最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、
幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。
堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。
猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。
百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。
そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。
男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。
とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。
そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から
「修二は私と恋人になりたい?」
なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。
百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。
「なれたらいいと思ってる」
少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。
食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。
恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。
そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。
夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと
新婚生活も満喫中。
これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、
新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件
マサタカ
青春
俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。
あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。
そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。
「久しぶりですね、兄さん」
義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。
ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。
「矯正します」
「それがなにか関係あります? 今のあなたと」
冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。
今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人?
ノベルアッププラスでも公開。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした
恋狸
青春
特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。
しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?
さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?
主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!
小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。
カクヨムにて、月間3位

俺の高校生活がラブコメ的な状況になっている件
ながしょー
青春
高校入学を前に両親は長期海外出張。
一人暮らしになるかと思いきや、出発当日の朝、父からとんでもないことを言われた。
それは……
同い年の子と同居?!しかも女の子!
ただえさえ、俺は中学の頃はぼっちで人と話す事も苦手なのだが。
とにかく、同居することになった子はとてつもなく美少女だった。
これから俺はどうなる?この先の生活は?ラブコメ的な展開とかあるのか?!
「俺の家には学校一の美少女がいる!」の改稿版です。
主人公の名前やもしかしたら今後いろんなところが変わってくるかもしれません。
話もだいぶ変わると思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる