ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第四章 学校に行きたい

#48 学校に行こう

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 ヴァンピィは俺の親友だ。
 ネットを通じて知り合い、魔法人形マドールをきっかけに仲良くなった。
 ツイッターで彼と絡むのは楽しくて、リアルでも会ってみたいとずっと思っていた。
 実際に会って、女の子だと知った時は驚いたが。

 彼女と遊ぶ内に、ネットの世界だけではわからなかった一面を知ることになる。
 コミュ障で初対面の相手と話すとメチャクチャ緊張して、でもそれを克服しようと頑張ってる姿がいじらしくて。
 純粋で感情表現が豊かで、笑った顔は最高に可愛くて、いくらでも喜ばせてあげたくなる。
 人の誘いを断るのが苦手で、見てると危なっかしくて、放っておけなくて、守りたくなる。

 彼女の魅力を沢山知った。
 彼女を思う俺の気持ちはどんどん大きくなり、気付けば友達の枠組みでは収まりきらなくなっていた。
 それでも。彼女は、待ってくれと言った。
 自分が『普通』に追いつくまで待って、と。
 彼女はまだ恋を知らない子供だから、今は俺の気持ちを伝えてもきっと困らせてしまう。
 だから俺は待たなければいけないんだ。

 けど、ひとまず今は一歩前進したことを喜ぼう。
 夜宵が学校に行きたいと言ってくれた。
 それは大きな一歩だ。明日から俺達はもっと一緒にいられる。新しい世界が待っている。
 だから俺は浮かれていたんだ。
 夜宵が泣き止むと、俺は彼女の両腕を掴む。

「よし、行こうぜ夜宵」
「えっ、どこへ?」

 呆けたようにそう吐き出す彼女に俺は答える。

「お前が行きたいって言ったんだぞ。学校だよ」

 俺達の学校はこの公園から歩いてすぐのところにある。
 俺は半ば強引に彼女の手を引っ張っていく。

「ちょっと、ヒナ! 今はもう放課後だし、ヒナは制服だからいいかもしれないけど、私は私服だし!」
「いいんだよ! 部活やってる奴はまだ学校にいる時間だし、服に関しては、まあ大目に見て貰えるだろ」
「適当過ぎるよヒナぁー!」

 フラフラな足取りの夜宵を半ば強制的に連れていく。
 やがて校門が見えてきた。
 運動部が活動中の校庭を抜けて、校舎に向かう。
 放課後のせいか、私服の夜宵もそれほど注目されなかった。
 そして俺は夜宵をこの場所に連れてきた。

「お前、二年になってから学校来てないから知らないだろ。ここが俺達の教室だ」
「もー、本当に強引なんだから」

 困り笑いを浮かべる夜宵と一緒に教室内に入る。
 窓から差し込む夕日が無人の机や椅子を照らしている。
 俺達以外に誰もいない教室は、どこか特別な感じがした。

「この窓際の席がお前の机だ」

 荷物も何もない空っぽの机を差し、そう教えてやる。

「ここが……」

 夜宵はその机に手をつく。
 机を撫でながら感慨に耽っているようだった。

「それで、その隣が俺の席な」

 隣の机をバンバンと叩きながら俺はそう主張する。

「えー」夜宵は一度苦笑いを浮かべた後「それは嘘でしょー」と言った。
「いや、マジマジ」
「嘘だー。ヒナと隣の席とか、流石に都合よすぎるよ」

 流石の夜宵もこんな露骨な話には騙されないらしい。

「すいません嘘です! でもホントにして見せるから、夜宵が登校したら先生に頼んで席替えしてもらう! 夜宵の隣にしてもらう!」
「やーだー、恥ずかしいよ。他の子に変に思われるじゃーん」

 そんな話をしながら、俺達は笑いあう。

「まあ俺と夜宵がリア充的な関係って誤解されちゃうかもなー。俺はそれでもいいけど」
「駄目だって。私達はリア充爆殺委員会なんだから、周りからリア充だと思われたら示しがつかないの」

 一体誰に対する示しが必要なのかはわからないが。
 そこで夜宵の視線が窓の外へ向く。
 何かに気付いたように彼女は窓辺に駆け寄った。

「あー、あそこの下校中のカップルが手を繋いでるー! リア充だよヒナ! 許せないよね!」
「うーん、手を繋いでるだけでカップル認定するのは短絡的じゃないか? ほら、俺達だってさっき手を繋いでここまで来たし」
「えっ」

 夜宵の表情が固まる。
 そして次の瞬間、顔を真っ赤にして否定の言葉を吐き出した。

「ち、違うよ。あれは手を繋いでたんじゃなくて、ヒナが強引に引っ張ってったの。誘拐だよ。人攫いだよ。ヒナは悪い人なんだから」
「そっかー、俺悪い奴だったのか」

 夜宵に犯罪者に仕立て上げられたので、他の罪人を糾弾して誤魔化すことしよう。
 俺も窓辺へと駆け寄り、夜宵の隣に並ぶ。
 そして外に向かって声を張り上げた。

「こらー、そこのカップルー! リア充爆発しろー!」
「そうだよ! 爆発しろ! リア充ども!」

 夜宵もそれに続いて叫ぶ。
 まあ窓は閉まってるので、外に声は聞こえてないと思うけど。
 そうして俺達は、ひとしきり叫んだところで大笑いした。
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