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第五章 お泊りに行きたい
#53 夏休みの日課
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「できたよヒナ!」
シャーペンを机に置き、嬉々とした様子で少女はテスト用紙を俺に差し出す。
たった今までリビングのテーブルで向かい合い、集中した様子で問題を解いていたが、ついに全問解き終えたようだ。
腰ほどまで伸ばした長い黒髪を左側のみ黄色いシュシュで結わえてワンサイドアップにした髪型。
人形のように整った目鼻立ち、若干幼さの残る可愛らしい顔だちはどれだけ眺めていても飽きない。
「オッケー、なら採点するな」
そう言って俺は差し出された答案を受け取る
ああそうそう。
ついさっき、ヒナと呼ばれたが俺の本名はそんな可愛らしい名前じゃない。
俺は正真正銘の男子高校生で、ヒナというのはニックネームでありハンドルネームなのだ。
本名は日向太陽。苗字の最初をもじって、ヒナというわけだ。
今は夏休み。
約四十日の大型連休を過ごせるのは学生の特権である。
友達と旅行したり、あるいは部活やバイトに打ち込むなど、その過ごし方は人それぞれだろう。
さて、ここで俺の高校二年の夏休みを過ごし方について話そう。
今の俺は――いや俺達は勉強をしていた。
もちろん学生なのだから夏休みの宿題は与えられている。だがそれだけではない。
その宿題を進める傍ら、勉強を教えているのだ。
家庭教師のバイトと思うか? 残念ながら違う。
クラスの友達の家に来て勉強を教えているだけだ。バイト代なんてものは存在しない。
今俺が勉強を教えている相手は、今年の頭から約半年間、ずっと不登校を続けていた。
七月の始めに学校に行く決心をしてクラスに復帰したとはいえ、半年分の勉強が遅れていることは目を逸らすことのできない事実である。
だから俺が友人として勉強を教えているわけだ。
とはいえ不登校によって勉強が遅れていたのはそいつの自業自得。毎日が夏休みというような生活をしていたツケを今払っているだけだ。
そいつに付き合って俺の夏休みを犠牲にする義理はあるのか? 今の状況を客観的に見ればそんな疑問も浮かぶだろう。
彼女から受け取った答案を回答と照らし合わせて、マルとバツをつけていく。
今やらせていたのは一学期の中間試験の問題だ。
当然彼女は学校に来ておらず受けていなかったものだが、これまでの勉強の成果を計るのにはうってつけの問題と言えよう。
そして採点を終えると、俺は彼女に向かって微笑みを返した。
「九十五点、よくできたじゃないか」
「やった!」
喜色を浮かべながらガッツポーズをする彼女の名前は月詠夜宵。
ゲームに集中したいという理由で半年間不登校を続けた元・引きこもり少女である。
高得点をとって上機嫌な様子で彼女は言葉を吐き出す。
「まあ、私はやればできる子だからね。勉強だってちょっと本気を出せばこんなものだよ」
「やればできる子って、普段からやらない奴がそれを言うのはメチャクチャムカつくぞおー、って」
言いながら俺は彼女の頭に手を伸ばし、髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「キャー、ちょっとやめてってばヒナ」
笑いながら黄色い声を上げる夜宵に俺は言ってやる。
「嫌がるなって、これはテストでいい点とったご褒美の頭なでなでだぞ。ありがたく受け取れ」
「えっ、そうなの? そ、そうなんだ」
さっきまでやめてやめてって叫んでたのが一転、おとなしく俺の頭なでなでを受け入れてしまう。
チョロい。こんな簡単に言いくるめられてしまうなんてチョロすぎる。
こんなに素直すぎると将来が心配になるよ夜宵ちゃん。
彼女は俺のクラスメイトであり、元々は魔法人形というコンシューマーゲームを愛するプレイヤー同士としてネット上で知り合った間柄である。
ヒナというのもその時から使っているハンドルネームだ。
彼女の趣味はゲームや漫画。好きなものは美少女アニメやツイッターで流れてくる可愛い女の子のイラストなど。
まあぶっちゃけて言えばオタクであり、そして俺もオタクだ。
要するに趣味が合うし、話も合う。一緒にいて最高に楽しい親友である。
そして可愛い。
顔が可愛いのはもちろん、その性格も。
純真無垢で簡単に言いくるめられちゃうところも、コミュ障で初対面の相手には緊張してまともに喋れなくなっちゃうところも、とにかく喜怒哀楽の感情表現が豊かで、笑った顔も、困った顔も、ちょっぴり不機嫌な顔も全てが可愛くて愛おしい。
そうだ。俺はそんな彼女に密かに片想いをしているのだ。
本来であれば夏休みは学校がなく、クラスメイトに会う機会も減る。
だが俺は夜宵に勉強を教えるという名目で毎日彼女に会うことができる。
好きな子に毎日会える。これ以上に有意義な夏休みの過ごし方があるだろうか?
彼女と会えるなら、夏休み中、毎日机に噛りついて勉強を教えるだけの生活でも構わない。
それを灰色の夏休みと呼びたい奴は呼べばいいさ。
俺にとっては最高の夏休みだ。
「まっ、それにしても中間テストでこれだけいい点が取れるんだ。授業に追いつけるようになるのも案外早いかもな」
本当は夏休みいっぱいかかるかと思ったが、夜宵は呑み込みが早い。
今まではやらなかっただけで、本来はすごく頭がいいのかもしれない。
うちの学校はそこそこ偏差値高くて授業のレベルも高いはずだが、こうも簡単に解いちゃうんだもんなあ。
「私すごい? すごい?」
目を輝かせながらそんな風に聞いてくる夜宵。可愛いなちくしょう。
「ああ、凄いよ。正直俺は今の授業だってついていくのにやっとだからなー。夜宵みたいに呑み込みが早いのが羨ましいくらいだよ」
「えへへ、ありがと。でもヒナの教え方がいいお陰だと思うなー」
照れくさそうに笑ってそう返す夜宵。
その瞬間、可愛いポイント五兆点が俺の脳内で加算された。
シャーペンを机に置き、嬉々とした様子で少女はテスト用紙を俺に差し出す。
たった今までリビングのテーブルで向かい合い、集中した様子で問題を解いていたが、ついに全問解き終えたようだ。
腰ほどまで伸ばした長い黒髪を左側のみ黄色いシュシュで結わえてワンサイドアップにした髪型。
人形のように整った目鼻立ち、若干幼さの残る可愛らしい顔だちはどれだけ眺めていても飽きない。
「オッケー、なら採点するな」
そう言って俺は差し出された答案を受け取る
ああそうそう。
ついさっき、ヒナと呼ばれたが俺の本名はそんな可愛らしい名前じゃない。
俺は正真正銘の男子高校生で、ヒナというのはニックネームでありハンドルネームなのだ。
本名は日向太陽。苗字の最初をもじって、ヒナというわけだ。
今は夏休み。
約四十日の大型連休を過ごせるのは学生の特権である。
友達と旅行したり、あるいは部活やバイトに打ち込むなど、その過ごし方は人それぞれだろう。
さて、ここで俺の高校二年の夏休みを過ごし方について話そう。
今の俺は――いや俺達は勉強をしていた。
もちろん学生なのだから夏休みの宿題は与えられている。だがそれだけではない。
その宿題を進める傍ら、勉強を教えているのだ。
家庭教師のバイトと思うか? 残念ながら違う。
クラスの友達の家に来て勉強を教えているだけだ。バイト代なんてものは存在しない。
今俺が勉強を教えている相手は、今年の頭から約半年間、ずっと不登校を続けていた。
七月の始めに学校に行く決心をしてクラスに復帰したとはいえ、半年分の勉強が遅れていることは目を逸らすことのできない事実である。
だから俺が友人として勉強を教えているわけだ。
とはいえ不登校によって勉強が遅れていたのはそいつの自業自得。毎日が夏休みというような生活をしていたツケを今払っているだけだ。
そいつに付き合って俺の夏休みを犠牲にする義理はあるのか? 今の状況を客観的に見ればそんな疑問も浮かぶだろう。
彼女から受け取った答案を回答と照らし合わせて、マルとバツをつけていく。
今やらせていたのは一学期の中間試験の問題だ。
当然彼女は学校に来ておらず受けていなかったものだが、これまでの勉強の成果を計るのにはうってつけの問題と言えよう。
そして採点を終えると、俺は彼女に向かって微笑みを返した。
「九十五点、よくできたじゃないか」
「やった!」
喜色を浮かべながらガッツポーズをする彼女の名前は月詠夜宵。
ゲームに集中したいという理由で半年間不登校を続けた元・引きこもり少女である。
高得点をとって上機嫌な様子で彼女は言葉を吐き出す。
「まあ、私はやればできる子だからね。勉強だってちょっと本気を出せばこんなものだよ」
「やればできる子って、普段からやらない奴がそれを言うのはメチャクチャムカつくぞおー、って」
言いながら俺は彼女の頭に手を伸ばし、髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。
「キャー、ちょっとやめてってばヒナ」
笑いながら黄色い声を上げる夜宵に俺は言ってやる。
「嫌がるなって、これはテストでいい点とったご褒美の頭なでなでだぞ。ありがたく受け取れ」
「えっ、そうなの? そ、そうなんだ」
さっきまでやめてやめてって叫んでたのが一転、おとなしく俺の頭なでなでを受け入れてしまう。
チョロい。こんな簡単に言いくるめられてしまうなんてチョロすぎる。
こんなに素直すぎると将来が心配になるよ夜宵ちゃん。
彼女は俺のクラスメイトであり、元々は魔法人形というコンシューマーゲームを愛するプレイヤー同士としてネット上で知り合った間柄である。
ヒナというのもその時から使っているハンドルネームだ。
彼女の趣味はゲームや漫画。好きなものは美少女アニメやツイッターで流れてくる可愛い女の子のイラストなど。
まあぶっちゃけて言えばオタクであり、そして俺もオタクだ。
要するに趣味が合うし、話も合う。一緒にいて最高に楽しい親友である。
そして可愛い。
顔が可愛いのはもちろん、その性格も。
純真無垢で簡単に言いくるめられちゃうところも、コミュ障で初対面の相手には緊張してまともに喋れなくなっちゃうところも、とにかく喜怒哀楽の感情表現が豊かで、笑った顔も、困った顔も、ちょっぴり不機嫌な顔も全てが可愛くて愛おしい。
そうだ。俺はそんな彼女に密かに片想いをしているのだ。
本来であれば夏休みは学校がなく、クラスメイトに会う機会も減る。
だが俺は夜宵に勉強を教えるという名目で毎日彼女に会うことができる。
好きな子に毎日会える。これ以上に有意義な夏休みの過ごし方があるだろうか?
彼女と会えるなら、夏休み中、毎日机に噛りついて勉強を教えるだけの生活でも構わない。
それを灰色の夏休みと呼びたい奴は呼べばいいさ。
俺にとっては最高の夏休みだ。
「まっ、それにしても中間テストでこれだけいい点が取れるんだ。授業に追いつけるようになるのも案外早いかもな」
本当は夏休みいっぱいかかるかと思ったが、夜宵は呑み込みが早い。
今まではやらなかっただけで、本来はすごく頭がいいのかもしれない。
うちの学校はそこそこ偏差値高くて授業のレベルも高いはずだが、こうも簡単に解いちゃうんだもんなあ。
「私すごい? すごい?」
目を輝かせながらそんな風に聞いてくる夜宵。可愛いなちくしょう。
「ああ、凄いよ。正直俺は今の授業だってついていくのにやっとだからなー。夜宵みたいに呑み込みが早いのが羨ましいくらいだよ」
「えへへ、ありがと。でもヒナの教え方がいいお陰だと思うなー」
照れくさそうに笑ってそう返す夜宵。
その瞬間、可愛いポイント五兆点が俺の脳内で加算された。
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