ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第三章 オフ会に行きたい

#36 半分こ

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 会場に残っていた知り合いに夜宵が挨拶を終えるのを見届けると、俺達は四人で外へ出て駅を目指す。
 夕焼け空の下、光流と夜宵の二人が先行し、その後に俺と琥珀が並んで歩く。
 前を行く光流は夜宵に話しかけた。

「ヴァンピィさん、いえ夜宵さんってお呼びしていいですか?」
「えっ!」

 夜宵が驚きに言葉を失ってるのを見て俺は彼女の疑問を代弁する。

「なんで本名知ってるのよお前」
「さあ、何故でしょう?」

 光流は俺の方を振り向き、惚けたように人差し指を唇に当てる。

「そうか、お前ら俺のツイッター乗っ取った時、DMも見たんだな」

 DMでは本名でのやりとりもしていた筈だ。
 ヴァンピィの正体が女の子だっていうのもそれで知っていたのだろう。

「ところで、お兄様と夜宵さんってリア友なんですか?」
「まあ同じクラスではあるが」

 最初の出会いはネットがきっかけなので、リア友に分類できるかは怪しい。

「ということは夜宵さんは私の先輩にあたるわけですね」
「えっと」

 反応に困ってる夜宵に向けて、光流は告げる。

「改めまして、たまごやきこと本名は火神光流といいます。夜宵さんとは今後ともネットとリアル両方で仲良くしたいと思います」
「火神?」

 それを聞いて、夜宵は不思議そうな顔で俺を見た。

「兄妹なのに苗字違うの?」
「従妹なんだよ」

 簡潔にそう説明すると、光流が割り込んでくる。

「はい、私は幼い頃に両親を亡くして以来、お兄様のいる日向家でお世話になっています」
「そ、そうだったんだ」

 夜宵の表情が暗くなる。デリケートな話題に触れてしまったとことを悔やんでるようだ。

「勝手に殺すな。キミの両親バリバリ生きてるからね。電話とかでしょっちゅう話してるだろ」

 初対面の相手に出鱈目を吹き込む従妹に釘を刺しておく。

「あら、ごめんなさい。夜宵さんが純粋過ぎて、からかいたくなっちゃいました」

 口に手を当て、全く悪びれない様子で笑う光流。

「えっ、えっ、ええ?」

 ほら、夜宵の奴困ってるじゃないか。

「じゃあ次は私の番っすね! 夜宵先輩!」

 そこに琥珀が割り込み、夜宵の視線がそちらに向いた。

「虎衛門こと、本名は白金琥珀って言いまっす! 夜宵先輩、また対戦しましょう! 今度はリベンジするっすよ!」

 テンション高く夜宵の両手を握りながら、ぶんぶんと上下に振る琥珀。

「えっ、うん。よろしく」

 コミュ力お化けの元気さに夜宵もちょっと引き気味だった。

「夜宵先輩、マジで強かったっすから! ずっとジャック使ってるらしいっすけど、思い入れとかあるんすか」
「あっ、うん、ジャックってカッコいいから。あの、ね、ほら、ストーリーで洗脳された王子がジャック・ザ・ヴァンパイア使ってきた時に一目惚れしちゃってさ」
「あー、わかるっす! あのバトルってBGMも相まって最高に燃えるんすよね! 洗脳が解けた後に王子からジャックを託される展開も熱いっすよね。そりゃもうジャック使いたくなりますね」

 いや、案外ポンポンと話題を振ってくれる琥珀みたいなタイプの方が、夜宵とは相性がいいのかもしれないな。
 琥珀との会話がひと段落つくと、今度は光流が夜宵と話し始めた。

「実は次の絵の構図が何も思いつかないんですよね。なんというか服を着てるけどえっちいみたいな絶妙なアイディアが欲しいんですが」
「パンチラとかじゃ駄目なの?」
「うーん、もうちょっとインパクトが欲しいんですよ」
「じゃあいっそ、スカートの下までパンツ下ろしてみるとか。スカートを履いてるけど、紐パンの紐がほどけて足元に落ちてしまいました。さてスカートの中はどうなってるでしょう? みたいなの」
「そ、それです夜宵さん! ナイスアイディアです! どうしてそんなエッチなことを思いつくんですか! 夜宵さんはエロの神様ですね!」
「そ、そうかな? 褒められると照れるよ」

 エロの神様は誉め言葉の分類でいいのかよ。
 というか夜宵って初対面の相手には言葉に詰まることが多いけど、光流とは普通に話せてるよな。
 実はこの二人、メチャクチャ波長が合うのかもしれない。
 光流、琥珀、この二人がこんなに夜宵と仲良くなるなんて。
 複雑な思惑が絡み合って出ることになったオフ会だが、終わってみれば来て良かったと思う。
 夜宵にこんなに友達ができたんだから。
 そんな風に感慨に耽っている内に駅に到着した。

「じゃあな、光流、琥珀、お前らは先に帰ってろ」
「お兄様は一緒に帰らないんですか?」
「えー、先輩はどこ行くんすか!」
「俺は夜宵を家まで送ってくからさ」

 ということで俺達はここで二組に分かれる。

「夜宵先輩、また勝負しましょう! 勝ち逃げは許さないっすよ!」
「夜宵さん、またパンツとかお尻とかおっぱいの話、しましょうねー」

 光流ちゃん、ここ駅構内だから、もうちょっと発言に気を遣ってくれ。周りの人がびっくりしてるからね。

「うん、二人ともありがとう!」

 そんな別れの挨拶をして、別々のホームを目指す。
 目的の電車はすぐに到着した。
 そして電車に揺られること十数分、夜宵の家の最寄り駅へ到着し、俺達は帰路につく。
 彼女の家の前についた時、俺はずっと言おうと思っていたことを切り出した。

「なあ夜宵。今日の賞品、お前が持っててくれ」

 紙袋を示しながら俺はそう告げる。

「えっ」

 俺の言葉に、夜宵はびっくりした顔を見せた。

「そんな。今日はヒナに助けられてばっかりだったし、ヒナが貰ってよ」

 あ、あれ? すんなり受け取ってもらえるかと思ったが、そうもいかないようだった。
 どうしよう。
 俺は妥協点を探る。

「じゃあさ、半分こっていうのはどうだ?」
「半分こ?」

 俺は箱を開き、中からゲーム機を取り出す。
 本体裏面に沢山のマドールが描かれたStandスタンド、それと同様にマドールが描かれた両端のアタッチコントローラー。
 俺はゲーム機の両端についたAコンを取り外す。

「まずAコンは俺が貰う」

 言いながら鞄から自分のStandスタンドを取り出し、そのAコンを外す。
 そして賞品の特別製Standスタンドに自分のAコンを取り付けた。

「代わりに俺のAコンをトレード。こいつがお前の分だ」
「ヒナ」

 夜宵は頬を上気させながら特別製Standスタンドを受け取った。
 優勝賞品と、俺が使ってたコントローラーの合体品。
 それを胸に抱え、表情を綻ばせた。

「えへへ、ありがとう。大事にするね」

 うっ、やばい。夜宵の嬉しそうな顔、滅茶苦茶可愛いぞ。
 それとゲーム機の箱を彼女に渡す。中にはまだ諸々の付属品が入っているのだ。

「ところで夜宵、初めてのオフ会はどうだった?」
「それはもう、疲れたよ。沢山の人と話したし、お家帰ったらアニメでも見て可愛い女の子に癒されたいー」

 力の抜けた笑みをでそう答える彼女に、俺も苦笑を返した。
 なるほど、夜宵らしい答えだ。

「あっ、でもさ。もしまたこんな機会があったら、ヒナと一緒にまた――」

――オフ会に行きたい

 暖かな風の吹く六月の夕暮れ。
 花開くような彼女の満点の笑顔を見れたのが、今日一番の収穫だった。
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