ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋

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第三章 オフ会に行きたい

#27 スナイパーたまごやき

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 紅蓮に燃える翼をはためかせ、プロミネンス・ドラコは荒野のフィールドを翔ける。
 果てしなく広がる大地の先に街が見える。
 俺の目的地はそこだ。
 ウェスタンフィールド、まるで西部劇に出てきそうな古風な街並みのバトルフィールドである。
 マップ表示を見ると、現在森林フィールドにて夜宵と琥珀が交戦中であることがわかった。
 夜宵の援護に行くための最短ルートはこの街を通過する事なのだが、そこに一切移動する様子のない敵機の反応がある。
 待ち構えている、というわけか。
 やがてプロミネンス・ドラコが街に到着する。
 建物と建物の間を横断する大通りに、ガンマンの格好をしたウサギ型のマドールが立っていた。
 ラビット・バレット、光流の操るマドールだ。
 こんな遮蔽物も無い場所に棒立ちとは、狙い撃ちしてくれと言ってるようなものだろう。

「何か罠でも張ってるのか? 光流たまごやき

 立体映像を挟んだ向かいにいる亜麻色髪の少女に、俺はそう問いかける。
 彼女は陽だまりの様に暖かな笑みを浮かべながら言葉を返した。

「心外ですね。私はただ純粋にお兄様と遊びたくて待っていたんですよ。ここを通りたければ私を倒していけー、って奴ですよ」

 楽し気な言葉と共に光流はピストル型コントローラーの引き金を引く。
 それと同時にウサギガンマンがホルスターから銃を抜いた。
 銃身の長い二丁の拳銃を両手に構え、空を舞う赤竜を狙う。

 来るか!

 その銃口が黄金の光線を吐き出す。
 迷いなく赤竜に向けて放たれたそれを躱しながら、右手に炎の球を生み出して反撃を放った。
 火炎球ファイアボール三連弾!
 大通りに火の球が次々と落下し、街を赤く染める。
 そんな中、ウサギガンマンは華麗な身のこなしで火球を避けていく。
 互いに遠隔攻撃を得意とする機体同士の射撃戦だ。
 ラビット・バレットは俊敏な動きで地面を駆け抜け、建物の屋根へ飛び乗る。
 そしてすかさず光線銃を構え、ビームを連射してきた。

「くっ」

 俺はアナログスティックを倒しながらプロミネンス・ドラコを操作し、空中で敵の攻撃を躱す。
 もっと距離をとるべきか?
 いや、離れれば敵の攻撃を回避しやすくなるが、こちらの攻撃だって見切られやすくなる。
 光流の狙いが俺と夜宵を合流させないための時間稼ぎだとしたら、ノンビリはしていられない。
 ここは多少のダメージ覚悟でもラビット・バレットに接近し、回避のできない至近距離から火炎球ファイアボールを撃ち込む。
 そう判断すると、俺はプロミネンス・ドラコを操作し直進させる。
 屋根の上にいるウサギガンマンに一直線に迫る。
 当然相手もレーザーガンで迎撃してくるが、そこで赤竜は左手を突き出した。
 左腕特性レフトスキル火炎壁ファイアウォール
 プロミネンス・ドラコの左手から炎の壁が展開され、ビーム攻撃を打ち消す。
 近づけば近づく程、敵のレーザー光線は数を増すが、その大半は火炎壁ファイアウォールで防げる。
 一、二発防ぎ損なったとしても掠り傷だ。気にする必要はない。

 そう思った瞬間だった。
 無数に放たれるレーザー光線の一つが、火炎壁ファイアウォールの範囲外からプロミネンス・ドラコの右腕に突き刺さる。
 同時にプロミネンス・ドラコの動きが止まり、地面へと墜落していった。

「何!」

 一体何が起こったのか。
 炎の竜の巨体は地面に叩きつけられる。
 俺は何とか態勢を立て直そうとコントローラーを操作するが、プロミネンス・ドラコは全く動かない。
 よく見ればプロミネンス・ドラコの全身に微細な電流が流れ、動きを封じていた。

「これは、停止フェイリア状態か!」
「お兄様。ラビット・バレットを甘く見過ぎですよ」

 上品に口元に手を当てながら、光流は笑う。

「ラビット・バレットの右腕特性ライトスキル天罰の光パニッシュ・レーザーを受けたマドールは五秒間、停止フェイリア状態となってあらゆる操作を受け付けなくなります」

 しまった。
 あの光線銃はただダメージを与えるだけでなく、停止フェイリアの追加効果を持っていたのか。
 ステータス表示を見れば特性スキルの確認はできた。
 光流の言う通り、敵を甘く見て確認を怠った俺の失策だ。
 建物の屋根の上に立つラビット・バレットが地面に倒れるプロミネンス・ドラコに銃口を向ける。
 こちらの動きを封じた今なら絶好の攻撃チャンスだろう。
 だが、意外なことに敵はいつまで経っても次の攻撃を放つ気配がない。
 どういうことだ? と訝しみながら俺はプロミネンス・ドラコの状態を確認する。
 停止フェイリアが解けるまであと一秒。
 そう思っていた時、ラビット・バレットの銃口から黄金の光線が放たれた。
 それは一直線にプロミネンス・ドラコの右腕へと向かう。
 停止フェイリア終了だ。これで動ける。
 そう思って、俺がボタンを叩いた瞬間、光線はプロミネンス・ドラコの右腕を貫いた。
 右腕ライトパーツに再びダメージが入る。
 同時にプロミネンス・ドラコは停止フェイリア状態となり、五秒間操作不能になった。
 そうか、光流の狙いはこれか。
 このゲームは、状態異常の時は他の状態異常にはならない。
 停止フェイリア状態が解ける前に天罰の光パニッシュ・レーザーを喰らっても、ダメージは発生するものの停止フェイリア状態が長引くわけではない。
 だから停止フェイリア状態が解けた瞬間に次の天罰の光パニッシュ・レーザーを当てて、再度停止フェイリア状態にする。これを繰り返せば無抵抗な相手に永遠にダメージを与え続けて倒すことができる。

 しかしそれを実現するには非常にシビアなタイミングで天罰の光パニッシュ・レーザーを発射する必要がある。
 停止フェイリア状態が解ける前にレーザーを当てても意味がない。
 停止フェイリアが解けた後であっても、少しでも隙があれば相手に回避や防御の行動を許してしまうだろう。
 早すぎても遅すぎても駄目。
 停止フェイリアが解ける瞬間、こちらの操作が効かないタイミングで打ち抜かないといけない。
 コンマ数秒レベルのタイミングを計らなければ、それは成立しないのだ。
 今回はたまたま上手くいったようだが、これが二度三度と続くわけがない。
 機械の様に正確無比なタイミングでのボタン操作など、人間業では不可能だ。

 案の定、光流はすぐには次の攻撃をしてこない。またこちらの停止フェイリアが終了する瞬間を狙ってくるのだろう。
 だがそうはさせない。
 次こそは天罰の光パニッシュ・レーザーを防ぐ。
 たった五秒、俺は停止フェイリアが解ける瞬間を待ち、全神経を集中する。
 残り一秒、そのタイミングでまたラビット・バレットの銃口から光線が放たれた。
 ラビット・バレットの位置からプロミネンス・ドラコまで攻撃が届く時間はおよそ一秒。
 頼む動け、早く動いてくれ!
 そう念じながら、コントローラーを叩く。
 停止フェイリアが解けた! そう思った瞬間、三度みたびレーザー光線はプロミネンス・ドラコの右腕ライトパーツを打ち抜いた。
 俺はコントローラーを操作したのに、プロミネンス・ドラコは動かなかった。
 今回も完璧なタイミングで天罰の光パニッシュ・レーザーは命中したのだ。
 これは、偶然で片づけていいのか?
 それとも、まさか。
 俺は光流を見る。彼女がバトルフィールドに向けて構えている黒いピストル型のコントローラーが目に入った。

「まさか、そのコントローラーの機能は」

 俺がそう呟くと、光流は上機嫌に微笑んで見せた。

「お兄様の想像してる通りです。このガンショット・コントローラーは指定したボタンを一定間隔で押す機能を持つ連射コントローラー。
 これを使えば、きっちり五秒間隔で天罰の光パニッシュ・レーザーを発射し続けることだって簡単にできます」

 機械の様に正確無比なタイミングでのボタン操作など、人間業では不可能だ。俺はそう思っていた。
 だが裏を返せば、機械ならそれができるのだ。
 光流は心底楽しそうに笑いながら、俺に死刑宣告を突き付ける。

「この試合が終わるまで、お兄様はもう二度とプロミネンス・ドラコを動かすことはできません。
 操作不能となったマドールが無抵抗に攻撃され続け、いずれ倒れる。
 お兄様にできるのは、それを黙って見守る事だけです」

 天使のように可愛い妹の笑顔が、今ばかりは悪魔の様に見えるのだった。
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