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第四章 学校に行きたい

#41 七月一日3

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 そこで光流が画像をアップする。
 四つん這いの女の子がこちらにお尻を向けている構図のアナログ絵だった。
 ラフ画段階なので裸に見えるが、きっとこのあと服を描いていくのだろう。

『このお尻のラインが絶妙な柔らかさの表現に成功してて、我ながら過去最高のエッチさを叩き出してると思います。
 あっ、ちなみにこの子は胸はあんまり大きくないのですが、この絵では四つん這いということもあって重力に従って大きく見えるだけなんです。というかこのおっぱいも自信作なんですよ。お椀型の素晴らしい美乳だと思いませんか?』

 どうやら、会心の絵が描けて興奮状態らしい。
 というか俺が学校でノンビリしてる間に、既に向こうは帰宅してお絵描きモードなのか。

 さて、全国のお兄ちゃんに質問です。
 妹が描いたエッチな絵を自信満々に送ってきて感想を求められたとき、どう答えるのが正解でしょう?
 男の立場から下手なこと言うとセクハラになるのに、女の子がおっぱいとかお尻とか言いたい放題なのズルいだろ。

『どうですお兄様。エッチぃですよね? 是非男性目線からのご感想をお願いします!』
『なあ光流ちゃん。お兄ちゃんにセクハラして楽しいかい?』
『えっ、それは勿論、最高に楽しいですよ』

 楽しいのか。これは大分重症だな。

『こういう時ヴァンピィさんだったら、この柔らかそうなお尻をがっしりと鷲掴みにしたいです、くらい欲望丸出しの感想を言ってくれるのに、お兄様ももうちょっと見習ってはいかがですか?』

 何を見習えというんだ何を。

『さあ、自分の性癖を曝け出して言葉にするのです! お尻とおっぱいをもみもみしたい、と』
『キミはそんなにお兄ちゃんに卑猥な単語を言わせたいのかい?』
『はい、お兄様が恥じらいながら卑語を口に出すところを想像するだけで最高に興奮しますから!』

 どうしようこのドS妹。
 俺の周りの女性陣はどうしてセクハラばっかりするんでしょうか?
 それにしても、こういうの珍しいな。
 今までは、たまごやきの正体が光流だって俺には教えてくれなかったし、こんな風にプライベートで絵を見せてくれることもなかった。
 俺はふと頭に浮かんだ疑問をメッセージにして送る。

『そういえばお前、学校の友達に絵を見せたりはしないのか?』
『えっ、見せてないですよ。恥ずかしいですし』

 まあこいつの描く絵は結構微エロよりだし、確かに見せ辛いか。

『あとオタク絵だとか馬鹿にされるの怖いですし』

 そうか。
 実際には光流の絵を馬鹿にする奴なんていないと思うけど、彼女が自分の絵に評価がつくことに臆病になるのはわかる。
 自分の作品が大事だからこそ。
 他人の感想は気になる反面、同時に怖くもあるのだ。

『ヴァンピィさんは私の絵を誉めてくれました。なんというか、上っ面の言葉でなく、性癖丸出しの素直な感想を毎回くれるのがとても嬉しいんです』

 うん、ネットの世界のヴァンピィさん、恥じらいとか無いもんな。おパンツ食べたいとか、平気で言っちゃうもんな。
 可愛い絵ですね、なんて無難な感想を呟くのも悪くはないだろう。
 ただヴァンピィくらいオーバーな表現で感想を伝えた方が描いた側としてもわかりやすく嬉しいのだろう。
 いや、もっと単純に光流と夜宵の嗜好が似通ってるからこそ、光流の描いた絵が夜宵の性癖にぶっ刺さっているのかもしれない。

『ネットの友達は学校の友達とは違いますね。私、ネットの世界でヴァンピィさんに会えて良かったと思います』

 光流の言いたいことは何となくわかる。
 もしリアルの友達に光流の絵を見せて、その相手がオタク絵を受け付けない人間だったら光流は傷つくことになるだろう。
 だが逆にツイッターに絵を上げる行為は、最初からオタク絵を好む人間が向こうからやってくるわけだ。
 そういう場所だからこそ、光流と夜宵は出会い、友達になれた。
 学校の友達とは違う。光流が遠慮なく自分の絵を見せられる相手。それはインターネットの世界だからこそ得られた関係だ。
 それは夜宵にとっても貴重な関係だろう。
 夜宵は一年の頃もクラスに友達がいなかったと水零から聞いた。
 だが学校という場では友達を作れなくても、違う形で出会うことができれば彼女も友達を作ることができるんだ。
 それをこの前のオフ会を通じて気付くことができた。
 夜宵だって友達を全く作れないわけじゃない。
 きっと前に進める可能性はある。そう思った。
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